第3話 抜いてあげる
「覚えてる? 私、昔は一人称が“オレ”だったの。お兄ちゃんも男の子だと思って接してたよね。どの辺で女の子だって気付いた?」
「はぁ? 引っ越す時? それはさすがに照れ隠しでしょ。あの頃は身も心もすっかり乙女だったもの」
「今はそういう時代じゃないってみんな頭ではわかっててもさ、やっぱり女の子は可愛い恰好をしてほしいっていうのが親子心みたい。大人の世界なら受け入れてくれる場所もあるけど、子供の世界って学校みたいな狭いところでしょ? だから、お兄ちゃんにはすごく救われた」
「“オレ”を受け入れてくれて、大好きな戦隊ごっこを一緒にしてくれて、本当に楽しかった」
「あっ! 今は今で楽しいよ。女子高生を満喫してる。ホントだよ? こんな風にゲームしてるのも楽しいし、学校の友達と遊びに行くのも楽しい。なんていうかほら、あの時の恩返しみたいな? 大学生になっても彼女ができないお兄ちゃんをゲームで慰める健気な女子高生的な?」
「ウソウソ! 冗談だって。最初はお兄ちゃんんだって気付かなかったし。お兄ちゃんだって最初は私を男だと思ってたでしょ?」
「女キャラを使うのは99%男って? まあ、ゲーム人口的にそうだろうけど……その理論でいくとお兄ちゃんは逆にネカマってことだからね?」
「おもしろいよね。小さい頃は男の子として遊んでたのに、今では普通に自分の性別と同じキャラを使ってる。ゲームの中なら男の子でも獣人でも何でもなれるのに」
「って! レア敵だよレア敵! ボスに体力を温存してる場合じゃないよ! ボスよりレアドロップするよ!」
「わーわー! 情報よりもトゲが大きい。回復追い付かないからお兄ちゃんうまく攻撃を避けてね」
「ああん、ごめん。こっちも回避で精一杯で全然回復できない。お兄ちゃんも頑張って避けて。隙ができるまでは回避回避回避!」
「うわあ! お兄ちゃん大丈夫!? トゲが刺さってる。刺さってる? あれ? こういうのって当たったらダメージを受けてそのまま消えるよね? なんで刺さったままなの」
「体力がどんどん減ってる!? まさか永続ダメージなの? どうしよう。とりあえず詠唱時間ほぼゼロの魔法で回復してみるけど、どう?」
「回復とスリップダメージがとんとんじゃジリ貧だよぉ……そのトゲ、全然消える気配がない。しかも大きいのが刺さってるせいで移動速度も落ちてるし」
「攻略サイトにはこんなの全然書いてなかったよ。え? あまり簡単に倒されるから強化された? 夕方のアプデで? もしかして最新の強敵と戦ってるの!?」
「ねえねえ、このトゲの攻略方法を拡散したらバズるよね? 撮影モード起動していい? いいでしょ。会話の音声は乗らないから」
「へへーん。私を止めたければ新幹線に乗ってうちまで来て。その前にボスを倒しちゃうけどね」
「え? 時刻表を調べる? 落ち着こうお兄ちゃん。そしたら誰がダメージを与えるの? それまで死なないように回復し続けるなんて無理だよ?」
「女子の声が動画に乗ってたら出会い目的のフレ申請が大量に来る? 声は乗らないように撮影するから大丈夫。さすがにアップする前に確認もするし。それよりもまずは目の前の敵だよ。攻略できなかったら始まらない」
「いくら強化されたって言ってもさ、このトゲをどうにもできないはずはないよね。お兄ちゃん、ちょっと試したいことがあるから移動を止めて」
「うん。そうそう。私が抜いてあげる。この辺りを触れれば……やった! ゆっくり動かせる。あんっ」
「うぅ……抜いてる最中に攻めるとかズルくない?」
「あっ! あの段差を上るのはどうかな。なんか亀みたいな見た目だから高い所井は来れないと思うんだ。トゲも遠くまで来るけど高さはないし」
「ほら、お兄ちゃん。がーんばれ。がーんばれ。よし、思った通りだ。ここならゆっくり回復できる」
「じっとしててね。私がスッキリさせてあげるから。んしょ、んしょ」
「声を出さなくていい? いや、でもさ、私の分身なわけだから、声を当てて気合いを入れた方が早く抜けるかなって」
「お兄ちゃんだってたまに声が出てるからね? ボスにとどめを刺す時とか。私にはハッキリと聞こえてるんだから」
「わわっ! なんかいっぱい出てきた。見たことない素材だ。なるほど。トゲが刺さるのもデメリットだけじゃないんだ。わざと刺さって、それを抜いてもらわないと手に入らない素材もあるんだね。これは有益な情報かも」
「私が何度でも抜いてあげるから、お兄ちゃんは思いっきりイっちゃって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。