第17話 真夏の怪現象


 正斗まさとが二階から下りて来ると、リビングに結良ゆらの姿はなかった。

 壁際のソファに座ってテレビをつけると、ネットニュースで話題だった天候異常のニュースが流れてきた。


『……毎日猛暑がつづく首都圏ですが、不思議なことに、一か所だけ雨と低温が続いている町があるそうです。ネットやSNSでも話題になっているようですね。気象予報士の原田さんはどう思われますか?』


 アナウンサーと気象予報士が話しているのは、まさにこの町のことだ。ネットでたまたま見つけて、結良に教えてやろうと思って下りて来たのに。


(出かけたのかな?)


 正斗が首をかしげたとき、ボソボソとしゃべる低い声が聞こえてきた。


(ばあちゃんの部屋からだ)


 聞きなれない男の声に、正斗は聞き耳をたてた。

 ふすまに近寄って注意深く聞いてみると、声の主は不思議な話をしていた。

 ヤマトやムサシ、カミケヌなどといういにしえの国々の名前が飛び出すその話は、壮大な歴史物語の一部というよりは、誰かの身の上話のようだった。


 しばらくして声が聞こえなくなると、ふすまがスッと開いた。


「お兄ちゃん、いたの?」

「ああ。誰か来てんの?」


 正斗はそう言って、おばあちゃんの部屋をのぞき込んだが、部屋の中にはおばあちゃんと、布団の上に座る子猫しか見当たらない。


(あの猫……)


 気がつくと、結良が上目づかいにじっと正斗を見上げていた。


「お兄ちゃん? もしかして、聞いてた?」

「ああ……なんか面白い話してたから。あの猫さ、ずいぶん元気になったじゃん」

「うん。そうでしょ、元気になったよね」


 そう言って結良は笑う。


「そうだ! おまえ、この雨と低温が、この辺だけだって知ってた?」

「えっ、何のこと?」

「ニュースで話題になってるよ。真夏の怪現象だってさ」


 正斗に言われて、結良はテレビの方へ振り返った。

 テレビのリポーターが、見慣れた駅前広場で傘を差しながら「寒いです!」と繰り返している。


「うそっ!」

「マジでこの辺だけらしいよ。ほかは全国的に猛暑日だってさ!」


 今度は正斗がじっと結良を見下ろした。


「おまえ、何か知ってるんじゃない? もしかして、さっき話してた面白い話と何か関係あるのか?」


「……お兄ちゃん、マジ、鋭いじゃん」


 結良は困ったように笑う。

 その時、ちょうど電話が鳴り、結良と正斗は争うように電話に駆け寄った。

  

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