2 創造するぞ

「えーと、ここをこうして……、ここはこんな感じで……」


 その日、俺は廃墟で無色のエネルギーをこねこねしていた。

 

 新能力の検証も兼ねて、とある実験をしていたのだ。


『なんかすごい』『なにこれぇ』『こねこね』『工作かな?』『完全に粘土遊び』『ガキの頃似たようなことやったわ』


 せっかくなのでミア友にも見てもらおうと思い、事情を説明した上で配信をしているのだが。


 思い返すのは、口だけさんを復活させた俺の最後の能力。

 いわば創造能力とでもいえばいいのだろうか。

 

 仕組みとしてはポイントを使い何かを創り出すというシンプルなものだ。

 もちろん何でもというわけにはいかないし、創るものの格に応じて消費するポイントも増大する。

 

 口だけさんの場合は、元々本人を構成していた部分が丸々残っていたので、能力により器を創造、そこに中身を流し込んだ形になったわけだが。

 

 そこで俺は考えた。

 この能力を使い、真夜さんの新しいボディーガードを創れないだろうかと。

 

 今は市子さんに頼み込んで守ってもらっているが、さすがにいつまでもというわけにもいかない。

 市子さん本人があまり長く出張することを望んでいないようなのだ。

 かと言って、霊視できるようになった真夜さんをそのまま放置するというのも危険そうで落ち着かない。

 

 なら、何かに活用したいと考えていた新能力の出番なのではないかと思ったわけだが。


「結構ポイントかかりそうかな?」


『ふむ?』『やっぱり』『そんな気はした』『どのくらい?』『俺もミアちゃんにこねられたい』


 ……さすがに一個の生命を創り出すとなると相当なポイントが必要になりそうだ。

 

 正直、そんなに余裕があるわけではないのであまり大量の力は割けない。

 ならばなるべく簡略化して、ほぼ最低限の身体と命令を聞く機能だけ備えた自動人形のようにすればどうだろうかと思いつつ。

 

 必要があれば後から少しずつ強化すればいいからね。

 まずは創ってみてから考えよう。

 

 そんなわけで、俺は今、エネルギーをこねこねして新しい仲間を作ろうとしているのだが。

 

 現状、単なる工作配信になっちゃってるけど、これはこれで別にいいよね?

 

「う、うーん、意外と難しい……」


『なんぞこれ』『ぐちゃあ』『わろた』『ミアちゃん不器用?w』『この状態から生命が誕生するかと思うと震える』『混沌から産まれる命か』『生命ってそういうものかも知れないという哲学』『そして伝説へ』


 ぶ、不器用じゃないから!

 たまたまだから!


 しかし、なかなか思ったような形にならない。

 できるだけ可愛いやつにしたいと思っていたのだが、無駄を省いていくとどうしても単純な構造にしかできないのだ。

 

 そう、あくまで無駄を省くという工程で躓いているだけである。

 決して俺のセンスが悪いわけではないのだ!

 むしろ制限つきの中で良くやっているほうだからな!


 内心で言い訳しながら、そういえば俺、美術の成績は悪かったなと思い出す。


 ま、まあそんなことはどうでもいいか。

 今は目の前の作業に集中しないと。

 

 そしてこねまわすこと三十分ほど。

 ようやく出来たのが、紙粘土で作ったデフォルメされた人間のような生物だった。


 まさに最低限。


 市子さんサイズの身長に丸い頭。ずんぐりとした胴体に小さな手足と、雪だるまに手足を生やしたような存在になっている。

 

「……うーん?」


『草』『草』『弱そう』『可愛い』『弱い(確信)』『あれだけやってこれってw』『シンプルイズベストとも言うから……』


 う、うるさいよ!


 う、うううん?

 でも確かに正直微妙?

 

 のっぺらぼうはちょっと怖いので、一応目の部分に二つの穴を開けてみる。

 

 まあ見ようによっては可愛いと言えなくもないか?

 

 一応、俺と真夜さんを主と認識するよう、最低限の意思は持たせたつもりだが、ちゃんとできているのだろうか。

 

「ええと、君、声は聞こえる?」


 俺が話しかけると、人形はこくりと頷いた。

 意思疎通の問題はなさそうかな?

 

『動いた』『すげえ』『やべええええええ』『え、マジで生きてるの?』『すげえええええ』『謎生物誕生の瞬間である』『生き物を生み出すって最早神じゃん』『さすミア』『神ミア』『もしかして二次元の女の子とか創れるのか?』


 いやいやいや、さすがに神は言い過ぎだ。

 ぱっと見はすごく見えるかも知れないが、中身は大分手抜きだからね。

 そりゃ大量のポイントがあれば色々できると思うが、現状は俺のレベルが足りていない。


 こいつも生き物っていうよりは自動人形に近いと思う。

 言われたことに反応するだけみたいな。

 とてもではないが自慢できるレベルではない。

 

 まあでも、褒められると嬉しくなる自分もいるわけで。

 

 そうかな。

 すごいかな?

 へへへ。

 

 とはいえ、こんなのでも創造に数万ポイントは費やしている。

 新能力はやはりあまり使い勝手の良いものではないかも知れない。

 

 と言うようなことをミア友に説明していく。

 

『はえー』『いや十分すごい』『俺も一匹ほしい』『将来的にヤバい軍団できそうだな』『つまりミアちゃんが成長すれば二次元美少女を創れる可能性が……?』


 に、二次元美少女はどうかな?

 外見だけなら可能性あるかもだけど。

 俺の工作技術の問題もあるからね。

 

 なんにせよ、ひとまずは完成ということで、俺は性能チェックがてら悪霊退治をさせてみることにした。

 

 ボディーガードだからね。

 戦えないと意味がないのだ。

 

 そんなわけで、俺は人形君とカメラ師匠、チビ口だけさんとモニターくんを連れて外へと繰り出したのだが。

 

 なお、住所バレを避けるために、カメラ師匠にお願いして一旦配信はカット。

 現場に着いて少し待った後に再開してもらっている。

 

 そんなこんなで俺たちは夜の廃ビルへとやってきたわけだが。

 

 荒い息遣い。

 生物特有の爪が擦れるような足音。

 

 剥き出しのコンクリートの床を叩くような音を発しながら目の前に現れたのは、腐った死骸のような外見をした一匹の犬の霊だった。

 

 ドーベルマンだろうか。

 頬の肉は削げ、目玉は片方こぼれ落ち、内臓も一部はみ出している。

 しかし、残った片目が煌々と赤く、こちらを捉えている。


『モザイクw』『開幕モザイクで草』『見せられないよ!』『部分モザイク助かる』『でかいな』『ドーベルマンか』『強そう』


 ミア友の反応を見る限り、どうやらカメラ師匠が仕事をしてくれているようでホッとする。

 

 何があったのかはわからないし、痛ましい姿を見ると可哀想にも思えるが、相手はもう悪霊と化してしまっている。

 残念ながら退治するしかないだろう。


「人形君、やれる?」


 問いかけると、俺の右肩に座っている人形君が小さく頷いた。

 

 それとほぼ同時に、犬の悪霊がこちらに向けて駆け出してくる。

 牙を剥き出しにし、完全に戦闘態勢だ。

 

 あ、先手を取られた。

 ちょっとまずいかなと思った瞬間。

 

 人形君の腕が前方に向けて不自然に伸びた。


 そして、そのまま振り上げられたかと思うと、その先端、拳部分が異様なほど巨大化し、悪霊に向けて振り下ろされる。

 

 さながらハンマーのようだ。

 例えるなら巨人の一撃。


 哀れ、犬の悪霊はあっさりと潰され、塵のように霊気を霧散させ消えた。

 

 ……強くない?

 

『やべえええええ』『つええええ』『何今の』『一撃かよw』『手がおっきくなったんだけど』『強くて草』『ゴム人間かな?』『これは頼れる』


 ミア友も大盛り上がりだ。

 

 霊が倒れたことで、俺の中にエネルギーが流れ込んでくる。

 一応、人形君が倒した霊については、作成者である俺に力が流れる仕様になっている。

 何故そうしたかというと、人形君には最低限の意思しか持たせていないため、穢れた部分の除去ができない可能性を警戒したためだ。

 

 つまるところ混ざり対策である。

 

 強化は俺がポイントを分け与えれば済むことだからね。


 取り敢えず、今流れてきた分の無色のエネルギーをそのまま渡してやる。

 

 それから、何度か戦闘をさせてみたがどれも危なげなく勝利を収めていた。

 

 時には両手を巨大化させ、ハエ叩きのように。

 時には顔を巨大化させヘッドバッドで押し潰し。


 基本は身体の一部を巨大化させて潰す戦法だ。

 強敵相手にどこまで通じるか怪しい部分もあるが、弱めの悪霊相手なら万に一つも無さそうで安心する。

 

 なんにせよ、人形君、予想よりずっと強いかも知れない。


 悪霊に対する威嚇程度になれば十分だと考えていたのだが、嬉しい誤算である。

 なにせボディーガードなのだから強いに越したことはないのだ。

 

 これで真夜さんは大丈夫そうかな?

 少なくとも、人形君に何かあれば俺にも伝わる。

 仮に強敵と出会ってしまっても、真夜さんが逃げ、俺が駆けつける時間くらいは稼いでくれると期待したい。


 まあさすがに普通に暮らしていてそこまでの強敵と出会う機会はまず無いと思うけどね。

 いや、フラグじゃないよ?

 

「よしよし、真夜さんを頼むぞ」


 頭を撫でてやると、力強く頷いてくれた。

 

『頼むぞ』『可愛い』『俺もよしよしされたい』『こいつ欲しい』『量産して売ろう』


「量産するにはポイントが足りないかな?」


 逆に言えばポイントさえあれば軍団が作れそうではある。

 とはいえ、俺自身の強化もしないといけない。

 日々手に入る力の大部分はそっちに回しているわけだし、何万ポイントもかかるものを量産するというのはちょっと現実的じゃない。

 

 そもそもこいつ自身霊体なので普通の人には見えないからね。

 商売にするのは難しそうだ。


 ちなみに、試しに口だけさんにも何度か戦ってもらったが、どうやら現状でも牙持つ口を一つだけ扱えるようで、それを飛ばして悪霊を食らっていた。

 この分ならそう遠くないうちに力も戻るのではないだろうか。

 

「よし、じゃあ今日の配信はここまでかな? 人形君が思ったより強そうで良かった! じゃあそんなわけでみんな観てくれてありがとー! ばいみゃー!」


『ばいみゃー!』『ばいみゃあああ!』『おつー!』『人形強かったな』『ガチで量産してほしい』『今日もミアちゃん可愛いかった』


 そんなこんなで配信を終了する。

 実験の結果としては結構満足いく内容だったんじゃないかな?

 

 後日、市子さんと引き換えに、人形君を真夜さんに渡すととても喜んでくれた。

 その際、いつまでも人形君じゃ可哀想だし、真夜さんに名前をつけてあげてほしいと頼んでみる。


 すると、少し悩んでから『真夜騎士マヨナイト』という命名をしていた。

 

 ……う、うん。

 

 いや、真夜さんがいいならそれでいいんだけどね?

 ただちょっと予想の斜め上だったというか。


 やっぱり俺が自分でつければ良かったかな、と思わないでもないが、後の祭りである。

 

「私の騎士だからね! 頼むよ真夜騎士マヨナイト! 君を真宵第一騎士団の団長に任命する!」


 よくわからない騎士団まで誕生してしまったようだ。

 第二以降はあるのだろうか。


 わかっているのかいないのか、こくりと頷くマヨナイト。


 まあ真夜さんが喜んでくれたなら何でもいいか。


 俺はマヨナイトのその後の活躍を祈った。


 なんにせよ、しっかり真夜さんを守ってほしい。

 頼んだぞマヨナイト!

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