第40話 消えた子猫
「勇太って過保護だよね~」
走る勇太を見送りながら、朱里が肘でつついて来る。
ニヤニヤしている朱里とは対照的に、結良は困ったように首を振った。
「過保護って言うか……気にし過ぎだよね。勇太くん、あたしのこと恩人だと思ってるんだって」
「へ? 何それ?」
「幽霊になって困ってた時、あたしだけ勇太くんの姿が見えたでしょ? あたしのこと命の恩人だって……だから心配してくれてるみたいなんだけど、気にし過ぎだよね?」
「結良、それマジで信じてるの?」
朱里はハーッとため息をついて、呆れた顔をする。
「そんなの、好きだって言えないから、そう言っただけに決まってんじゃん! だから、結良はニブイって言うんだよぉ」
「え、でも、勇太くんの本心かも知れないじゃ────」
「ないない」
結良は必死に言い返したが、朱里はまったく信じてくれない。
勇太は結良のことが好きだという自分の考えを、少しも疑っていないらしい。
結良と朱里がそんな話をしていた時だった。
「結良! オキがいなくなった!」
正斗の切迫した声が聞こえてきた。
「うそ!」
「お兄ちゃん、見てたんでしょ?」
結良と朱里が駆け寄ると、正斗がコスモスの茂みを手でかき分けていた。
「草の中に入ったのは見てたんだけど、そんなに動けないだろうと思って……ゴメン、油断した。一緒に探してくれ!」
「うん!」
結良と朱里も加わって、三人はコスモス畑を荒らさないように気をつけながら探し回ったが、子猫の姿は見つからない。
「もっと遠くまで行ったんじゃない?」
朱里にそう言われて、結良は辺りを見回した。
古墳を囲むコスモス畑の先は立入禁止区域になっているが、古墳の上や結良たちがいる場所はきれいに刈り込まれた芝生で、子猫が隠れられる場所は無い。
子猫がいるとすれば、コスモスの茂みか古墳を囲む生垣だろう。
「二手に分かれて探すか?」
「うん。お兄ちゃんは向こうを探して。あたしたちはこっち側から探すから」
「わかった」
結良たちは二手に分かれ、古墳の周りをそれぞれ逆回りに探すことにした。
「オキ! どこにいるの?」
コスモスの茂みをかき分けながら、結良が大きな声で呼びかける。
「ねぇ、あの木がある所が怪しくない?」
朱里が指さしたのは、コスモス畑からは少し離れた場所だった。
古墳の周りはきれいに整備されて見通しが良いが、古墳のすぐ脇に大きな木が一本生えている場所だけは、生垣と繋がる草むらがある。
「うん。行ってみよう!」
二人は生垣の根元に子猫がいないか確認しながら、大きな木を目指した。
丸く枝葉を広げた木の根元にたどり着き、結良は勢いよく大きな木の後ろに回り込んだ────途端、景色が一変した。
「うそ……」
木の後ろに回り込んだはずなのに、パソコン室から迷い込んだ時と同じ、黄昏色の草原が広がっていた。
なだらかな丘陵から続く、荒涼とした草原。
結良は辺りを見回して、そこにいるはずの人物を探した。
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