24 一万人記念配信をするぞ(前)

 うーん。

 俺は悩んでいた。


 というのも、嬉しい悲鳴というやつか、チャンネル登録者数が三万を超えたからだ。


 おいおいおい、つい先日まで一万五千だったじゃないかと突っ込んでしまいたくなるが、事実は事実。

 どうやら一万五千という数でさえ登山の途中だったらしく、あれよあれよという間に登録者数が増えていったのだ。


 おかげで使い切ったはずの力もほぼ丸々帰ってきた。

 やばすぎる。

 バズると世の中はこうも変わるのか。


 では何にそんなに悩んでいるのかというと、登録者数一万人超えのことだ。

 一気に増えてしまったため、記念配信をまだできていないのだ。


 ここまで来れたのは応援してくれるミア友みんなのおかげ。

 だからこそ感謝の企画配信をしたかったのだが。

 

「三万超えちゃった……」


 どうすんだよこれ。


 いっそ三万人記念配信に切り替えたほうがいいのだろうか。

 しかし、やっぱり五桁の大台に乗るというのは一つの節目だ。

 そこはきっちりとやっておくべきではないのか。

 

 悩みに悩んだ末、俺は取り敢えず三万は見なかったことにして一万人記念配信をすることにした。

 

 早速ツミッターで告知する。

 

「ええと、みんな登録者数一万人ありがとう。今夜記念配信します、と」


 これで良しと。

 ただ、問題は何をやるかだ。

 

 なんせ五桁だ。

 千円と一万円の価値の違いを考えれば、その重みがわかることだろう。

 ただ貯まったマシュマロを消化するだけとか、ゲーム配信をするだけなんて内容で済むはずがない。

 

 かといって、じゃあ記念に相応しい面白いことができるのかと言われると……。

 俺にそんな甲斐性は無かった。

 

 でもやっぱり何か特別なことがしたい!

 せっかくの一万人記念なんだ!

 ミア友に楽しんでもらえるようなことがしたい!

 

 何かないかと頭を捻る。

 面白いものを探して室内に目を走らせる。

 

 そして、一つの物に視線が止まる。

 

 ……有りかも。

 

 浮かんだアイディアを検証する。

 

 うん、いけそうだ。

 そうとなると話は早い。今夜に向けて色々と準備しなくては。

 

 俺は夜に向けて気合いを入れた。

 

 

 ◯

 

 

「というわけで、登録者数一万人記念配信を始めます!」


『いやっほおおお!』『88888』『もう一万かあ(棒)』『一万(三万)』『伸びすぎww』ミアちゃんかわいい!』『うおおおおお!』『おめでとー!』


「みんなありがとう。ここまで来れたのはみんなのおかげだよ! 本当に感謝してます。ありがとね」


 照れくさいが素直にお礼の言葉を述べさせていただく。

 こんな俺を見捨てないで構ってくれるみんなには、いくら感謝してもし足りない。

 普段の活動で少しでもお返しできていればいいんだけど。

 

「さて、そんなわけで今日の予定ですが、まずはマシュマロを読んで、その後に特別企画、最後にゲーム対戦をしようと思う」


『お?』『特別企画?』『なんだなんだ?』『楽しみだ』『ゲーム対戦いいね』『期待』


「特別企画については後になってのお楽しみにね! 自分で言うのも何だけど、他の人には真似できない内容だと思う」


『大きく出たね』『ヤバそう』『口だけさんとのタイマンバトルか?』『ファッションショー?』『気になるぅぅぅ』


「後のお楽しみってことで、じゃあ早速マシュマロを読んでいくよ! ドン!』


【ミアちゃん、こんばんみゃー! ミアちゃんは今後、まよまよやとまるん、ギャル子さんとコラボする予定はありますか?】


「これについては結構質問あったね。四人で写メ上げたからかな? 答えとしては今は予定ないけど、そのうちやると思う! あ、ただギャル子さん以外」


 ギャル子さんはそもそも配信者じゃないしね。

 期待されても俺にもどうしようもない。

 

『やったぜ!』『そんなー』『ギャル子さんも入れてあげて』『ギャル子さんww』『ギャル子さん泣いてるよ』『とまるん期待』『まよまよともっと絡め』


「ギャル子さんは配信者じゃないから、こっちの一存ではなんとも……。せっかくだし、真夜さんととまるんは近いうちに誘ってみる」


 だからそれで勘弁して、と言うと喜びの声が上がった。

 

 うん、意外とコラボを期待している人も多いのかな?

 二人が受けてくれればいいけど。

 とりあえず声は掛けてみよう。

 

「じゃあ、次のマシュマロいくよ! じゃん!」


【不細工な顔近付けんなよについて一言】


『草』『あっ』『草』『嫌な事件だったね』『やめたれww』『あっ』『ミアちゃんはそんなこと言わない』


「……許して」


 俺は非を認めて全面的に謝罪した。


『草』『許した』『かわいい』『やっぱり言ったんですか!?』『ミアさん!?』『どういう気持ちで言ったんですか!?』『ミアさん!?』『ミア友の追い込み草』


「えっと、その、ちょっと、変な攻撃くらって朦朧としてるところに、あの能面顔が目の前にあったから……つい」


『それは仕方ない』『ついなら仕方ない』『無罪』『ミアさん!?』『ミア友甘くて草』『あの顔が目の前にあったら嫌だよな』『草』『許した』


 ……ぶっちゃけ配信してるの忘れてたんだよな。

 真夜さんからも度々指摘されているが、幽霊の前だと男口調に戻るのは本当に悪い癖だ。

 余裕がないから素が出てしまうんだろうが、配信中は気をつけないと。


「じゃ、じゃあそういうことで次のマロ行くよ! じゃん!」


『誤魔化したな』『じゃん』『じゃんじゃん』『良かった、悪霊に操られたミアちゃんはいなかったんだね』『不細工から逃げるな』


【とまるんのファンって本当ですか?】


「ええとね、これはファンって言うと語弊があるかもなんだけど、元々は生前に入院中に荒んでた時期があって、その頃に癒されるために色々な配信者を見て回ってたんだよね。それで行き着いたのが究極の癒し系にして大天使のとまるんだったわけで、ファンというよりは恩人に近いかも知れない。まあそんな背景が無くてもとまるんが優しくて素晴らしい人間であることは配信を一回でも見たことがあれば丸わかりだし、そう言う意味では見たことない人は人生の八割を損してるかも知れないぞ。ミア友も見たことない人がいたら一回見てみるといいよ。オススメは心に寄り添ってくれるASMRかな。死ぬってことで怯えて眠れない夜を傍に寄り添って気持ちごと包んでくれるような聖母のごときクオリティは言葉では良さの半分も伝えられないほど神がかってるから」


『お、おう』『めっちゃ早口で草』『ファンじゃんww』『取り敢えず好きなのはわかったw』『とまるん見てみるわ』『何気ない入院エピソードが重い』


 そんなこんなで、順調にマシュマロを消化していく。

 そして最後のマシュマロへの解答が終わった。

 

「はい、そんなわけでマシュマロは終わりにして……いよいよ特別企画に行くぞ」


『きたああああ!』『わくわく』『期待値が上がりすぎてるww』『高くなったハードルを越えられるか!?』『一体どんな神企画が』『盛り上がってきた』


 う、あんまり言われると自信が……。

 とにかく、俺も初めてのことなのでどう転ぶかわからない。

 

 とりあえず説明から入ることにする。

 

「ええと、今回は特別企画ということで、ミア友みんなの前で仲間を作ることにします」


『仲間?』『どゆこと?』『勧誘でもするのか?』『何の仲間』『幽霊仲間ってこと?』


「ええと、まず前提として、幽霊ってあんまり群れたりしない印象があるんだよね。だから、戦うに当たって多数で当たるっていうのは有効だと思うんだけど」


『なるほど』『それで仲間?』『理屈はわかる』『口だけさん頼もしいもんな』『有りだね』『でもどうやって?』


「うん、かと言って幽霊って全体的にアレだし、信頼できる仲間を見つけるのは正直難しいと思う。口だけさんだって仲間かって言われると怪しい気もするし。そんなわけで、いないなら一から作ればいいんじゃないかと思ったんだけど」


『は?』『なにその発想』『そんなことできるの?』『創る!?』『ヤバそう』


 それから、俺はカメラ師匠に力を譲渡したこと、それによって今後悪霊を配信してもミア友を霊障から守ることができる可能性が高いこと、配信を通して敵の存在強度が増す可能性があったのでそれを防ぐことができるようにしたことを話した。

 

『マジか』『俺らのためにすまんやで』『敵の強化については議論されてた』『心配してたから安心したわ』『正直助かる』『霊障にビビらなくていいのはデカい』『さすミア』『ミアちゃん好き』


「ん、えっと心配させてごめんね。それにみんなを守るのは私の義務だからお礼を言われるようなことじゃないんだけど……。ここで肝心なのは、力の譲渡ができるなら、一から強い仲間を作れるんじゃないかと思ったんだ」


 そう言って、俺は陰から一体の市松人形を取り出した。


「そんなわけで、今からこいつに力を分け与えてみようと思います」


『草』『草』『ひえっ』『もう怖い』『何故それを選んだw』『これが仲間に……?』『呪われそう』


 前提として、さすがに俺でも生命を一から創り出すことは無理だ。

 力を分け与えることはできても、創造能力ではないのだから。

 

 その点、この市松人形は適任だった。

 以前、ギャル子さん一行を驚かせた後に気付いたのだが、実はこいつ、ひっそりと生命が宿っているのである。

 

 とはいえ、それはまだあまりに小さいものだ。

 吹けば消えてしまう蝋燭のようなもの。

 しかし、そこに俺の力を注げば、大火へと変貌させることができるのではないか。

 

 勿論、懸念点もある。

 なんせ以前俺はこいつの首をもいでるからな。

 下手したら恨まれているかも知れない。

 

 そうでなくても、善性の存在に育ってくれるとも限らない。

 あるいは、問答無用で襲いかかってくることも考えられる。

 そのため、与える力は少しずつ増やす形にして様子を見たい。

 

 少量であれば、仮にこいつが向かってきても問題なく撃退できるだろう。

 目減りはするかも知れないが、倒せば力は回収できるわけだし、やってみる価値はあると思うのだ。


 まあ使う力もポイントで例えるなら精々が五百くらいにしておくつもりだ。

 今回また新たに二万以上のポイントを得ていることを思えば、微々たるものと言える。

 

 というようなことを、俺はミア友に説明していった。

 

『なるほど』『面白そうではある』『どうなるかな』『危険がないならいいね』『自己強化に使った方がよくない?』『良い子に育つ未来が見えない』


 まあ失敗の可能性が高いのは自覚している。

 でも企画としては面白いと思うんだよな。

 戦える仲間が欲しいのは確かだし、一度は試してみるべきだろう。

 

 そんなわけで、俺は市松人形、名付けて市子さんに力を注ぐことにした。

 

「じゃあ行くよ! 市子さん強くなれー!」

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