6 コミケに行くぞ(後)
「あはは、それはミアミアもとまちゃんも大変だったね!」
真夜さんがおかしそうに笑う。
友人のサークルが一段落ついたということで、こちらの様子を見にきてくれたのだ。
時刻は既にお昼近くになろうとしている。
あの後、俺が姿を消したままでいたことで一応事態は収拾した。
問題の中心である俺がいなくなることで、必然人が離れたようだ。
幸いなことにごねる人もほとんどおらず、大半は素直に事情を理解してくれたんだと思う。
消えたままだと当然お手伝いにならないのだが、とまるんとの話し合いの結果、そのほうがいいだろうという結論になったのだ。
姿を消した状態でも声を届けることはできるからね。
最初、とまるんの耳元で「ごめんね」と囁きかけると「ひゃっ!?」と驚かせてしまったので、それは悪いことをしたけど。
その後、小声でやり取りしたところ、とまるん曰く「ミアさんのおかげで予想以上に売れ行きがよくて、もう在庫もほとんど無くなりそうなのでここからは私一人で大丈夫です」とのこと。
なので、トラブルメーカーの俺は大人しく消えたままでいることにしたのだ。
途中、コミケのスタッフさんもやってきて事情を説明することになったりと、とまるんには本当に迷惑をかけてしまった。
本人は「迷惑なんてことないですよ。ふふ、ミアさんには申し訳ないですけどちょっと楽しかったです」なんて言ってくれたけど、俺自身からすれば猛反省だ。
はあ……。
公共の場に出る時はもっと考えないといけないな。
わかっていたつもりだったけど、イベントということでミア友と
普通に考えたら、そりゃそれ以外の人のほうが多いよね。
完全に盲点だった。
真夜さんがやってきたのは、とまるんも無事に持ってきた分のDVDを全て売り切り、撤収準備をしていた頃だった。
「やっほ、ミアミアどしたの?」
地面に体育座りをしてションボリしている俺に声を掛けてくれる。
真夜さんは霊視ができるから、姿を消した状態の俺を見つけることができるのだ。
事情を説明したところ、真夜さんは朗らかに笑った。
「ドンマイ、ミアミア! 長い人生そういうこともあるよ! 人間大事なのは失敗しないことじゃなく、失敗を繰り返さないことだからね! 学びを次に活かせば大丈夫さ!」
おお。
真夜さんがなんだかとても立派なことを言っている。
「真夜さん、なんか年上のお姉さんみたい」
「ん? 年上のお姉さんだよ? え? 私ミアミアより年上のお姉さんだよね? 今まで何だと思ってたの?」
憤慨する真夜さんに謝りながら、何とか気を取り直す。
そうだよな。
やらかしてしまったことは気になるけど、いつまでもクヨクヨしてても仕方ない。
俺が落ち込んでいると、逆に優しいとまるんに心配をかけてしまうだろう。
ここは無理にでも元気を出すところだ。
今回の反省点は自分の中で活かしつつ、もし次があれば絶対にとまるんの役に立ってみせるぞ!
俺は一人密かに奮起した。
「あ、そうだミアミア。話は変わるんだけどさ」
真夜さんが今までより更に声を潜めて言った。
「ここ結構いるよね? 大丈夫なのかな?」
何のことを言っているのかはすぐにわかった。
幽霊だ。
確かにざっと気配察知するだけでも十体以上の霊が確認できる。
やっぱり人が集まるところには寄ってくるのかな?
悪霊かどうかは実際に確認してみないとわからないが、いずれもそこまで大した力は持っていないようだ。
浮遊霊が賑やかな雰囲気に惹かれて寄ってきているといったところだろうか?
真夜さんは見えはするものの、相手の力量を感じ取ることはできないはず。
なので心配になってしまったのだろう。
俺は安心してもらえるように努めて柔らかい口調で言う。
「大丈夫だと思う。数は多いけどそんなにヤバいのはいないっぽいから。どうしても気にはなっちゃうだろうけど……」
チラリと人混みを見る。
すると、そこに紛れるように人より頭一つ高い枯れ木のような幽霊がいた。
俺に見られたことに気付いたのか、さりげなく後方に消えていく。
逃げたな。
まあまだ悪霊になってはいないっぽいのでこちらから手を出す気はなかったが。
「う、うん、あれとかも気になっちゃって」
そう言って真夜さんが指差した先には、スーツを着た男の幽霊がまるでトランポリンを使っているかのように何度も宙高く飛び上がっていた。
今いる場所からは若干距離があるが、確かにあれは目立つ。
あれも悪霊ではなさそうだが、何してるんだろう。
満面の笑みでビョーンポヨーンと飛び上がる様子は童心を感じさせる。
何だか楽しそうだなと思い眺めていると、目が合った。
男の霊が驚愕した表情を浮かべる。
次いで、少しだけ怯えたような仕草で落ちていくと。
そのまま再度上がってくることはなかった。
逃げたな。
相変わらず俺は幽霊からは好かれないみたいだ。
少しだけ悲しい気持ちになる。
「あれ、消えた。ミアミア何かした?」
「何もしてないよ。ただチキンが逃げただけだよ」
「あれ、なんか怒ってる!? どしたのミアミア!?」
怒ってないよ。
でもさ、ほら、ああやって脱兎のごとく逃げられるとちょっと傷つくわけで。
まあ幽霊社会は弱肉強食、力ある霊が畏れられるのは仕方ないことだとはわかったいるんだけどね。
とはいえ、もうちょっとこう、友好的な幽霊はいないものかと思ってしまう。
「むぅ〜……」
ふと気付くと、とまるんが何やら真夜さんのほうを睨んで頬っぺたを膨らませていた。
え。
と、とまるん?
「真夜ちゃん、今ミアさんと話してるんですか?」
「う、うん、そうだけど。どしたのとまちゃん? 頬っぺたがハムスターみたいになってるよ?」
「……ずるいです。真夜ちゃんばっかり」
どうやら、霊視ができないことで俺と話せないのが不満な様子。
意識してそうしないと、基本透明状態の俺の声は霊が見えない人には聞こえないのだ。
さっきの今なので姿を現すわけにはいかず、耳元で小声でなら話せるのだが、今とまるんが言いたいのはそういうことではないのだろう。
むうぅ〜と更に頬を膨らませるとまるん。
う、ううん。
前から言われてはいたが、やはり霊視できないことで仲間はずれにされるのが嫌なようだ。
しかしこればっかりはどうしようもないというか……。
どうすれば安全に霊視できるようになるかなんてわからないし、霊視できることが必ずしも良いことだとも思えない。
できないならできないままのほうがいいんじゃないかと思うのだが難しいところだ。
とまるんの悲しみに呼応したのか、ポッコちゃんがキャリーケースから顔を出して、俺のほうをジッと見つめていた。
な、なんだよ。
そんな目で見たってダメだぞ。
俺にはどうしようもないんだから。
とまるんを宥めるために姿を現せば、また騒ぎになってしまうかも知れないし、俺にできることはただそっと視線を逸らすことだけだった。
「あ、そ、そうだミアミア。これあげる」
そんな気まずい雰囲気を誤魔化すように、真夜さんが一冊の本を差し出した。
それは、『ミアちゃんと幼女』と題された同人誌だった。
え、あ、もしかして俺を題材にした同人誌!?
「あ、ありがとう真夜さん」
うわー、うわー。
なんか感動だ。
作者はひんにゅう先生と書かれている。
確かにコメントで同人誌を描いていいかと聞かれて、エロくなければいいと答えた記憶がある。
でもまさか、本当に作ってくれる人がいるなんて。
作者名から若干不穏なものを感じたが、開いてみると中はしっかりと健全な内容になっているようだ。
ポルターガイストでコッソリ浮かしながら読んでみる。
そこには心霊現象に困っている幼女を俺らしき女の子が助け、次第に仲良くなっていくという内容が描かれていた。
若干こう、なんだか、俺と幼女の距離感が妙に近いのが気になるが……。
もしかしてこれ
巻末で続編を匂わせているし、続きが出るなら読んでから判断しよう。
なんにせよありがたいことだ。
同人誌を作るのはかなりの労力がかかるだろう。
それだけの手間暇をかけて描いてくれたということだけで感謝しかなかった。
今度どこかでお礼したいな。
一瞬会いに行ってみようかとも思ったが、やはり先程の騒ぎを思い出してやめておいた。
こうして、俺の初コミケは多少の混乱を交えながらも終了した。
真夜さんは友人のサークルに戻ってしまったので、俺ととまるんは二人で一緒に帰ることにした。
俺は相変わらず姿を消していたので、小声で会話しながら家路を辿る。
「ミアさん、今日は本当にありがとうございました。それと、私頑張りますね!」
「う、うん。よくわからないけど、ほどほどにね?」
何をどう結論づけたのか、変にやる気になってしまったとまるんに不安が募る俺だった。
ま、まあ俺自身思うところはあったからね。
一つ、改めて試してみたいこともできたしお互い頑張っていけたらと思う。
しかし、今日は疲れたー!
帰ったら配信しよう!
◯
【しからば】幽霊配信者ミアちゃん応援スレpart18【御免】
203 視聴者の名無しさん ID:
ひんにゅう先生やるじゃん
204 視聴者の名無しさん ID:
いい本だった
205 視聴者の名無しさん ID:
ひんにゅう先生ってペンネームなんだな
サークル名かと思ってたわ
サークル名のさんにゅうってどういう意味なん?
206 視聴者の名無しさん ID:
>>205
三人で運営してるから三つの乳と書いて三乳
ひんにゅう、ばくにゅう、俺の乳の三人の作者がいる
207 視聴者の名無しさん ID:
俺の乳ってなんだよわろた
208 視聴者の名無しさん ID:
おっさんの乳なんか興味ないんですが
209 視聴者の名無しさん ID:
作者が女の子ならワンチャン
210 視聴者の名無しさん ID:
ヒゲモジャのオッサンだぞ
211 視聴者の名無しさん ID:
一部ではジェロニモって呼ばれてるオッサンだぞ
212 視聴者の名無しさん ID:
ジェロニモwwww
213 視聴者の名無しさん ID:
むさそうwwww
214 視聴者の名無しさん ID:
ちなみにひんにゅう先生は美人の女の人な
215 視聴者の名無しさん ID:
>>214
ほうほう続けて?
216 視聴者の名無しさん ID:
お前らそろそろスレチだぞ
217 視聴者の名無しさん ID:
今北
なんかミアちゃんの登録者数がすごい伸びてるけど何があったん?
218 視聴者の名無しさん ID:
>>217
しからば御免
219 視聴者の名無しさん ID:
>>217
コミケで宙に浮く幽霊の動画がバズった
220 視聴者の名無しさん ID:
>>217
ミアちゃんのコミケの様子をどっかのアホがツミッターにアップしたんだよ
それがバズった
女の子の幽霊がコミケに出たって
221 視聴者の名無しさん ID:
うわあ〜……
盗撮じゃんそれ
222 視聴者の名無しさん ID:
幽霊だから肖像権ないと思われたのかね
223 視聴者の名無しさん ID:
そんな深いこと考えてないと思うぞ
ただ面白そうだから上げただけだろ
224 視聴者の名無しさん ID:
実際バズってるしな
ミアちゃんのこと知らない人からすればセンセーショナルな話題ではあったんだろう
225 視聴者の名無しさん ID:
俺のミアちゃんが有名になってしまう……
226 視聴者の名無しさん ID:
>>225
俺のだから
227 視聴者の名無しさん ID:
>>225
>>226
俺のな
228 視聴者の名無しさん ID:
>>225-227
不細工な顔近付けんなよ
228 視聴者の名無しさん ID:
お前ら仲いいな
229 視聴者の名無しさん ID:
今回の件がなくても登録者12万人配信者様だぞ
元から有名なほうだったろ
230 視聴者の名無しさん ID:
今17万人か
20万も近いな
231 視聴者の名無しさん ID:
マジですぐいきそう
232 視聴者の名無しさん ID:
記念配信頼む
233 視聴者の名無しさん ID:
有名になるのが良いこととばかりも言えないのがなあ
ぎゃおーに目をつけられたみたいだし
嘘か本当か霊能力者も動き出したなんて話もある
234 視聴者の名無しさん ID:
>>233
ま?
ぎゃおーもウザイけど霊能者は本当ならヤバくね?
どこ情報?
235 視聴者の名無しさん ID:
霊能力者(笑)
なにができるんだよw
236 視聴者の名無しさん ID:
陰陽師とか?
マジでいるの?
237 視聴者の名無しさん ID:
ミアちゃんに手を出したら俺が許さんぞ
238 視聴者の名無しさん ID:
ぎゃおーって何?
239 視聴者の名無しさん ID:
>>238
他人に噛みついて生きてるクソ女
240 視聴者の名無しさん ID:
うわぁ……
どっちもうぜー……
241 視聴者の名無しさん ID:
ぎゃおー死ね
しねじゃなくて死ね
242 視聴者の名無しさん ID:
いうて霊能力者にミアちゃんをどうにかできるもんなのか?
実力的にもそうだけどバックにあの親父がついてるんだぞ?
下手に手を出したら訴えるどころじゃ済まんだろ
243 視聴者の名無しさん ID:
法的にどうなるんかね
詳しいやつおる?
244 視聴者の名無しさん ID:
誰が相手でも関係ない
ミア友の総力でミアちゃんを守るぞ
245 視聴者の名無しさん ID:
がんばれ
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