その後のお話

閑話 プールに行くぞ

「ミアミア! プールに行こう!」


 と言う真夜さんの誘いにのって、俺はのこのことプールへとやってきた。

 

 そもそも、俺は水に浸かれないとか、幽霊だから人に見られたら騒ぎになるのではと言った疑問の一部は、とまるんが解決してくれた。

 

「それなら、私の父がプライベートプールを持ってますので、是非みなさんで」


 お、お金持ちだ。

 薄々わかってはいたが、ブルジョワという単語が頭に浮かぶ台詞をこともなげに言ってのけるとまるん。

 

 まあ俺が水に入れないことに変わりはないが、周囲に見知らぬ人がいないというのはとても助かるわけで。

 

 友人ばかりであれば普通に可視化できるからね。

 せっかく遊びに行くなら、やっぱりみんなで楽しみたい。

 

 本当はミア友も楽しめたらいいけど、さすがに水着姿を見せるのは躊躇われる。

 そもそも、俺だけならともかく、今回は真夜さん、とまるん、ギャル子さんと綺麗どころが揃い踏みだ。

 

 さすがに配信はできないだろうから、後日思い出話だけで我慢してもらおう。

 

 そんなわけで、俺たちはとまるんパパが所有するというホテルのプライベートプールへとやってきたわけだが。

 

「おおー! 広いねとまちゃん! グッドプールだよ!」


 真夜さんがプールを見渡しながら叫ぶ。

 ちなみに真夜さんが身を包んでいるのはブルーのセパレートタイプの水着だ。

 ややゆったりとした上着に、短めのスカートが可愛らしい。

 

「真夜ちゃんありがとうございます。あ、ミアさん、水着可愛いですね。よく似合ってますよ」


 小さく微笑んだ後、とまるんが俺の水着を褒めてくれた。

 

 とはいえ、そこは元男の俺である。

 水着の良し悪しなんてよくわからないわけで。

 

 そもそも、小学生の女の子がどんな水着を着用するかなんてわかるわけがない。

 生前は身体が弱かったので水に入ること自体なかったし、授業のプールでは周りはみんなスク水だった。


 経験値が乏しいのだ。


 そんなわけで、俺の中では小学生のプールはイコールスク水なのである。

 なので、本日はスクール水着を着用していた。

 ミア友に散々言われたせいで、他に選択肢が浮かばなかったということもある。

 

 名札に書かれたミアの二文字が、幼さを強調しているようで、今更ながらに少し恥ずかしい。

 早まったかも知れない。

 明らかにお子様然としているので、似合っていると言われても喜んでいいものなのかどうか。

 

 対するとまるんは、薄緑のビキニにパレオを組み合わせている。

 正直、胸のボリュームがすごい。

 可愛いし似合ってるのはお前じゃい、と思うのだが、なんだろう。この胸の奥に生じるモヤモヤした気持ちは。

 なんだか、無性にとまるんのオッパイを引っ叩きたくなるような。

 

 俺は慌てて首を横に振った。

 いかんいかん。

 そんなセクハラみたいなことは断じてできない。

 

 とまるんは可愛い。

 とまるんは天使だ。

 

 ちょっとオッパイが大きいからって、イラっとくるなんてとんでもないことだ。

 

 俺は慌てて横を向いた。

 

「ん、どしたん、ミアっち? 何かあった?」


 顔を向けた先では、ギャル子さんが持ち込んだジュースを早速開けて飲んでいた。

 

 こぼれた一部が胸元に流れていっていて、妙に艶かしい。


 配信者仲間ということで誘ってみたら、二つ返事で来てくれたのだ。

 

 ギャル子さんは白いオフショルダーのビキニで、とまるんほどの露出は無いけれど、ギャル子さんの魅力がよく出ている。


 しかし、改めて見ると三人ともレベルが高いな。

 というか高すぎないだろうか。

 

 この面子に混ざると、自分一人だけがセンス皆無のようで、少しだけ落ち込む。

 みんな日頃からオシャレに気を遣っているからか、非常にハイセンスで可愛らしい。


 俺ももうちょっと良さげなやつをネットで探せばよかったかな……。


 俺は、自虐の意味も込めて変身能力を発動。

 浮き輪を身につけてみた。

 

 多分ものすごく似合っているのだろう。

 お子様には相応しい姿だ。


 うう。

 俺だって後三年生きていればボンキュッボンになっていたのに。


 自分でやっておきながら、複雑な気持ちになる。

 

「はわわわ、ミ、ミアさん、すごく可愛いです! しゃ、写真、写真撮ってもいいですか!?」

「え、う、うん、いいよ?」


 何故かとまるんが興奮しだしたのでオーケーを出しておく。

 スクール水着と浮き輪のセットが琴線に触れたのだろうか?


 便乗して、真夜さんとギャル子さんもスマホを構えたので、予期せぬ俺の撮影会が開始されてしまった。

 

「ミアミア、こっち見て! 笑顔で! いいよー、可愛いよー!」

「ミアっち、ポーズとってポーズ! もっとこう、大胆に!」

「はわわわ、はぁああ、あわわわわ、ミアさん素敵です!」


 なんだこれ。

 写真を撮られながら、ぎこちない笑顔を浮かべる俺。

 

 よく考えたら、こんな姿を電子媒体に記録されるなんて、末代までの恥なのではないだろうか。


 とんでもない事実に気付いてしまった俺は、慌てて身体を隠すように抱いた。

 

「い、いいから、ここまで! ストップ! せっかく遊びに来たんだし、早く泳ごう!」


 そう言って、プールに駆け出して一息に飛び込む。

 

 まあ、水の感触はしないから、あくまで隠れるくらいの意味しかないのだけれど。

 

「ミアミア待ってよー!?」

「ミアっち、照れ屋じゃん?」

「ああ!? 私のミアさんが!?」


 とまるんのじゃないよ。

 誰のでもないよ。


 よくわからないテンションになっているとまるんに笑ってしまう。


 まあそう言ってくれるのは嬉しいけどね。

 ふふふ。

 

 ちなみに、チビ口だけさん、市子さん、カメラ師匠、モニターくん、ポッコちゃんは泳げないのでプールサイドで日向ぼっこ中だ。


 そもそも市子さん以外は遊ぶという発想があるのかどうかも謎な面子である。

 ポッコちゃんが口だけさんに襲われないように注意だけはしておかないといけないが、基本は好きにさせていいだろう。

 

 ちなみに、市子さんなんかは、水着の代わりに素肌に髪の毛を巻き付けるというなかなか際どいスタイルをしている。

 本人は最高にイカす格好だと思っているようで、現在は肌を焼くと言ってチェアの上に横になっていた。

 

 人形の肌は焼けるのかというツッコミは置いておいて。

 

 あの際どい姿を配信に乗せたらR指定に引っかかるのだろうかという興味を覚えたが、俺は努めて見ないふりをした。


 それから俺たちはプールを満喫した。

 

 俺も泳げないなら泳げないなりの遊び方があるもので。

 ポルターガイストを使って波を起こしたり、水の一部を浮かせて空中ウォータープールを作ったりと、工夫しながら楽しむことができた。


 途中昼休憩の際、みんなで食べた焼きそばの味は当分忘れないだろう。

 本当に美味しかった。

 

 なお、帰り際市子さんを見ると、日に焼けて見事に劣化していた。

 

 あれは元に戻るのだろうか。

 市子さんもそれなりに力をつけてきているから、人形にあるまじき治癒力を発揮して回復するのかも知れないが。

 

 俺は自然回復することを祈って、努めて見なかったことにした。

 

 まあ本人が喜んでいるならいいのかな……。

 

 そうして、楽しい遊びから帰ってきた後、配信で今日あったことを伝えると、ミア友の一部からブーイングが起きた。

 

『ガタッ』『スク水!?』『スク水着たの!?』『見たい!』『ミアちゃんが楽しかったなら良かった』『みんなでプール……だと……?』『何故配信しなかったし』『スク水ミアちゃん!?』『おおお……俺が普通に過ごしている間にそんな神イベントが起こっていたとは……』『今すぐ変身して』


「嫌だよ変態! 何が悲しくて自室でスク水にならないといけないのさ!」


 それからしばらく、スク水を見たいというミア友と、絶対に見せたくない俺との間で押し問答が繰り広げられることとなった。

 

 なお真夜さん、とまるん、ギャル子さんの三人もそれぞれの配信枠でプールについて話したわけだが。

 その際、俺がスク水に浮き輪まで身につけていたことを暴露。

 おかげで、俺はミア友からしばらく揶揄われることになるのだった。


 ううう。

 あんなのつけなきゃ良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る