外伝 ゲーム堕天録ミアちゃん③

『ミアミア、マルオカート持ってるよね』


 ある日、真夜さんから連絡が来た。

 何でも、マルオカート八位以下即配信終了という企画をやった結果、僅か三戦で失敗したとのこと。

 

 マルオカートは最大十二人でプレイできるレースゲームだ。

 アイテムで相手の妨害こそできるものの、堅実に走ればそれなりの順位でゴールはできる。

 もちろん運も絡むし、根本的に実力がないと話にならないので、八位以下というのはある意味油断ならない条件ではあるのだが。

 

『ミアミア仇をとってー(泣)』


 さすがに僅か三戦、時間にすれば三十分ももたなかったことがショックだったのか、泣きついてくる真夜さん。


 もう仕方ないなあ真夜さんは。

 

 マルオカートを配信でプレイするのは十万人記念での大会以来だが、あれからちょこちょこと練習はしている。

 一位を一度も取れなかったという屈辱が、俺の向上心に火をつけたのだ。

 今では、オンライン対戦でもそこそこ安定した順位が取れるようになってきている。

 

 ふふふ、特訓の成果を見せる時が来たようだな。

 

「そんなわけで、マルオカート八位以下即終了配信をやっていくぞ!」


『草』『きちゃああ!』『ミアちゃん!』『なんかわろた』『何分もつかな?』『すぐ終わりそう』『おつみゃー』『おつみゃー』


「おつみゃーじゃないよ! まだ始まってもないだろ!」


 まったくもうミア友は!


「むしろ今日は多分ずっと終わらないからね。みんなには付き合わせて申し訳ないけど、二十四時間以上続くことを覚悟しておいてほしい」


『草』『ほんとぉ?』『大きくでたね』『二十四時間は草』『すぐ終わりそう』『イキりミアちゃん!』『一時間もつかな?』『おつみゃー』『おつみゃー』


 おつみゃーじゃないって言ってるだろ!

 ぶっ飛ばすぞ!

 

 まったくもう。

 ミア友は俺のゲーム力を甘くみすぎているのではないだろうか。

 そりゃ、今まではちょっと上手くいかなかったかも知れないけど、本来であれば俺はゲームは超得意なのだ。

 

 三位以下ならまだしも、八位以下なんて早々なるわけないじゃないか。

 

 鼻息荒く憤慨しながら、俺はマルオカートを立ち上げた。


「よし、やるぞ!」


 そして、野良で対戦を始める。

 幸いすぐに俺以外の十一人も集まったので、さほど時間をかけずにコース選択へと移ることができた。

 

 そして選ばれたコースだが。

 

「牛さんカントリーか……」


 勝ったな。

 

 俺は一人ほくそ笑んだ。

 落下するところがないのでコースアウトの心配がない初心者向けのコースだ。

 

 俺が八位以下を取るとしたら、唯一の懸念点がゴール直前、混戦からのアイテム攻撃されてコースアウトすることだったが、その心配も無くなった。

 

 純粋に得意ということもある。

 もはやどう足掻いても八位以下はあり得ないだろう。

 

 とりあえず初戦で終わりという事態は防げそうだ。

 俺は勝者の笑みをこぼした。

 

「勝ったな」


 思わず口にも出てしまう。

 

『草』『草』『フラグ』『フラグ立てんなww』『余裕こいてて草』『勝ったな(勝ってない)』『おつみゃー』『負けろ!』


 負けないよ!

 

 今日こそカッコいいところを見せてやるからな!

 見てろミア友!

 

 そしてレースが始まったわけだが。

 

「あ、あ、あ、あ、やめ、やめて……やめろ……やめろって言ってんだろ! やめろ!」


 俺は最下位付近を直走っていた。

 

『草』『おやおやおや?』『おつみゃー』『草』『おつみゃー』『狙われてて草』『ミアちゃん……』『わろた』『やめて差し上げろ』


 途中までは良かったのだ。

 調子よく一位を突っ走っていて、なんならこのままトップでゴールもあるかと思われた。

 

 しかし、トゲ甲羅による一撃から全てが狂った。

 スピンする俺のカート。

 とはいえ、まだまだ立て直せる、勝負はこれからだと思った直後。

 

 今度は赤甲羅による一撃をくらった。

 立ち直ろうとした直後だっただけに、ダメージは計り知れない。

 

 まじかよ。

 これはまずい。

 挽回できるか!?

 と思ったのも束の間。

 スターを使った後続キャラに跳ね飛ばされた。

 

 いやいやいやいや、おかしいだろ!

 今の絶対狙っただろ!

 憤慨する俺。

 

 しかし、憤る時間すらなかった。

 あれよあれよと順位を落とした俺は、トドメとばかりにまた赤甲羅をぶつけられ、余裕の最下位へと落ちた。

 

「嘘だ……やめろ……こんなこと……あっちゃいけない……」


 ひたすら最後尾をひた走る。

 既に最終ラップの半ばが過ぎている。

 ここからの逆転は不可能に近かった。

 

『ミアちゃん……』『可哀想』『現実を見ろ』『おつみゃー』『高速フラグ回収おつ』『おつみゃー』『そろそろ本気出していいぞ』『おつみゃー』『まだ開始十分なんですが』『おつみゃー』


 眼前には十一位のカートが見えている。

 しかし、俺を抜いたら火傷するぜとばかりに周囲に三つの赤甲羅を装備している。

 迎撃準備が整い過ぎてないか?

 

 最後の望みとばかりにアイテムを取るが、スピードアップアイテムのキノコが出た。

 俺は白目を剥いた。

 

「ううう……嘘だ、こんなこと……夢、そう夢に違いない……」


 一縷の望みに賭け、ダッシュする俺。

 しかし案の定、十一位を抜いた瞬間に三つの赤甲羅が飛んできて迎撃された。

 

「う、うわあああああ! ああああああ!? そんなあああ!? 嘘だあああああ!」


 そして、無惨にも最下位が確定となる。

 絶望感に苛まれ、俺は叫びながら配信を打ち切った。

 

『おつみゃー!』『おつみゃー!』『早すぎわろた』『可哀想で草』『おつみゃー』『イキるから……』『安定のフラグ回収』『ミアちゃん……』


 ちくしょう、ちくしょう。


 配信が終了し、ミア友のコメントも見えなくなった。

 心なしか暗くなった室内で一人悔しさを噛み締める。


 こんなはずじゃなかった。

 あれだけ特訓したのに。

 今回はたまたま運悪く連続攻撃をくらっただけで、本来ならもっと上手くやれたはずだ。


 もう一度やれば、今度は絶対に失敗しない自信があるのに。


 ……もう一度。

 

 ……。


 ……。

 

 俺はおもむろに新しい枠を立て配信を再開した。

 

『ん?』『お?」『おかえりー』『おかー』『ミアちゃん?』『あれ?』『どした?』『おかえりー』


「八位以下即終了とは言った」


 少しだけ目を逸らす。


「言ったが、終了した後に再開しないとは言ってない!」


『草』『草』『ええー!?』『わろた』『ミアさん?』『いいよ』『リベンジだ!』『それはちょっと……』『あきらめろん』


「もう一度だけ! もう一度だけチャンスを! 次はやれるから! さっきのはたまたまだから!」


『ええー?』『しょうがないにゃあ』『フラグ』『頑張れ』『やれるのか?』『ミアさん?』


「やれる! やれらあ!」


 そして俺は再度レースに挑戦し。


 何事もなく普通に九位を取った。

 

「……」


『草』『おつみゃー』『わろた』『これはひどい』『おつみゃー』『最速で草』『雑魚www』『ミアちゃん……俺恥ずかしいよ』『やれましたか……?』


 俺はそっと配信を打ち切った。


 ううう。

 ちくしょう、ちくしょう。


 もうこんなゲームやらないからな!


 その後、市子さんと一緒にマルオカートの猛特訓をすることになるのだが、それはまた別の話。

 

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