40 約束するぞ

 次の日、俺は朝から己の力を確認していた。


 そう言うと厨二病みたいだが、マシラ戦後、明らかに強くなった感覚があったので、それがどういうものかを試していたのだ。

 しかし。


「うーん?」


 首を傾げる。

 正直よくわからない。


 例えるなら、筋トレをして力が上がったとしても、それをどう確かめていいのか困る感じだろうか。

 測る器具やらがあればいいのだが、残念ながら俺の知る限り幽霊の力の成長を計測する機械などない。


 試しに拳を振ってみるが、心なしか鋭い気がするというだけで、劇的な変化があるわけでもない。


 なんなんだろう。

 謎である。


 とはいえわかることもある。


 どうも、この感覚を得てからというもの、認識さらた際に人から得ることのできる力に変化があったのだ。

 具体的には、俺に向ける感情に応じて流れ込んでくる力の量が異なるようになったのである。


 以前は認識度合いによって多少の違いはあったものの、対象がこちらをどう思っているかなどはまるで関係なかった。

 強く意識してくれていれば、信者もアンチもポイント的には等しかったと言っていい。


 しかし、今では俺のことを大事に思ってくれている人ほど回収できるポイントが多い。

 これは一体どういうことなのか。


 推測ならば立つが、いかんせん答えを教えてもらえるわけではないので、確信までは得られない。


 まあこれについてはすぐに何かしないといけないという問題でもない。

 ひとまず事実は事実として受け止めて、今まで通り楽しい配信を心がけていこう。


 それよりも優先してしなくてはいけないことがある。

 そう、弱点の修正である。


 マシラ戦で露呈した俺の欠点は二つ。


 一つは気配察知だ。

 どうも、異空間にいる敵の気配は読めないらしい。

 マシラ戦ではわざと偽りの気配を見せられて騙されたが、基本は異空間に入られるとそれを確認する術がない。

 

 特にマシラは、異空間内であれば自由に瞬間移動できる能力を持っていたようだ。

 突然移動していたカラクリがそれである。


 さすがに眷属は瞬間移動させられないようだが、表世界から裏世界に逃げ込ませるだけで、こちらからは消えたように見える。

 これがマシラだけの能力ではないと仮定すると、少し厄介なことになる。


 放置しておくと、思わぬ襲撃を受けることもあり得るので、何とかしたいところではあった。


 まあさすがにマシラのような強敵と戦う機会などそうそうないと思いたいが。

 備えあれば憂い無し。

 条件が厳しいのか、裏世界の察知はなかなか難航しているが、何とか気配察知を進化させることで対応したいところである。


 次に、こちらも厄介な、敵を倒した際の混ざる問題について。

 正直、自分が自分でなくなるかもという恐怖は筆舌に尽くし難い。

 

 敵を倒すたびにそんな心配をするのは精神衛生上もよくないし、万が一手違いで混ざってしまえば、取り返しがつくものなのかどうかもわからない。


 単純に穢れた力が流れ込んでくる感覚が不快ということもある。

 対策は必須だろう。


 そんなわけで頭を捻っていたのだが。


「おーい、ミアっちー」


 そんな時、階下からギャル子さんのものらしき声が聞こえてきた。

 

 遊びに来たのだろうか?

 

 ひとまず思考を中断し、出迎えに行く。

 

「あ、やっほーミアっち、お疲れ様」


 玄関では、制服を着たギャル子さんが笑顔で手を振っていた。

 

「おはようギャル子さん。今日学校?」

「そそ、後から行く予定だし。それより何か大変だったみたいだね?」

「あ、知ってるんだ?」


 そりゃあたしミア友だから、とギャル子さんが笑う。

 

 え、ギャル子さんミア友だったの!?

 

 全然そんな素振り無かったから、ビックリしてしまった。

 いつからか尋ねると「最初会った時からかな? ミアっちの友達だからミア友っしょ? あたしのことじゃん」と親指を立てられた。


 何か少し違う気もするが、旅行の件を知っているということは、ツミッターなり配信なりはチェックしてくれているのだろう。

 思わず笑みが溢れた。

 

 友達って言ってくれるのも嬉しいもんね。

 

「あ、でもごめんギャル子さん、お土産は私からは無いんだ。真夜さんは持ってるんだけど」

「いいよいいよ、そんなん気にしないで。あ、ただ次行く時はあたしも誘って! ミアっちと旅行行きたい!」

「あ、う、うん、わかった。その時は声かけるね」


 その旅行で真夜さんが大変な目にあったことについては気にしていないのだろうか?

 まあ流石に出掛ける度にあんな化け物とやり合う羽目になんかならないとは思うが。


 一応既に真夜さんととまるんと三人で旅行に行く計画がある。

 まあ未だどこに行くとかの詳細は決まっていない話だし、今度二人にギャル子さんも誘っていいか聞いてみよう。

 

 ふと、ギャル子さんを見ると、何やら悪戯を仕掛けた子どものような顔をしてこちらを見ていた。

 

「ふっふっふ、ミアっちー。実は今日はね、見てほしいものがあるんだ」

「見てほしいもの?」


 なんだろう。

 呪われた人形とかじゃなければいいんだけど。

 そんなのは市子さんだけで十分だ。

 

「じゃーん! 実はあたし配信者デビューしたんだ!」

「ええー!?」


 そう言って、ギャル子さんはスマホを前に突き出した。

 画面にはmytobeが映っており、確かにギャル子さんが配信者として登録されている。

 

 登録者数は三十と少ないが、始めたばかりと考えると十分かも知れない。

 

「思い切ったねギャル子さん」

「前から興味はあったし、あたしだけ仲間ハズレとか寂しいじゃん? だからさ、ね、ね、ミアっち、今度コラボしよ!」

「う、うんいいよ?」

「やったー! ミアっち大好きありがとー!」


 ギャル子さんが抱きついてくるが、当然俺の体には触れないので素通りした。

 たまにやるよねそれ。

 

 本来なら登録者数の差から、売名を疑うべきなのかも知れないが、ギャル子さんはあまりに邪気がない。

 純粋に喜んでいる様子を見るとこちらも楽しくなるし、俺の数少ない友達の一人だ。

 俺でよければいくらでもコラボしようじゃないか。

 

 そう言えば、ミア友の中にもギャル子さんとのコラボを求めていた人がいたことを思い出す。

 後でツミッターで宣伝しておこう。

 きっと喜んでくれるだろう。

 

 ……ギャル子さん可愛いから、そっちに乗り換えるミア友も出るかも知れないが。

 だ、大丈夫だよな、多分?

 信じてるぞミア友。

 

「じゃあミアっち、今日の夜コラボってことでおけまる?」

「きょ、今日?」


 さすがに早くない?

 

「あ、ちょっと急過ぎた? じゃあ明日?」


 どうやら、ギャル子さんはなかなかせっかちな性格らしい。

 まあ俺も予定があるわけではないので、構わないといえば構わないのだが。

 

 そういえば真夜さん、とまるんとの三人コラボの件については、目処が立っていない状態だ。

 

 こっちに帰ってきてから、とまるんのアーカイブを見ようとチェックしたところ、配信を再開した様子が無かった。

 恐らくはまだ本調子じゃないのだろう。

 

 既に体調を崩してから一週間近くになるのでさすがに心配だ。

 後で連絡してみようと思いつつ。

 

「じゃあ今日告知して明日コラボにしよっか。枠はギャル子さんに立ててもらっていい?」

「やた! ありがとうミアっち! あたしのところだとミア友の人たちが面倒くさいかもだからミアっちのところでしよ。あたしが行くし!」

「ギャル子さんがいいならそうしよっか」

 

 そして、アレよアレよという間にギャル子さんとのコラボは決定した。

 それから、時間等の細かい打ち合わせをした後、ギャル子さんは学校があるからということで、そのまま慌ただしく去っていった。

 

 俺は苦笑しつつ、部屋に戻るとツミッターにコラボについて書き込んだ。

 

 ついでにマシュマロも募集しておく。

 俺の中でコラボといえばマシュマロは欠かせない。

 一日と時間は短いが、ミア友ならきっと何通かは送ってくれるだろう。

 

 そして、やるべきことをやって、一息つく。

 

 そうだ、とまるんにも体調確認のチャットを送っておこう。

 もう治っているなら良いが、まさか悪化していたりなんかすると一大事だ。

 

 とまるんという唯一無二の存在にして、人類の至宝が苦しむ姿を想像して、俺は途端に落ち着かない気分になった。


 この後に及んで、連絡すると迷惑にならないかとか、病気の時はそっとしておいたほうが、などと悩んでいる暇はない。

 俺はなんとか時間をかけて内容を吟味すると『体調はどう?』という一文を打ち込んだ。

 

 どうか無事でありますように。

 祈るように、送信ボタンをクリックする俺だった。

 

 

 ◯

 

 

【トレンド】幽霊配信者ミアちゃん応援スレpart12【もう遅い】


 232 視聴者の名無しさん ID:

 お前らどんだけミアちゃんにコスプレさせたいんだよwww


 233 視聴者の名無しさん ID:

 企画タグの三つに一つはコスプレで草


 234 視聴者の名無しさん ID:

 魔法少女ミアちゃん期待してます


 235 視聴者の名無しさん ID:

 実際どんな格好にでも一瞬でなれると思うとコスプレ性能高すぎる


 236 視聴者の名無しさん ID:

 レイヤーからすれば羨ましいだろうなあ


 237 視聴者の名無しさん ID:

 普段スカート履いてくれないしここぞとばかりに狙ってるやつもいそう


 238 視聴者の名無しさん ID:

 お前らもっとASMRに力を入れろよ!


 239 視聴者の名無しさん ID:

 >>238

 ミアちゃん機材もってないだろ


 240 視聴者の名無しさん ID:

 とまるんに借りればよくね?


 241 視聴者の名無しさん ID:

 とまるんの家でやればよくね?


 242 視聴者の名無しさん ID:

 キマシッ


 243 視聴者の名無しさん ID:

 とっまるーん


 244 視聴者の名無しさん ID:

 まあどれだけ俺らが熱望してもミアちゃんに選ばれなければ意味がないんだけどな


 245 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃん信じてるぞ


 246 視聴者の名無しさん ID:

 おっと

 なんか来たと思ったらギャル子さん!?


 247 視聴者の名無しさん ID:

 ギャル子さん配信者デビューってマジ?


 248 視聴者の名無しさん ID:

 きったあああああああ


 249 視聴者の名無しさん ID:

 チャンネル登録してきたわ


 250 視聴者の名無しさん ID:

 コラボはいいけど明日って急だな


 251 視聴者の名無しさん ID:

 さっきまで三十くらいだったギャル子さんの登録者数が一瞬で百超えててわろた


 252 視聴者の名無しさん ID:

 明日コラボか

 マシュマロ送りまくるわ


 253 視聴者の名無しさん ID:

 あの、あの、三人コラボ……


 254 視聴者の名無しさん ID:

 >>253

 とまるんがまだ治ってないみたいだし仕方ない


 255 視聴者の名無しさん ID:

 とまぁ……


 256 視聴者の名無しさん ID:

 最近とま語使いが増えてきたな


 257 視聴者の名無しさん ID:

 使いやすいからな


 258 視聴者の名無しさん ID:

 とま! とまま! とまっ!


 259 視聴者の名無しさん ID:

 >>258

 こいつID検索したら別スレで大学教授名乗っててわろた


 260 視聴者の名無しさん ID:

 >>259

 おいやめろ


 261 視聴者の名無しさん ID:

 草


 262 視聴者の名無しさん ID:

 ギャル子さんファンの俺歓喜

 やっぱ時代はギャルミアよ


 263 視聴者の名無しさん ID:

 ミアちゃんがギャルにならないか心配


 264 視聴者の名無しさん ID:

 ギャルのミアちゃん……

 ありだと思います


 265 視聴者の名無しさん ID:

 全てを受け入れてこそのミア友


 266 視聴者の名無しさん ID:

 >>265

 ミアちゃんに彼氏ができても?


 267 視聴者の名無しさん ID:

 >>266

 殺すぞ


 268 視聴者の名無しさん ID:

 全然受け入れてなくて草


 269 視聴者の名無しさん ID:

 コラボ楽しみだわ


 

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