第7話 ご褒美

「8月のオフラインイベントの交通費を払ってよ。新幹線代。夜行バスでもいいけど……女子高生が深夜のバスで一人旅とか危ないと思わない? 昼間の新幹線に乗せた方がお兄ちゃんの精神衛生上も良いと思うな~」


「宿泊費? それは大丈夫。お兄ちゃんの家に泊まるから。場所だってちゃんと覚えてるよ」


「え……一人暮らし? そうなの!? 今までそんなこと一言も言ってなかった!」


「じゃあ大学は東京じゃないの? 東京だけど一人暮らし?」


「あぁ、たしかに片道2時間は辛いね。そっか。だから早くログインできる日もあるんだ」


「でも、せっかくの一人暮らしなのに彼女がいないなんて可哀想。あ、ごめん。自然にメスガキみたいなこと言っちゃった」


「ご~め~ん~。彼女がいないおかげで私は最高の戦士と冒険できてます。交通費を出してくれる上にタダで泊めてくれるリアルでも頼りになる最高のお兄ちゃんです」


「もちろん一人暮らしの部屋に決まってるじゃん。だって、都心の大学に近いんでしょ? ってことはイベント会場にも近いじゃん。ホテル代が浮くなら遠くてもいいかなって思ってたけど、近いならそれに越したことはないよ」


「それに、相棒であるお兄ちゃんがリアルでちゃんと生活できてるかチェックしないとね。一人暮らしで倒れたら孤独死だよ孤独死。ゲームで呼びかけても反応してくれなくてそのまま放置……なんてイヤでしょ?」


「こうやってほぼ毎日ボイチャしてるってことは、おばさんよりも私の方がお兄ちゃんの生活に詳しいってわけ。ふぅ……まさかリアルでもヒーラーみたいな役割になるなんてね」


「うちは狭いから実家に泊まれ? う~ん、おばさん達にも久し振りに会いたいからそれもアリっちゃアリなんだけど……イベント前日は絶対にお兄ちゃんの部屋に泊まる!」


「そりゃ何日かは居るつもりだよ。お兄ちゃんだって高い新幹線代を払うんだから東京を満喫してほしいって思わない? 最初は実家に行って、イベントの時はお兄ちゃんの部屋に泊まる。うん、完璧な計画!」


「イベントの頃はちょうど部活も休みだし、合宿は夏休みの最初の方だから全然平気。そうそう。合宿の間はさすがにログインできないからね」


「その間に私を守る戦士として精進するように。でも、エッチな格好をしたヒーラーに騙されたらダメだからね。中身はおじさん! キャラもリアルも女の子は奇跡ってことを忘れないように」


「リアルで再会したら、お兄ちゃん照れて何もしゃべれないかもね。そしたらざぁこざぁこって煽っちゃおう」


「お兄ちゃんネット弁慶っぽいからな~。あっ! SNSでマウント取りたいなら彼女のふりしてあげてもいいよ。腕を組んだり一緒に写真撮ったり」


「自撮りは上げない? まあ、そっか。お兄ちゃんだもんね。でも、彼女のふりはしてあげる。ほら、私がナンパされたら困るでしょ? お兄ちゃんはマウントを取れて、私は身を守れる。Win-Winってわけ」


「髪も伸ばしたし、待ち合わせしてもすぐに私だって気付かないかも。どうしようかなぁ。写真を送ってもいいんだけど、当日のサプライズにもしたいなぁ」


「本気だよ。夏休みは絶対東京行く。お兄ちゃんの部屋にも泊まるから掃除しておくように」


「見られたくないものはちゃんとレンタル倉庫に預けておいてね。隠すのはダメだよ。隅々までチェックするから」


「当然だよ。相棒の生活を管理するのもヒーラーの仕事だもん」


「布団とか別に買わなくていいよ。どうせ狭い部屋なんでしょ?」


「ベッドは……狭くても一緒で平気だよ。床に寝るのは絶対ダメ。ちゃんと二人でベッドを使って、体力を回復させるの。だって私、ヒーラーだよ?」


「相棒が疲れてるのは見過ごせないよ」


「絶対一緒に寝るから。だって……相棒だし」


「うん。絶対ッ! 絶対絶対。……ありがと」


「こんなこと滅多に言わないから、耳を澄ませてよーーーーく聞いてね。私のわがままに付き合ってくれるお礼。ご褒美だけど、ちょっとわがままだから。お兄ちゃんにも」


「だいすき」

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