第29話 魂を縛る呪具


 おばあちゃんは玄関でサンダルをくと、無言のまま蔵に向かって歩き出した。

 蔵の中に入って明かりをつけると、おばあちゃんはすぐに蔵の内側の戸を閉めた。


「おばあちゃん、どうしたの?」

「オキ様には、あまり聞かせたくないんだよ。ちょっと手伝っておくれ」

「う、うん」


 結良ゆらはおばあちゃんに言われるまま、蔵の奥の荷物をどけると、床に敷いてあったシートをはずした。

 シートで隠れていた場所には、四角い床下収納庫の扉のようなものがあって、おばあちゃんが扉を開けると階段が現れた。


「地下室があるの?」


 驚く結良にかまわず、おばあちゃんはヨッコラショと言いながら階段を下りてゆく。


「早く下りといで」


 結良が階段を下りてゆくと、そこは三畳ほどのスペースで、壁際には木の箱が二つ並んでいた。

 LEDランタンに照らされた地下室は、子供たちが秘密基地にして遊びたくなるような空間だった。


「夏休みにケヤキ塚のほこらが倒された後、この蔵の中を調べ直してみたんだよ。それで、この地下室を見つけたんだ」


 おばあちゃんはそう言って右側の木箱の前に座ると、そっと木箱のふたを開けた。

 中には小さな木箱がいくつか入っていて、その中にあった黒い漆塗りの箱に手を伸ばした。


「ここへお座り」


 おばあちゃんは結良を隣に座らせると、黒塗りの箱のふたを開けて中を見せてくれた。

 つやつやした紫の布に包まれていたのは、金色の腕輪のようなものだった。


「これ、なに?」

「これはね、鈴のくしろという物らしい」

「くしろ?」


「腕輪のことらしいよ。でもね、ただの腕輪じゃないんだ。『禍つ魂を捕縛する釧』だと添え書きがあったんだよ。たぶん、影様のような魂を捕らえる古代の呪具ではないかと思うんだ」


 おばあちゃんは箱から金色の釧を取り出すと、結良の手のひらに乗せた。


 ドクン────と心臓が飛び跳ねるような衝撃があった。


 鈴の釧という名前のとおり、腕輪の外側には鈴のような形の飾りがたくさんついている。


「使い方はわからないけど、ものすごく力を感じるだろ?」

「うん……」


 結良はうなずいた。手に触れているだけでも怖いような気がする。


「オキ様は、もう影様を探さなくてもいいと言ったけど、影様のほうが結良ちゃんに近づいてくるかも知れない。おばあちゃんはそれが心配なんだよ。万が一、また影様の結界に引き込まれたら、今度こそ戻って来られないかもしれない。あくまでも万が一の話だけど、これをお守り代わりに持っていなさい。あたしにはもう無理だけど、結良ちゃんならきっと使えるから」


「うん……でも、これで〈影〉を捕まえたら、オキはどうなるの? 魂が半分になっちゃうの?」


「それは、おばあちゃんにもわからない。でもね、いざとなったらオキ様のことより、結良ちゃん自身の安全を一番に考えてちょうだい。きっとオキ様も、そう思ってらっしゃると思うよ」



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