第12話 勇太(本体)奪還計画


 牧田のおじさんの囲炉裏小屋で体を温めた三人は、結良ゆらの家に場所を移して、勇太ゆうたの体を取り戻す計画を立てていた。


「やっぱりさぁ、その良介さんって人がほこらを倒したことが原因なんだから、ちゃんと謝った方がいいと思うの」


 鉛筆を振り回して結良が力説すると、勇太が困ったような顔をした。


『謝るって……良介さんが、オキの〈影〉に謝るってこと?』


「そうよ。オキの〈影〉の居場所を突き止めたら、良介さんを連れて行って、きちんと謝ってもらおうよ。悪いことしたんだからさ」


「あのさぁ……結良の気持ちはわかるけど、オキの〈影〉は謝ったくらいじゃ許してくれない気がするし、あたしは良介さんが素直に謝るとも思えないのよね」


 朱里あかりが申し訳なさそうな顔でそう言うと、

『おれも、そう思う』

 と、勇太も同意する。


 朱里には、幽霊の勇太の声は聞こえてなかったけれど、結良が特別に通訳しなくても、なんとなく会話が出来ていた。


「確かに、二人が言うように難しいとは思うけど、まずは謝るところから始めないといけない気がするんだ。だって、その良介さんて人も、次に勇太くんに会ったらケンカを売りそうなんでしょ? 中身がオキの〈影〉……ケヤキ塚のヌシだって知ったら、少しは考えが変わるんじゃないかな?」


 結良はそう信じたかった。


「良介さんを説得するのはあたしがやるからさ、朱里ちゃんは、良介さんの居場所を教えてくれない?」


「それはいいけど、大丈夫?」


「大丈夫。きっと上手くいくよ」


 結良が自信満々にうなずくと、朱里も笑ってうなずいた。


『それじゃ、おれはオキの〈影〉を探すよ。おれの体を返してもらうために、おれもあいつを説得するよ』


「勇太くん、やる気出たじゃん!」

「えっなに? 勇太が何だって?」


 朱里が結良の腕をゆさぶる。


「勇太くんがね、オキの〈影〉を探して説得するって」

「へぇ、すごいじゃん!」


 朱里にもほめられて、勇太は恥ずかしそうに頭をかく。


『ホントはめちゃくちゃ怖いんだけどさ、やってみるよ』


「大丈夫だって! 勇太くんは幽霊なんだから、これ以上困ったことにはならないよ!」


『それって、ひでぇな』

「アハハ、ごめんごめん」


 結良が笑いながら謝ると、朱里が立ち上がった。


「それじゃ、あたし行くね。良介さんの居場所がわかったら連絡する」


 朱里はそう言うと、ヨイショと重そうなビニール袋を持ち上げた。牧田のおじさんが帰りがけに持たせてくれたジャガイモの袋だ。


『おれも、オキの〈影〉を探しに行くよ』

「うん。二人ともお願いね」


 朱里と勇太を門の外で見送ってから玄関に戻ると、おばあちゃんが結良を待ち構えるように立っていた。


「おばあちゃん、起きて大丈夫なの?」


 結良はあわてて靴を脱ぎすてると、おばあちゃんにかけよった。


「ああ、もう大丈夫だよ。今のはお友達かい?」

「うん。同じクラスの子だよ」


 結良はおばあちゃんの体のことを考えて、詳しい話はしないつもりだった。しかし、おばあちゃんはじっと結良の顔を見たままその場を動こうとしない。


「結良ちゃん。あんた……あの男の子も、クラスの友達なのかい?」

 少し怖い顔で聞いてくる。


「男の子って……おばあちゃん、勇太くんが見えるの?」


 結良はびっくりしてそう聞き返してから、あわてて両手で口をふさいだ。

 もちろん、いくら口をふさいでも、出てしまった言葉はもう戻らない。


「あたしにも見えるよ。それじゃあ結良ちゃんは、あの男の子が人じゃないってわかってるんだね?」


「うっ……うん」


「そうかい。あんたは小さい頃からちょっと人より見え過ぎるみたいだから、もしかして、あの男の子のことを人間だと思ってるんじゃないかと心配したけど、分かってるならまだ安心だ」


 おばあちゃんはそう言ってから、もう一度ジロリと結良を怖い顔で見つめた。


「でもね、なんで人じゃない男の子と友達になったのか、おばあちゃんにちゃんと話してちょうだい。あの男の子に悪いものは感じなかったけど、人と人でないものが、必要以上に一緒にいるのは良くないんだよ」


 おばあちゃんの言葉も表情も真剣そのもので、結良は黙ってうなずくことしか出来なかった。

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