45 十万人記念配信をするぞ(前)

 そして、ついにこの日がやってきた。

 

 やってきてしまったというべきか。

 

 十万人記念配信の日である。

 

 俺は緊張に震えながらも、配信開始のボタンを押した。

 

「え、えーと、みんな聞こえるー?」


『きちゃー!』『こんみゃあー!』『こんみゃあああ!』『待ってた!』『聞こえるよー』『聞こえる』『ミアちゃん愛してる』


「ええと、良かった。じゃあ十万人記念配信始めるよー?」


『いえーい!』『888888』『ついにきたか』『十万人はすごい』『ミアちゃーん!』『ガチ楽しみ』『投げ銭したい』


「投げ銭したいって言ってる人ごめんね、ありがとう。改めて十万人まで来れたのはいつも応援してくれているミア友のみんなのおかげです。みんな本当にありがとう」


 俺は、日頃の感謝を込めて丁寧に頭を下げた。

 

『ええんやで』『ミアちゃん愛してる』『これからも応援します!』『こっちこそいつもありがとう』『もうミアちゃんがいないと生きていけない体になっちまった』


「うっ……ぐすっ。私なんて、みんながいなかったら、一人寂しく消えてたと思う。だから本当に本当にありがとう」


 不覚にも、涙が溢れてきてしまった。

 まだ枠が始まったばかりだというのに、こんなことでどうするのか。

 

『泣かないで』『ああぁぁ』『泣かないで』『すぐ泣くw』『ミアちゃんが消えないで良かった』『大丈夫?』

 

 俺は慌てて目元を拭うと、大丈夫、と笑った。


「えと、いつまでも湿っぽいのもアレだから、早速今日の予定を発表していくね。今日はまず、ゲーム大会から始まって、その後コスプレショー、プチライブとやっていく予定」


 俺は、この日のために作った予定表を画面上に表示する。

 

「そんなわけでまずはゲーム大会だね。ええと、そんなわけでみんな繋がってる?」


 俺が声を掛けると、『おっけー!』『繋がってます』『おけまる!』と、それぞれ確認の声が聞こえてきた。

 

 ゲーム大会をやるにあたって、俺が呼べる人を全部呼んだ形である。

 ビデオ通話での配信になるが、ゲーム自体はネット回線を通じて一緒にやれるので問題ない。


「もう自己紹介はいらないかもだけど、一応してもらおうかな? まず真夜さんから」

『はいはーい! マヨネーズじゃないよ、真宵だよ! 元気いっぱい胸いっぱい、真宵真夜です! 今日は優勝賞品が出るゲーム大会と聞いて、一番を狙いにきました!』


『まよまよキター!』『まよまよ!』『まよまよ愛してるぞー!』『賞品出るの?』『賞品って何?』『まよまよ頑張れ!』『そもそも何のゲームやるんだ?』


「ゲーム内容と賞品については自己紹介の後にね。はい、じゃあ次はとまるん!」

『はい、初めましての方は初めまして。配信者をやっております、夢音とまれと申します。ゲームはそんなに得意なほうじゃありませんが、今日は私も優勝狙っちゃいます!』


 とまるんが両手をグッと握り込む。

 

『とまぁ!』『とままぁ!』『とまるん頑張れ!』『賞品気になる』『とまるんがやる気になってるだと』『弱そう(確信)』


「とまるん頑張って! それじゃあ次はギャル子さん!」

『ほいほーい。やっぽー! 最近配信者に成り立てのギャル子でっす! 高二だよーん。ゲームはあんま自信ないけど、豪華賞品があるらしいから頑張ろっかなって思ってる! 応援よろー!』


『ギャル子さん!』『応援するわ』『頑張れー!』『豪華賞品!?』『みるみるギャル子さんの登録者増えてて草』『ギャル子さん結婚してくれ!』


「はい、じゃあそんなわけで、今日はこの三人に大会に参加してもらうことになりました! ここに、私と市子さんを加えた五人で優勝を競っていきます」


『草』『市子さん!?』『草』『さりげなく市子が入ってて草』『ゲームできるの!?』『市子お前……』


 そう、実は市子さんはゲームができるのだ。

 念力を使ってではなく、髪の毛をコントローラーに絡ませる形なのでパッと見はホラーなのだが。

 

 むしろ、暇な時などはよく対戦相手になってもらっているので、ゲーム自体はかなり上手い。

 

 実は優勝候補の一人だと睨んでいる。

 

「ちなみにやるゲームはこちら、マルオカートです! CPUありでステージをランダムに八回ほどやって、獲得ポイント数の多い人が優勝になります。ちなみに優勝商品は……みんなが喜ぶことが思いつかなかったので、私が可能な範囲で一つ言うことを聞く券になります」


『ガタッ』『まじ!?』『欲しいww』『報酬豪華すぎて草』『ガチのやつじゃん』『ミアちゃんが言うこと聞く券!?』『なんでもいいんですか!?』『欲しすぎわろた』


 最初はこんなものでいいのかなと思ったが、参加者みんなむしろ乗り気のようで、ありがたいような怖いような……。

 

 ま、まあ何を頼まれるのか知らないが、俺が優勝すれば問題ない話だ。

 主催者が勝つなんて一番盛り上がらないパターンかも知れないが、こればっかりは実力がものを言うので仕方ない。

 

 強すぎるというのも罪なものだと、みんなにはわかってもらわないとな。

 

 そうして、俺は意気揚々と対戦を始めたのだが。

 

「う、うわあああああ!?」


 俺の操る亀の親玉のカートが、緑甲羅をぶつけられスピンする。

 

 一位!?

 今一位走ってたのに!?

 

 ぶつけたのは市子さんのようだ。

 俺を追い抜いて、悠々と前へ進んでいく。

 

『草』『市子うめぇww』『うますぎわろた』『ミアちゃん頑張れ!』『一位市子は笑う』

 

 こ、この野郎。

 

 ようやく立ち直り、慌てて追いかけようとしたところ。

 

『あ、ごめんミアミア!』


 真夜さんが変身した巨大砲弾に跳ね飛ばされる。

 

 う、うわわわわわ!?


 再度コインを撒き散らし、転倒する俺。

 そのまま、動きが止まったところに。


 誰が使ったのか稲妻が炸裂。

 俺の自キャラは小さくなってしまった。

 そこへ。

 

『あ、ミアっち、どいてどいて!』


 ギャル子さんに踏まれていく。

 

 おう……。

 なんだこのコンボは。

 

 一気に最下位近くまで落ちてしまった。

 まだ最下位ではないのは、後ろにとまるんがいるからだ。

 

 いや、そのとまるんも今まさに俺を抜いた……かと思うと目の前の崖に落ちて消えていった。

 さすがとまるん。

 愛してる。

 

 結局、その回の一位は市子さんとなった。


 そうして、一回、二回と対戦を重ねていく。


 結果として、七回を過ぎたところで、市子さんの戦績が一位五回と圧倒的なことになった。

 最早優勝は確定的となり、配信者組のテンションはダダ下がりである。

 

『い、市子さん強いね』

『強過ぎます……』

『さすがのあたしもドン引きっしょ……』


 心なしかドヤ顔の市子さんである。

 ちなみに俺はというと、一位ゼロ、二位を二回、三位を一回、それ以下が四回という微妙な結果に落ち着いている。

 

 ぐぐぐ。

 悔しい。

 

 既に消化試合感があるが、せめて最後の一回くらいは一位にならなければ面目が立たない。

 

 実際、普段の対戦では、俺と市子さんにそこまで差は無かったはずなのだ。

 勝負は時の運とはいえ、市子さんが連勝できるなら俺にだって目はあるはず。

 

 勝負だ市子さん。

 

 プライドを自キャラに託し、俺は最後の戦いへと乗り出した。

 

 結果。

 

 カタカタカタカタ。

 

 市子さんがハイテンションに揺れまくる。

 勝ったのは市子さんでした。

 

 俺は敗北者だった。

 ちくしょう。

 

「ハァ……ハァ……」


 自然と息も荒くなる。

 

『草』『敗北者?』『市子強過ぎぃ!』『市子さん優勝おめでとう』『完全に一強だったw』


「えー、そ、そんなわけで、第一回ゲーム大会の優勝者は市子さんでした……おめでとう!」


 真夜さん達が手を叩いて祝福してくれる。

 

 悔しいが、結果は結果、認めなくてはならない。


 いや、今日はたまたま俺の調子が悪かっただけなんだからね!

 次があればこうは行かないぞ!


「そんなわけで、市子さん、今の心境をどうぞ」


 俺が水を向けてやると、市子さんの髪が伸びていき文字を形作る。

 

『強過ぎてごめん』


『草』『草』『確かに強過ぎたww』『市子ぇ』『調子にのるなw』『市子さんのファンになります』『強者の余裕を感じる』


 結局、その後、市子さんに何をして欲しいか希望を聞いたところ、案の定ポイントが欲しいというので二千ほど分けてやることになった。

 ぐぬぬ。

 

 

 ◯

 

 

 そして、ゲーム大会は終わった。

 真夜さん達にお礼を言って退出してもらう。

 

 なんだかんだで盛り上がったし、やっぱりみんなでやるゲームは楽しい。

 また機会を見つけてやりたいと思いつつ。

 

 さて、俺の本番はある意味ここからだ。


「じゃあ、次はコスプレショーをやっていくぞ!」


『きちゃあああ!』『やったああああ!』『待ってました!』『うおおおおお!』『コスプレ!』『スカートこい!』『スク水こい!』『なんかエロいのこい!』


 エロいのはこないよ!?


 スク水もこないけど。


 ちなみに、コスプレショーについても、事前に何のコスプレをやるかは伝えていない。

 どのキャラをやって欲しいか募集しようかとも思ったのだが、際どい衣装のキャラを選ばれても対応できない可能性が高い。

 

 それなら、いっそ全部自分で選んでしまおうと思い、ここまでシークレットでやってきたのだ。

 

「よいしょっと」


 ちなみに、廃墟だとこの時間帯は結構薄暗いので、俺はパソコンに真夜さんから借りたライトを外付けした。

 これでライトアップすれば、少し離れた場所でも結構良い感じに見えるのは検証済みだ。


 みんなが全身を見やすいように、少しだけ後ろに下がる。

 

「じゃあ、早速いくよ! まずはこれ!」


 そう言って、俺は一回転すると、衣服を変化させる。

 

 コスプレショーということで、俺の頭にまず浮かんだのは男時代に憧れたキャラ達だった。

 

 ミアになってからはそこまで漫画やアニメ、ゲームに触れていない。

 もちろん全くというわけではないので、有名どころは知っているが、それでも最低限と言える範囲だ。

 従って、男時代の俺をベースに考えたので、少しだけ趣味が古いかも知れないと思いながら。

 

 白いシャツに、青を基調とした鎧にスカート。

 茶髪のハーフアップがチャームポイントの魔導の女の子。

 

 某落ちものゲームの、ボクっ娘ヒロインに変身して、俺は小さく微笑んだ。

 

「ば、ばっよえ〜ん……」


 右手を顔まで持ち上げ、ワキワキしてみる。

 

 う、自分でしておいて何だが、かなり恥ずかしい。

 

 最後の一言は余計だったかも知れない。

 恐る恐るミア友の反応を窺う。

 

『かわええええええ』『やべえええええ』『くぁwせdrftgyふじこlp』『クオリティやべええええ』『好きすぎる』『こんな子が現実にいるの?』『結婚してください』


「え、へへへ、そ、そうかな? 似合う?」


 評判は悪くないようで、少し嬉しくなる。

 

 一応好きなキャラだったので、似合わないと言われたらどうしようかと思ったのだが。

 

 今回のコスプレ、服装や髪型、髪色こそ変えてあるものの、顔や身体は元の俺のままだ。

 そこまで変えてしまうとコスプレとは言えなくなると思ったからだが、だからこそ下手をしたら衣装がミスマッチになってしまうのではと危惧していたのだ。

 

 しかし、ひとまずは大丈夫だったようで。

 

「へへへー」


 俺は少しテンションが上がってその場で一回転した。


『可愛い』『やばい』『目覚めそう』『見え……ない』『もう俺ロリコンでいいや』『こんな可愛い生き物おる?』『抱きしめたい』


 いやいやいや、俺なんか元のキャラの魅力からしたら全然だろうけどね。

 でも、褒めてくれるのは嬉しいから続けていくぞ。

 

 覚悟しろよミア友!

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