外伝 ゲーム堕天録ミアちゃん②
ある日、真夜さんからフォールダイズというゲームを紹介された。
『ミアミアこれやってみてー』
フォールダイズは可愛らしい見た目のキャラを動かして、数十人がオンラインで優勝を競うゲームだ。
各ステージごとに足切りラインがあり、かならず複数人が脱落するようになっている。
そんなミニゲームのようなステージを数勝ち抜き、最後まで立っていたものが優勝者だ。
『ミアミア仇をとってー(泣)』
どうやら真夜さんは、このフォールダイズで、『優勝するまで終われません!』配信をやった結果、見事に二十四時間経っても優勝できず、泣く泣く断念したという。
もう仕方ないなあ真夜さんは。
軽く実況動画を見れば、ゲーム内容としてはそう難しそうなものではない。
あくまで他者と競う性質上、自分より上手いものがいればクリアできないというだけのことだ。
つまり、俺が誰よりも上手ければ問題ないということだ。
ニヤリと笑う。
そんなわけで。
【フォールダイズ、優勝するまで終われない配信するぞ!】
『草』『フォールダイズきちゃー!』『これはwww』『楽しみだわ』『まーたこういうことするw』『耐久嬉しい』
「はい、そんなわけでフォールダイズやっていきます! でも正直そんなに時間かかると思えないんだよね。耐久を期待してるミア友のみんなには悪いけど、多分一回とか二回で終わっちゃうんじゃないかな?」
『草』『イキりミアちゃん』『すーぐイキるww』『完全にフラグ』『その自信はどこからwww』『かわいいぃ』『イキった後に失敗して落ち込むミアちゃんからしか取れない栄養がある』
「失敗しないから! 余裕だから! 見てろよー。すぐクリアしてみんなを驚かせてやるからな!」
そして、ゲームがスタートする。
オンラインなので、まずは人数が集まるのを待って第一ステージが始まった。
「第一ステージはシーソーレースか」
『がんばれー』『期待』『シーソーか』『ここ嫌い』『お手並み拝見』
文字通りステージがシーソーの組み合わせでできているステージだ。
レースではあるが第一ステージなのでそこまで足切りのボーダーはキツくない。
俺は危なげなくシーソーに飛び乗り、攻略していく。
気付けば、先頭集団に入り込んでいた。
「簡単、簡単。これは優勝もすぐかな? ミア友のみんな配信短くなっちゃうかも。ごめんね?」
『ここからやぞ』『上手い!』『さすが手慣れてるな』『落ちろ!』『ドヤ顔かわいすぎ』『俺と結婚しろ』
ふふふ、ミア友の反応が心地よい。
思えば俺はゲームが上手いほうなのに、今まではあまりカッコイイところが見せられなかった。
ここらでサクッと優勝して、ミアちゃんってやっぱりゲーム上手いんだね、とみんなに思わせたい。
「ゴール見えてきたね。とりあえず第一ステージはもらっ……あ!?』
シーソーからシーソーに飛び移ろうとジャンプした瞬間、なんと、後ろについてきていたやつが俺を掴んだ!?
一瞬のことだったが、おかげでジャンプは失敗。
自キャラは谷底に落ちていった。
「な、な、なななな」
あまりの暴挙に開いた口が塞がらない。
こんなことが許されていいのか。
なんだあいつは。
警察は何をしているんだ。
法はやつを取り締まらないのか。
『草』『草』『落ちたww』『プロの仕業』『ざまあwww』『これがあるからなあ』『タイミング完璧w』『こんなん笑うわ』『これがフォールダイズだ』
そして、一つ前のチェックポイントに戻される俺のアバター。
「ぐぬぬ……、こ、これくらいの遅れならすぐに取り戻せるから!」
戻された地点から、急いで進んでいく。
と、進行方向のシーソーの一つが大きく傾いていることに気付いた。
シーソーは片側に傾きすぎると乗ることができない。
無理に乗ると落ちてしまうからだ。
仕方ない。
タイムロスになるが元に戻るのを待つことにしたのだが。
「……いつまでも戻らない」
『草』『ずっと傾けてるやついるね』『たまにいるわこういうやつ』『このゲームは早くも終了ですね』『もうダメぽ』
うわあああああぁぁ!?
ふざけんなよこら!
そんな妨害行為が許されていいのか!
ここは法治国家だぞ!
他人に迷惑をかけるなってお母さんに教わらなかったのか!?
俺は怒りに任せて突進し……当たり前のことだが滑って普通に下に落ちた。
『草』『Nice Jump』『特攻してて草』『ドンマイ』『もう時間無くて草』『今回は無理やね』
「い、今のは無し、ノーカン! だってずるいやつがいたから仕方なかったし! 次、次こそいけるから!」
案の定タイムアップで失格となったので、俺は再度ゲームをスタートする。
そして、それから十二時間が経過した。
『草』『おはみゃー』『まだやってて草』『ミアちゃん頑張れー!』『取れない時は本当取れないからなあ』『おはようお前ら』
「うぅぅ、うー、うー……」
結局、あれから何度挑戦しても、一度として優勝はできていなかった。
最終ラウンドまでは割と行くのだが、最後の一戦がどうしても勝ちきれない。
最終ラウンドに残っただけあって、相手もさるものだ。
一位になるとはかくも難しいものなのか。
俺は歯噛みをした。
またミア友からおはようをされてしまった。
こんなはずじゃなかったのに。
サッとクリアしてカッコいいところを見せるはずだったのに!
十二時間を過ぎたので、まさかの二枠目に突入している。
これ以上の苦戦はできない。
俺のプライドに関わってしまう。
まだ関わっていないのかというツッコミは聞きたくない。
幸い今から、何度目になるかわからない最終ラウンドだ。
ここだ。ここで決める。
俺はこの地獄から生還してみせる。
最終ラウンドの種目は……円状の床の上に立ち、床と水平に回転する棒を避け続ける耐久レースだ。
何度か体験したが、遅い棒と早い棒の二本があること、床の一部が崩落することなどが難易度を上げている。
しかし、とにかく最後まで落ちなければ勝ちというシンプルな勝負には違いない。
「絶対に残ってやるぞ!」
『がんばれー!』『そろそろ優勝したい』『決めろ!』『慎重にいこう』
そして運命のゲームがスタートする。
息を呑む俺。
棒がゆっくりと回転を始め……。
「あっ!?」
いきなり、隣のやつが近付いてきたかと思うと、俺を掴んだ。
「ちょっ!? やっ!? はなせバカ! 変態! やめろって言ってるだろ! はなしてよぉ!』
『ありがとうございます!』『芯に迫る叫びで草』『これは許されない』『ミア虐たすかる』『逃げてー!』
無情にも棒が、愚者を跳ね飛ばさんと迫ってくる。
「はにゃらぶらぁ!?」
間一髪。
拘束から逃れてジャンプする俺。
一方、俺を掴んでいたセクハラ野郎は回避が間に合わず、棒に跳ね飛ばされ吹っ飛んでいった。
『草』『なんて?』『すごい声でたなw』『必死すぎるww』『セーフ』『生き残った!』『まだ舞える』
そして、俺の必死の逃亡が始まった。
タイミングを合わせて迫り来る棒を避ける。
それだけのことなのに何と手に汗握ることか。
一人、二人と脱落者が出て、ついには俺ともう一人の一騎打ちとなった。
「まだかっ、頼むっ、早くっ、もうっ、落ちてくれっ!」
どんどん早くなる棒の速度。
あまり長くは耐える自信がない。
『お互い早く落ちろと思ってそう』『草』『がんばれー!』『相手しぶといな』
およそ永久にも感じられる時間の果て。
ついには対戦相手に一定のシンパシーすら感じ始めた頃、決着の時が訪れる。
それはほぼ同時だった。
俺と相手、二人が棒に跳ね飛ばされたのだ。
「あっ!?」
と思った時にはもう決着はついていた。
画面に表示されるwinnerの文字。
どうやら判定としては、相手のほうが先に落ちたことになるらしい。
そう、間一髪俺は勝ったのだ。
初優勝。
王冠が自キャラの手に渡される。
「や、やった! やったよみんな!」
俺は勝ったんだ!
長い戦いだった。
何度もう止めようと思ったことか。
チーム戦で他ニチームから的にされて圧倒的に負けたり、チーターが混じっていて一人だけ飛んでゴールしたり、レースで一本道の細い橋の上に立ち止まって他の人の移動を妨害するやつがいたり、本当に色々なことがあった。
でもそれももう終わりだ、俺は勝ったんだ!
「ぐすっ……みんなここまで見てくれてありがとう。みんなのおかげで、なんとか優勝できたよ」
『おつかれー!』『また泣いてるw』『よく頑張った』『88888』『さすミア!』『すごかったよー!』
時間はかかってしまったが、こんな鬼畜ゲームで優勝できただけで満足だ。
心地よい疲労の中、そのまま配信を終わらせようとして。
『もう一周いこう』『今度大会出よう』『まよまよと一緒にやってほしい』『フォールダイズから逃げるな』
「もう一周はやらない!」
キッパリと断る!
でも、大会に出たり、真夜さんと一緒にやるのはいいかも知れない。
今後のことを考え、少しだけ楽しそうだなと思う俺だった。
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