【ep.20】世界は変わる
焚火の火がが弾ける音で私は我に返る。
ずっと伝えたかった事をちゃんと言葉にしようと無意識に強く手を握っていた。
「私を拾ってくれてありがとう」
マリアはキョトンとした様な顔をしていて、その顔を見つめながら私は言葉を紡いでいく。
「マリアに拾われてから世界が変わったんだ。こんな風に自由に旅をするのは初めてで、大切にしたいって思える仲間とも出会えた。私はマリアがいたからこんなに素敵な世界を知れたの。だからこの世界を大切にしたい……それに、マリアの事もずっと幸せにするよ」
マリアの顔が驚いた様な表情に変わって、少し照れくさそうに手を握り返してくれた。
「……エマ、わたくしこそ、あなたに素敵な世界を教えていただきましたわ。……エマ……」
「なに?」
「……明日のためにしっかり寝ましょうね。おやすみなさいませ」
「ふふっおやすみ……マリア」
マリアは何かを言いかけて私に背を向けて寝てしまった。
そんなマリアが可愛くて抱きしめる様にして私も目をつむる。
マリアが言いたい事、ちゃんと解ってるんだよ。
私だってマリアとずっと一緒にいたかった。これも私の本心なんだ。
だから最後には、ちゃんと伝えるからね。
*
朝起きてしっかりと身支度を整えてから、最後のダンジョンへ向かった。
目の前にあるダンジョンはいつもと変わらない精霊の住まうダンジョンだ。
気を引き締めて私は先頭を歩き出す。
いつもダンジョン内は迷路になってたんだけど、今回は一本道でトラップがいつ来てもいい様に身構えながら進んで行く。
でもトラップの気配もなくて、私を受け入れてくれているのかもしれない。いや、飲み込もうとしてる、と言った方が雰囲気が近いかも。
広間に着くとそこは既に明るくて、壁に灯されてる火で熱いとも感じる位の圧を感じて私は本能的に上を見る。
「みんな走ってッ!」
飛んでいたドラゴンが勢いよく私たちを襲う。みんな避けて攻撃は受けなかったけど、みんなバラバラになってしまって、合流するまで連携が取れない。
早く合流しようと私は少し離れた場所にいるマリアのもとへ駆ける。
「エマッ止まってくださいッ!」
「うわッ!?」
マリアの声で止まると、目の前の地面が裂け始めた。ドラゴンが地面に衝撃を与えていてその衝撃で地面はいくつも裂けてしまった。
辺りの様子を見ると、壁を囲う様に転々としているみんなの間は裂け目があってジャンプして行けるか厳しいところだ。
ドラゴンの視線が一直線に向いたのを捉えて私は反射でマリアを見る。
「マリアッ!!」
ドラゴンの腕が素早くマリアを襲った。
だけどマリアはその攻撃を槍で受け止めていた。
「残念でしたわね……わたくしそんなに弱くはありませんのよっ!」
ドラゴンに押され続けるマリアは強い視線を向けてしっかりと槍を握っていた。防ぎきれると安心できる強さに勇気づけられて私はドラゴンに目を向ける。
視界のすみで何かが飛んで行った。
「ああ、ごめんね。的を射抜くのは得意なんだ」
ノアは私の反対側から弓矢をドラゴンに向けて放っていた。固い背中に当たってはじき返されてしまったけど、ドラゴンはゆっくりとマリアへの攻撃を緩める。
次の瞬間にも剣が1本飛んできて、ドラゴンの背中に刺さった。
「1本貸してあげるよ。だけどあとで返してもらうからねぇ」
面白そうに嘲笑うレアは双剣のもう1本を手に握ってドラゴンの様子を伺っていた。
それでもドラゴンはまだ動いてる。
「そんなに動かれると、手元が狂ってしまいますね」
ソフィアは壁を殴って出来た大きな岩をドラゴンへ向けて投げた。ドラゴンに比べたら小さい岩だけど十分にドラゴンの動きを鈍らせた。
「シャルロット、ほんきっ、だすっ」
シャルルは力いっぱい念じていて、その力が光となって私たち個人を包みだした。シャルルの防御壁に守られてるなら怖いものなんて何もない。
ドラゴンが中央の地面に力なく立って私を捉えた。まだ正気には戻ってないんだね。
私は長剣を握りしめたまま今まで契約して来た精霊の力を感じていた。
私の想いに反応する様に地水火の魔法が剣に纏う。
「私はみんなの
羽を出してドラゴンの真上に飛んでいく。
そのまま大きく剣を上げて、ドラゴンに向けて魔法をかける。正気に戻るための魔法を。
魔法が光になってドラゴンを浄化していった。
私はドラゴンと同じ中央に着地すると、ドラゴンを見上げる。
優しい瞳は正気に戻った精霊のもの。
「私はエマ。きみと契約して神様になりに来ました!」
ドラゴンは無言で私を見続けていた。赤子を包む様な優しい瞳で。
「あわわっ……くすぐったいよ」
ドラゴンは私の頬を指先で撫でた。愛おしい瞳を向けられたまま、ドラゴンの手に乗せられて目線を合わせる様に上がっていく。
よくやりましたね
そんな声が聞こえた気がして、私は瞬きをする。そのすぐ後にドラゴンは私の頭を軽く撫でる。
私は風に包まれて宙に舞った。身体中が軽くなっていく様な感覚を抱きながら、マリアたちがドラゴンによって私の真下に連れて来られたのを確認した。
驚いて今にも泣きそうなみんなの顔を見て、私は消えて行くんだなって思った。
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