23 みんなで遊ぶぞ

 お昼過ぎ、真夜さんととまるんが近くまで来ているということで迎えに行ってきた。

 事前に地図を渡してはいたのだが、家の場所まではちょっとわかりにくいよね。


 当然、最寄駅は避けて、隣駅からバスで移動して来てもらった。

 街中では俺は可視化できないので、合流した後は真夜さんに通話する振りをしてもらって、声のみで誘導していく。

 

 しかし、真夜さんもとまるんも傍目から見るとすごい美人さんだ。

 さすがは人気配信者である。

 服装から立ち振る舞いに至るまで、オシャレでオーラがあるし、野郎の感性を捨てきれない俺からすると、女の子ってすごいなという感想しか出ない。

 

 顔出し配信なんかしてストーカーが付いたりしないのだろうかと心配になる。

 何かあった時は俺も力になろうと密かに決意しつつ。


 バス停から歩くこと十数分。

 人通りも無くなってきた頃、ようやく我が愛しのホームへと到着した。

 

「うわぁ……すっごいボロ……趣がある家だね」


 真夜さん、今ボロいって言いかけなかった?


「ええと、その、趣があって……とても趣があると思います」 


 とまるん、それ明らかに反応に困ってるよね?

 真夜さんと同じことしか言ってないよね?

 

 まあ外観だけ見ると完全に廃墟だ。

 なんならお化けが出そうな風格すらある。

 

 実際お化けどころか蜘蛛神様まで棲んでいることを考えると、並の幽霊屋敷ではないだろう。

 悲しいが、我が家の評価としては、むしろ気を使ってくれたほうである。


 さて、周囲に人通りも無くなったことだし、そろそろいいだろうと思い可視化する。


「真夜さん、とまるん」

「あ、ミアミア改めてこんにちは! 遊びに来たよ!」

「ミアさん、先日はどうもありがとうございました、本日はお礼の品を持参させていただきました」


 いつの間にか遊びに来たことになってる真夜さんと、丁寧に頭を下げるとまるん。

 なんとも正反対な二人である。

 

「二人とも来てくれてありがとう。ちょっと見た目は悪いけど、どうぞどうぞ」


 そう言って中に入ることを勧める。

 二人はお邪魔します、と声を揃えて玄関から内部へと足を踏み入れた。

 

「へえー、もっと汚い感じの想像してたけど、意外に綺麗なんだねー」


 真夜さんが感心したように言う。


「もう、真夜ちゃん、ミアさんに失礼ですよ」

「あ、ご、ごめん! ミアミアごめんね!?」

「あ、いえ、気にしないでください。実際さっきまで汚かったんですけど、二人が来るからって急いで掃除したんですよ」

「そうなんですか? ありがとうございます」


 ミアさんは優しいですね、と聖母の笑みを見せるとまるん。

 うっ、なんというエンジェルスマイル。

 ちょ、直視できない。

 掃除して良かったと心から思う。

 

「ミアミア、私のためにそこまで……」


 真夜さんが感動しているが、真夜さんだけのためじゃないからね?

 二人のためだからね?

 

「というわけでここが私の部屋です」


 いつもの配信部屋に二人を通す。

 

「ほえー、ここがミアミアの部屋かー。あ、てことはあのパソコンで配信してるのかな?」

「いつもの配信の様子だと、あそこの隅に口だけさんがいらっしゃるんでしょうか?」


 室内を興味津々に見回す二人。


 ……やっぱりパソコンは見えているんだな。


 ひょっとしたら視認できないこともあるかと思ったが、普通に見えているらしい。

 ギャル子さんは霊視できる人なので特別かと思ったが、どうやらそういうことでもなさそうだ。


 本当になんなんだろうなこのパソコン。


 二人は、何が珍しいのか、色々と見回しては楽しそうにしている。

 正直、内装は前世時代の俺のものなので、思いっきり成人男性的だ。

 さすがにバレないとは思うが、もし突っ込まれたら、廃墟を借りているだけだから、元の持ち主のことは知らないと言い張ろう。

 

「はい、いつもはここから配信してます。あ、口だけさんはいつも通りそこにいますよー」


 相変わらず霊が絡まないと置物の口だけさんである。

 せめて二人がいる間はそのまま大人しくしていてほしい。

 

 水が出ないのでお茶の一杯も出せないのが心苦しいが、二人に椅子に座ってもらう。


 この四脚椅子は、慌てて別の部屋から引っ張ってきた。

 本当はソファやクッションがあれば良かったのだが、どれも経年劣化でボロボロだった。

 掃除して使えそうなのがこれくらいしか無かったので仕方ない。

 事前に用意しておけばよかったが、お金が無いからどのみち同じだったかも。


「あ、じゃあ早速これ渡しておくね! 色々助けてくれてありがとうミアミア!」

「えっと、では私も、ミアさん、この度は助けていただいて本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


 そう言って、二人から差し出される紙袋。

 

 うわぁ〜……ついにこの時が来たか……。

 

 俺は「そんな」とか「大袈裟ですよ」なんて言いながら、喜び勇んで紙袋に飛びついた。

 

 中から出てきたのは、待望のスミッチだ。

 他にもキャプチャーボードやSDカード、ソフトのチケット等が収まっている。

 

 うおおおおおお!

 きたああああああ!

 

 俺は内心で歓喜の声を上げた。

 やった! やった! これでミア友とゲームができるぞ!

 いやっほー!

 ひゅー!

 ふっひゃほぅぅう!

 

 狂喜乱舞とはこのことである。

 実のところ生前から欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。

 いい年して親におねだりなんて出来なかったから、スミッチをやれるのは友達のキサラちゃんの家に遊びに行った時くらいだった。

 

 そのキサラちゃんも、小学生女子だからあんまりゲームは上手くなかった。

 人生ゲームやパーティゲームで接待プレイをしていたのが懐かしい。

 さすがに女子小学生を本気でやり込める勇気は俺には無かった。

 

 そんなわけで、俺の本気を受け止めてくれる相手との対戦を心から熱望していたのだ。

 ミア友、お前らなら受け止めてくれるよな?

 愛してるぜ。

 

「じゃあ早速何かやってみる? 私ソフト持ってきたよ」


 そう言って、真夜さんが取り出したのは有名な落ちもの対戦ゲームだった。


 ほほう?

 俺に挑むと?

 

 目がギラリと光った。

 

「いいですね、やりましょう」

「じゃあ私は最初見てますね」


 とまるんが一歩引いたことで、必然、俺VS真夜さんの構図が出来上がる。

 それから、負け抜けルールで落ちモノゲーム対戦が始まった。

 

 

 ◯

 

 

「うわっ、なんか綺麗になってる!?」


 俺たちがゲームに熱中していると、一階から声が聞こえてきた。

 遅れて「おーい、ミアっちー」とこちらを呼ぶ声がする。

 

 この呼び方はギャル子さんかな?

 俺は真夜さんととまるんに一声かけて、その場を離れる。

 

 ちなみにゲームについては真夜さんが予想外に強く、ここまで俺の五勝五敗である。

 完全に五分の状況。

 ゲーマーを自称する俺としては芳しくない戦績だが、このゲーム自体はあまりやったことがないので仕方ないと自分を慰める。


 なお、とまるんは俺とやっても真夜さんとやってもここまで全敗していた。

 かわいいね。

 

 ぐぬぬ。

 しかしさすが持ち主、一筋縄ではいかないらしい。

 現在は俺が負け抜けして、真夜さんVSとまるんとなっているので、タイミング的にはちょうどよかった。

 

 一階に降りてみると、案の定ギャル子さんが玄関口に立っていた。

 

「あ、ミアっち、やっほー! 遊びに来たよ」

「いらっしゃい、ギャル子さん。ちょうど今お客さんが来ててね」

「え? お客? まさか幽霊友達?」


 ギャル子さんが首を捻る。

 いやいやいや、幽霊友達なんかいないよ。

 

 まあ別に幽霊差別するつもりはさらさら無いので、心優しい無害な幽霊がいれば是非友達になってほしいのだが。

 そんなものはいない。現実は非情である。 

 

 とりあえず、俺はギャル子さんを自室に連れて行くことにした。

 

「真夜さん、とまるん、ちょっといいかな。紹介するね、こちら不良のギャル子さん。前にうちを荒らしに来た人の一味なんだ」

「ミアっち、その紹介の仕方はどうだし……。うわ、人間だ! しかもどっちも可愛い! ええと、初めまして、新垣麗美です。高二でっす。よろぴく」


 ウインクしつつ、横ピースを決めるギャル子さん。

 高二だったのか。

 

「ミアっち……?」

「ギャル子さん……?」


 唐突な俺たちの紹介に、真夜さんもとまるんも目を丸くしていた。

 突然のことに思考が追いついていないらしい。

 

 まあそれもそうかと思う。

 幽霊とはいえ小学生の俺から、こんないかにもなギャルを引き合わせられれば困惑もする。

 

「ちょっとミアっち、何この空気?」

「ギャル子さんが派手だからじゃない?」

「え、なにそれ? これくらい今時普通だって! あたしの学校だとガングロがデフォだもん」


 ちょっと学校の風紀が心配になる情報だ。

 ていうかガングロってまだいたのか。

 昨今の女子高生事情はよくわからないけど、すごそうな印象はある。

 なるべくギャル子さんの学校には近付かないでおこうと心に決める。


「あ、えっと、初めまして、山田真夜です。配信者やってて配信者ネームは真宵真夜です」

「す、すいません、失礼しました。私の名前は草壁静流といいます。同じく配信者で、そちらでは夢音とまれと名乗っています」


 ようやく再起動をしたのか、頭を下げる二人。

 ギャル子さんは「ふえー、二人とも配信者なんだ? あ、じゃあミアっちとも配信繋がり?」と納得の声を上げている。

 

 と、そこで真夜さんが勢いよく立ち上がった。

 

「それ! ギャル子さんそれだよ!」

「う、うん? ど、どれ? ていうか、あたしの名前は麗美……」

「ギャル子さん、ミアミアとすごく仲良さそうじゃない!? どういうこと!? ミアミアは親友の私にさえまだ敬語使ってるんだよ!? なのにギャル子さんとは普通に話してるし!」


 おかしいよ、差別だよ、不当だよと騒ぎ出す真夜さん。

 俺たちの関係はいつの間にか親友に格上げされていたらしい。


 いや、嬉しいけどね。

 そう言ってくれるのは本当に嬉しいというか、顔がニヤけちゃうわけだけど。

 えふふ。

 

「え、でもミアっち、最初からあたしにはこんなんだったけど」


 侵入者だったからね。

 スタートラインが敬意を払う相手ではなかったのが原因だと思う。

 そのことを説明すると。

 

「あー、あの時の! ミアミアに撃退された不良の人だ!」


 思い至ったのか、叫ぶ真夜さん。

 人を指差しちゃいけませんよ。

 お行儀が悪いですからね。

 

「うー、でもズルいよ! ミアミア、私にも普通に話してぇ!?」


 最後には泣きつかれた。

 ええと、まあ親友って言ってくれるのは嬉しいし、いつまでも他人行儀なのもアレだから、やぶさかでは無いんだけど。

 しかし今まで敬語だったものをいきなり変えるには少し努力しないと難しいかも知れない。

 

「じゃ、じゃあ一応気をつけてみるね」

「やったー! ありがとうミアミア! ひゃっほー! ようやくミアミアと心の距離を感じなくて済むー!」

「なんかよくわかんないけど、良かった感じ?」


 喜ぶ真夜さんと、首を捻るギャル子さん。

 混沌とし始めた室内に、スッと小さく手が上がった。 

 

 全員の視線が集中する。

 すると、とまるんが恥ずかしそうに、顔を真っ赤に染めて俯いていた。

 

「えっと、あの、その、わ、私も、ミアさんと、普通に話したい、です」


 今にも消え入りそうな声で要望を伝えられる。

 なにこの可愛い生き物。

 お持ち帰りしたい。

 俺は二つ返事で了承した。


 それから、ギャル子さんも入れて、四人でゲームをして遊んだ。

 とても楽しかった。

 

 最後に、写真を撮ってツミッターに上げたいと真夜さんが言い出し、全員で写真を撮ることになった。

 

 俺も可視化状態であれば普通に写るからね!

 

 配信者の三人の中に、何故かギャル子さんが混じることになるが、本人が良いみたいだからそのまま強行。


「んー? 今日はメイクも決まってるから問題ないっしょ。それよりあたしのツミッターにもアップしていい? 友達に自慢するし」


 とは本人談である。

 そんなわけで、四人で記念撮影をした。

 みんなの勧めでセンターを飾ることになり、少しだけ気恥ずかしかった。

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