第36話 協力するよ


「それって……幽霊じゃなかったんだよね?」


 大きな目をさらに大きくして、朱里あかりが聞き返してきた。

 翌日の昼休み。ポカポカと暖かい日差しがいっぱいの校庭のすみっこで、結良ゆらは昨夜見た映像の話を朱里に打ち明けていた。

 ちなみに勇太ゆうたは、男子たちとサッカーをしていて、ここにはいない。


「って事はさ、残留思念ってヤツじゃない?」

「ざんりゅう……しねん?」


「そっ。強い思いは、場所や物に残りやすいんだって。前に見たテレビでね、超能力者が家に残ってた残留思念を読み取ってたよ」


「ふーん、そうなんだ」

 結良はいまいちピンと来ない。


「そのイチハさんはさ、あたしが思うに、オキの恋人だったんじゃないかな? 恋人が処刑されちゃっただけでも悲しいのに、いざとなったら、その人の魂を消さなきゃならないなんて、すごくつらいよね! あの腕輪に思いを残してても、ぜんっぜん不思議じゃないよね!」


 朱里には意外と乙女な一面があることを、結良は最近になって発見した。

 朱里の頭の中で、イチハは少女マンガの主人公のようになっているに違いない。もっとも、映像を見た結良も、朱里と同じような思いを抱いていたが。


「そうだね。イチハは、オキの事がとっても好きだったから、自分が死んだ後の事まですごく心配してたんだよね。神守りの一族としての役目はもちろん大切だけど、オキの魂を守りたかったから、鈴釧すずくしろにメッセージを残したんだよね?」


「うん」


 楽しげな声があちこちから聞こえてくる校庭の隅で、結良と朱里のまわりだけは、ほんのひととき悲しげな空気に包まれていた。


「ねぇ、いま思ったんだけどさ、神守りの一族から神の字を取ったら、結良の名前になるね」


「えっ? 神……守りの一族?」

「そう。もりの一族の、森野結良」

「なにそれっ」


 結良は笑ったが、朱里は真面目な顔をする。


「名前なんてさ、案外そんな感じで続いて来たんじゃない? 漢字を変えるだけで、すごくイメージ変わるしさ」


「朱里ちゃんて、なんかすごいね!」

「すごいのは結良んちだよ。よく千五百年も……ううん、きっと、もっと長く続いてきたんだよね」


「うん。戦争があったせいで、おばあちゃんに詳しい話は伝わらなかったみたいだけど、そこまで伝え続ける間も、きっと大変なことがたくさんあったんだろうと思う」


 結良は空を見つめた。

 おばあちゃんはオキの存在を迷惑だなんて思ってないけど、中には重荷だと思っていた人もいたかも知れない。

 ここで、結良がオキの魂を天に還すことができたら、イチハから続く神守りの一族の思いも、すべて終わりにできる。


「朱里ちゃん。あたし、絶対にオキの魂を天に還すよ。誰になんて言われても、あきらめないから」


「また勇太に怒られるね」


「大丈夫。今度は気をつけるから!」


 結良がそう言うと、朱里はハァーとおおげさなため息をついた。


「結良の大丈夫はアテにならないからなぁ」


「うっ、そんなこと……」


「いいよいいよ。オキの〈影〉探すの、あたしも協力するよ。あたしだって、その腕輪にオキを封印したくないからね」


 朱里は結良の左手首にそっと触れた。

 長袖のトレーナーに隠れてはいるが、昨夜から外れなくなってしまった金色の鈴釧すずくしろが、包帯に巻かれた状態で結良の手首にある。


「勇太は反対するだろうけど、あたしから上手く話をしとくからさ」


「うん。ありがとう朱里ちゃん!」

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