39 お家に帰るぞ
その後、真夜さんの検査入院を一日だけ挟んだ。
病室でベッドに横になりながら、入院なんて必要ないのにとブーブー言う真夜さん。
どうやら昨夜布団に入ってからのことはよく覚えていないらしく、特に怖い思いはしていなかったようだ。
不幸中の幸いだが、とはいえ、俺のせいで狙われる隙を作ったことには変わらない。
俺は半ば縁を切られるのも覚悟で、起こったことの全てを伝えた。
真夜さんに嫌われたらどうしよう。
そうでなくとも、怖いからもう近付くなと言われても仕方ないのだ。
思わず、俯いて服の裾を握る。
その怯えが伝わったのか、真夜さんはすごい勢いで首を振ると、
「いやいやいや! 元は私が無理に誘ったから起こったことだしね!? むしろ怒られるなら私っていうか、全部私のせいっていうか! ミアミアは助けてくれたんだから何も気にする必要はないんだよ!?」
そう言って、微笑んでくれた。
「うん、そうだ、そんな大変な思いまでして助けてくれたんだもんね。お礼を言いこそすれ責めるなんてあり得ないよ。ありがとうミアミア」
「真夜さん……」
「むしろミアミアのほうが嫌になっちゃった……? 私こんなだし、トラブルメーカーだし、ミアミアに迷惑しか掛けてないんじゃ……」
いやいやいやいや、それこそとんでもない話だ。
真夜さんはただ巻き込まれただけで、何一つ悪いことなんてしていない。
慌てて首を横に振る。
「良かった、ミアミアに嫌われたらどうしようかと思ったよ」
「でも、真夜さん……」
「でもは無し。諸悪の根源はそのマシラってやつで、ミアミアは何も悪いことしてないんだから気にしなくていいんだよ」
だからね、と真夜さんは笑った。
「ミアミアが嫌じゃなければこれからもずっと友達でいてください」
そう言って差し出される手。
俺は、一瞬の躊躇いの後、恐る恐るその手に手を伸ばした。
触れはしない。
しかし、確かに重なるお互いの手。
不覚にも少し泣いてしまった。
「あ、あわわわ、ミアミア、大丈夫!? ハンカチ……は触れないから、お線香を!?」
お線香をどうするの!?
何度目かわからない真夜さんのネタに思わず笑ってしまう。
そんな俺の顔を見て、真夜さんもヘニャリと微笑んだ。
「それに、なんだか知らないけど私幽霊見えるようになっちゃったみたいだからね。これは神様がミアミアともっと仲良くなれと言ってるんだよ、きっと」
そう、何がきっかけだったのかはわからないが、真夜さんは霊視能力を身につけたようなのだ。
それも、ギャル子さんのような中途半端ではない、完全なものを。
実を言うと、俺は今姿を可視化していない。
病室は個室ではなく、四人部屋だったため、あえて隠れているのだ。
しかし、それでも真夜さんはしっかりと俺を認識していた。
声も聞こえていることから、霊視という言葉が適切なのかはわからない。
とはいえ、真夜さんが霊に対する認知能力を身につけたことは疑いなかった。
まあ、おかげで側から見れば真夜さんが一人言をいっている変な人に思われていそうだが、同じ部屋に入院しているのはよく眠るお爺さん一人なので、気にしないと真夜さん本人に言われては仕方ない。
ちなみに、口だけさんは真夜さんが驚いてしまうので部屋の外で待機してもらっている。
さすがに霊が見えるように成り立てで、あの顔はインパクトがあり過ぎたらしい。
悪霊だからね、仕方ないね。
何はともあれ、事件は無事に終わり、真夜さんには大人しく検査を受けてもらうこととなった。
その間、俺は時間だけはあったので色々な確認をしていた。
特に真っ先に行ったのが、カメラ師匠が配信してしまった気配があったので、その顛末の把握だ。
ネット上では俺たちの安否を心配する声も多く、取り急ぎツミッターにお礼と無事を書き込んでおく。
でもそうか。調べてわかったのだが、やっぱり最後に流れ込んできた力は、ミア友が色々と動いてくれたおかげらしい。
かなり無茶苦茶な方法で四方八方に宣伝しまくったようで、一部反感を買っているというか、アンチ化した人もいるみたいだが、これについては感謝こそすれ他に何か言うつもりもない。
実際、それが無ければ俺はマシラにやられていた可能性が高い。
俺や真夜さんの命がかかっていたことを思えば、ミア友には感謝しかないのだ。
むしろ俺のために動いてくれたミア友が悪く言われるのは嫌だったので、こちらでもツミッターで釈明と謝罪をしておいた。
俺が小学生ということもあってか、大多数は好意的だったが、中には厳しい意見もいただいたりしたわけで。
まあ俺が悪く言われる分にはいい。
悪名は無名に勝るともいう。
認知度を上げるという意味では、ファンと同等にこちらを意識するのがアンチである。
心情という一点を除けば、決して悪いことばかりではないだろう。
そりゃ一部の人とはいえ嫌われていると思えば残念だけど、元々人類みんなと仲良くできるとは思っていない。
仕方ないことだと割り切って、俺は努めて考えないことにした。
それよりも、俺のために動いてくれたミア友にお礼をしないとな。
今回の騒動を受け、なんと登録者数は九万人を突破していた。
いよいよ十万人まで王手をかけた状態だ。
これはお礼を込めて、何かみんなが喜んでくれるイベントを考えないといけない。
ツミッターでアンケートでも取ってみようかな?
「さて……」
ひとまず、ネットのほうはこれでいいだろう。
他にも、自分の体調や仲間の状態などを改めて確認する。
幸い、誰も致命的な傷を負ったりはしていないようだ。
口だけさんは飄々としているし、市子さんは楽しそうにカタカタ揺れている。カメラ師匠は相変わらず頼もしいし、モニターくんは何を考えているのかわからない。
俺についても、戦闘直後に若干あった怠さのようなものは綺麗さっぱり無くなっていた。
マシラの記憶が流れ込んできたことで、もしかしたら混ざってしまったのかも知れないと戦々恐々としていたが、今のところは特に問題なさそうだ。
いや、問題ないどころか、むしろ調子はすこぶる良い。
薄々思っていたが、もう確信してもいいのかも知れない。
なんか俺強くなってない?
存在強度とはまた別の部分で、一段ステージを登ったような、そんな感覚がある。
混ざりのせいかとも思うが、別段悪い感じはしていない。
何が原因かわからないが、マシラ戦でコツでも掴んだのだろうか?
まあこれについては追々検証していこう。
あ、そうだ。
カメラ師匠といえば、一応勝手に配信はしないように頼んでおいた。
今回は助かったけど、万が一普段の様子を流されたりしたら恥ずかしいからね。
カメラ師匠に限ってそんなことはしないと思うけど、やる時は一声かけて欲しいとお願いし、快く了解してもらった。
一応、他にも今回判明した俺の弱点についてなど、考えないといけないことはまだある。
とはいえ、ひとまずはみんな無事に危機を乗り越えたことを喜ぼう。
「良かった、ほんとに」
病院の廊下にある椅子にもたれるようにして、息を吐く。
実際には触れないので気分の問題だが、多少は楽になる気がした。
後は真夜さんの退院を待って、お家に帰ろう。
◯
「みんなただいまー! 二日ぶりー!」
『きちゃああああ!』『こんみゃあああ!』『待ってた』『ガチで久しぶりな気がする』『ミアちゃん!』
一日後、真夜さんも退院し、俺たちは無事東京に帰ってきた。
真夜さんが霊視できるようになったことで、帰り道俺はずっと姿を消したままでいたのだが。
瞳を押さえ「見える、我が邪眼が開眼したことにより、この世の瘴気は掌中にあり」などと曰う真夜さんがはしゃいで大変だった。
周囲からすれば完全に一人で騒いでる厨二病の人だ。
そのくせ、本物の幽霊を見かけた時などは俺の側に逃げてくるのだから、真夜さんらしいといえばらしいのだが。
とりあえず、あの人はもうちょっと周囲の目を気にしたほうがいいと思う。
ひとまず、何かあったらすぐ連絡を取り合う約束をして俺たちは別れた。
少しだけ心配だが、四六時中一緒にいるわけにもいかない。
幽霊を見かけたら近付かないようにとは伝えておいたので、大丈夫だと思いたい。
二日しか経っていないはずなのに、我が家たる廃墟に到着した時は、心底ホッとしたものだ。
俺は逸る心を抑え、早速配信を開始した。
何せ配信を二日もしないなんて考えられなかったからね。
禁断症状で手が震えそうなくらいだ。
そんなはずはないと思いながらも、忘れられていたらどうしようという思考が頭の片隅を離れなかった。
まあ冷静に考えれば僅か二日でどうこうなるはずもないのだが、そこはそれ、実際確認するまでは安心できないのが人間の心理ってもので。
多くのコメントがついたことで、俺はやっと安堵することができた。
そんなわけで、ザッとではあるが、事のあらましを説明する。
「というわけで色々あったんだよ……」
『おつかれさま』『マシラやばかったな』『そういうことだったのか』『まよまよ狙うとかとんでもねえやつだ』『もう大丈夫なん?』
「うん、みんなも色々動いてくれたみたいでありがとう。正直それがなければマシラには勝てなかったと思う。本当にありがとう」
改めてお礼を言い、深々と頭を下げる。
『ええんやで』『役に立てて良かった』『儂が育てた』『気にしないで』『こっちこそ大事にしてごめん』『やっぱ強かったんだなマシラ』『ミアちゃんが無事で良かった』
「ええと、それで、そのお礼ってわけじゃないんだけど、実はもうすぐチャンネル登録者数が十万人に行くんだよね。それで日頃の感謝も込めて、十万人記念配信でやる企画を募集したいと思います!」
『ガタッ』『おおー!?』『いいね!』『どんなのでもいいの?』『スク水は!? スク水はありですか!?』『ファッショショーまた見たい』
ふふふ、正直俺の頭だと何をしたらミア友に喜んでもらえるのかわからないからね。
いっそ決めてもらおうと考えたのだ。
「ええとね、やり方としては、まずみんなにはツミッターでミア友企画タグを付けて、やってほしいことを呟いてほしい。その中から良さそうなのを幾つか私が選ぶから、その選んだ中からアンケートで一番得票数が多かったやつを企画として配信しようと思う」
あ、もちろん変なのは選ばないからそのつもりで、と言い添えておく。
この方法なら、お互いにそれなりに満足がいくものができるのではないだろうか。
『了解!』『何にしようかな』『変なのとは?』『何が変なのかハッキリ言ってくれないとわからない』『どこからアウトでどこまでセーフなん?』『スク水は変じゃないですよね?』『お前らw』
「セーフかアウトかわからないのは全部アウトだよ! 企画は健全に行くからな! ギリギリを狙わないように!」
『ちっ』『ちっ』『お前ら絶対健全にいけよ? 絶対だぞ?』『健全ってなんだっけ?』『可愛いミアちゃんが見られれば満足です』『ギリギリのスリルが堪んねえぜ』『健全の定義付けからする必要がありますね』『守る気ないやつが多くて草』
全く、ミア友は……。
しかし、このいつものやり取りが嬉しくなって笑ってしまう。
帰ってきたんだなあと実感できる。
やっぱり配信は毎日しないとね。
俺は心の中で、もう一度盛大に声を上げた。
たっだいまああぁぁ!!
◯
【トレンド】幽霊配信者ミアちゃん応援スレpart12【もう遅い】
38 視聴者の名無しさん ID:
ミアちゃん元気そうで良かったわ
39 視聴者の名無しさん ID:
マシラって神様だったんだな
ついに神殺しか
40 視聴者の名無しさん ID:
ヤバすぎwww
41 視聴者の名無しさん ID:
今ならヘルメット男とかに勝てるのかな?
42 視聴者の名無しさん ID:
没落したとはいえ神様倒してるんだからいけるんじゃね?
43 視聴者の名無しさん ID:
久しぶりの配信で幸せ
44 視聴者の名無しさん ID:
>>43
それ
二日とはいえ配信なかったからマジでやることなかった
45 視聴者の名無しさん ID:
どんだけ中毒なんだよw
俺もだけど
46 視聴者の名無しさん ID:
もうミアちゃん無しだと生きていけない体になっちまったよ
47 視聴者の名無しさん ID:
お前ら十万人記念どうする?
良さげな企画思いつかないわ
48 視聴者の名無しさん ID:
コスプレショーって書いた
49 視聴者の名無しさん ID:
>>48
ありやな
50 視聴者の名無しさん ID:
無難にASMR
51 視聴者の名無しさん ID:
個人的には市子さんに姉妹が欲しい
もう一体市松人形を作ろう
52 視聴者の名無しさん ID:
>>51
わろた
記念のたびに数が増えていくのか
53 視聴者の名無しさん ID:
地獄絵図で草
54 視聴者の名無しさん ID:
まよまよ配信してるな
55 視聴者の名無しさん ID:
まよまよすげえ厨二くさいこと言ってるんだけどw
こんなキャラだっけ?w
56 視聴者の名無しさん ID:
霊視!?
57 視聴者の名無しさん ID:
まよまよ霊視能力!?
58 視聴者の名無しさん ID:
まじかよ
ミアちゃん見えるようになったとか裏山
59 視聴者の名無しさん ID:
別に霊視なんかなくてもミアちゃん可視化能力あるだろ
60 視聴者の名無しさん ID:
>>59
だからこそ見えない時は色々してるかも知れないぞ
61 視聴者の名無しさん ID:
>>60
何をしてるんですかねえ……
62 視聴者の名無しさん ID:
わたし、気になります
63 視聴者の名無しさん ID:
ミアちゃんのプライベートが覗けるってことか
ちょっとマシラに呪われてくる
64 視聴者の名無しさん ID:
>>63
もう死んでるんで……
65 視聴者の名無しさん ID:
悪霊見えるようになるのは怖い気もする
66 視聴者の名無しさん ID:
それな
怖がりの俺は無理だわ
67 視聴者の名無しさん ID:
まよまよの配信の後、旅行動画公開か
68 視聴者の名無しさん ID:
観るわ
ミアちゃんも出てるんだよな?
69 視聴者の名無しさん ID:
浴衣ミアちゃんがまた見られるのか
70 視聴者の名無しさん ID:
待て
温泉旅館、浴衣、女の子二人って……
71 視聴者の名無しさん ID:
>>70
何も起きないはずがなく
72 視聴者の名無しさん ID:
>>70
お気付きになりましたか
73 視聴者の名無しさん ID:
なんでそこに俺はいなかったの?
74 視聴者の名無しさん ID:
いてたまるかwww
75 視聴者の名無しさん ID:
とまぁ……
76 視聴者の名無しさん ID:
>>75
お大事に
77 視聴者の名無しさん ID:
>>75
早く風邪治るといいな
78 視聴者の名無しさん ID:
動画見たけど幽霊関係ないただの旅行映像で草
79 視聴者の名無しさん ID:
ミアちゃんも一応幽霊だから……
80 視聴者の名無しさん ID:
この後マシラとやり合ったんだよな
本当に無事で良かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます