幕間 ジャンヌとラクシャラ~五年前~
「あいつ、何やってんだ?」
神殿のある山の、うっそうとした木の上から地上を見下ろし、私は首を捻った。
幼いラクシャラの巫女が、麓の村の子供たちを遠巻きにして眺めているのだ。
村の子供たちは熟れた種々の果実を手に、楽しげに話している。
ラクシャラの神殿のある山の周囲は恵み豊かな土地だ。それを含めて、女神ラクシャラの加護とされている。
その周辺の村も、全体的にのんびりとして穏やかな時が流れているのだ。
そんなのどかな農村の風景の中で一人、巫女の少女だけが浮いている。
私はそれを樹上から見下ろしているのだが──
「……ひょっとして仲間に入れてもらおうとしてるのか?」
同じ年頃の子供たちを、少し離れた木陰から見詰めて、なんとか遊び仲間に入ろうと画策している姿は、いじましいというか、なんというか──
「む?」
木陰から意を決して踏み出す、巫女の少女の姿に私は思わず唸る。
だが、次の瞬間、巫女の少女は盛大に土煙を上げてこけていた。
「……あいつ、転んだのか?何もない所で?」
私は思わず呆然としながらかぶりを振った。
「鈍くさすぎる……」
巫女の少女は泣き出してしまった。その騒ぎを聞きつけた大人たちが駆けつけてきて、巫女の少女は丁重に運ばれていったが、当然のことながら子供たちの遊びの輪に入ることは叶わないのだった。
〇
ラクシャラの巫女から、次代の巫女の様子を度々見に来るように促されて、数年の年月が経った。
だがしかし、それだけの期間時折見ている限りでも、あの巫女の少女は生真面目な性格ゆえか何か気負い過ぎているのか、よく失敗をする。
ただ、本を読んで知識を蓄え、神殿の催事などはつつがなく行える。
思うに──自分自身の欲求を通すとなると途端に不器用になるのだ。
「……なにやってんだか」
山の上の神殿への道を、とぼとぼと帰っていく巫女の少女を樹上から見下ろし、私は呆れて呟いた。
夕暮れの風にさびしげに揺れる巫女の貫頭衣を、私は思わずまぶたを閉じる。
「仕方ない……」
私は樹上から辺りの木を見渡し、目当ての物を見つけると、音もなくふわりと宙を舞ってそれを何個かもいだ。
神殿への帰り道に先回りして戻ると、巫女の少女が来るタイミングを見計らって私は幾つか手に持っていたそれを地面へ放り投げる。
突然、足元に転がってきたそれに、巫女の少女が目を見開いた。
「あれ、これ……柘榴の実?」
私の目論見通りに、巫女の少女が私のもいだ果実を手に取る。
「この近くに柘榴の木はないはずなのに、どうして……」
私は樹上でどきりとしながら、身を縮める。
(別にいいだろ、そんなの!こう……色々あるだろ!鳥が運んでたのが落っこちたりとか、なんだとか!)
私はやきもきしながら、巫女の少女がこちらを見上げる視線から隠れていたが、やがて赤い果実を片手に歩き出す彼女の姿にほっとして木の幹に背中を預ける。
「村の子供たちと一緒とはいかないまでも……少しはいい思いしていいんだぞ。お前だってさ……」
私は次第に遠くなる少女の背中を見ながら、柘榴の実を一口、かじった。
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