第5話 後輩といたら何かが起こる① 

 俺はちょっとしたお菓子なら近くのコンビニでもいいと言ったのに、後輩は量が欲しいと言って10分ほど歩いたスーパーへと足を運んだ。


 父さんたちはどこで買い物をしているのだろうと周りを見るがぱっと見では確認できなかった。確認できたのはさっきまで隣に居た後輩がお菓子の棚の前でなにやら品定めをしている所だ。


 ここに来る前に財布を奪われ、所持金を確認されたのだが金額をみて後輩は頭を悩ませていたようだ。財布の中には二千円入っていたはずなのに、もしかして足りないというのだろうか。


 まぁ前提として後輩は財布を持ってきていないこと自体がどうかと思うが、もう慣れたので特に言う事は無い。言う事は無いが、流石に今月は厳しい…現在全財産二千円、バイトは二十日締めであと一週間は待たないといけないという。


 そんな中二千円ぎりぎりまで使おうとしているのであれば何が何でも止めておきたいところ。いつか独り暮らしをするため、後輩から離れるために貯めるのだ。そのためならゲームへの投資は今はやめだ…


「成実、出来れば五百円以内にしてくれると出すかるんだが…」

「先輩何甘い事と言ってるんですか、二千円ぎりぎりの計算してるので黙っててください」


 やはりか、こいつは俺の財布を空にしたいようだ。だが、それをなんとしても阻止したい。


「成実さんちょっとマジで今月厳しいので、お金以外なら何でもするから五百円で抑えてもらえないか?」

「……先輩なんでも?何でもしてくれるんです?」


「あぁ、俺の童貞とファーストキスを奪わなければなんでもいいぞ?」

「わかりました、じゃあお菓子一つにしますね」


 何とか交渉成功のようだ、だが少しばかりの不安があるのはなぜだろう。襲われない保証はあるとしても後輩の考えは俺の斜め上を行くから予想ができない。


 財布の危機を免れた安心感と、何を要求されるのか分からない不安の中俺と成実は買い物を済ませ、帰路へ就いた。


*****


 現在時刻十九時事件は起こった。俺が危惧していたあの要求が今目の前で行われているのだ。


「先輩、早く早く!」

「あぁ、はいあーん」


「ん、美味しいです♡」


「あらあら、三年目でも仲良しなのねぇ」

「見てて恥ずかしいが、微笑ましい気持ちにもなってくるね」


「(なぁ成実これは何の公開処刑だ?)」

「(私とのイチャイチャを家族に見せつけるいい機会じゃないですよ。変に怪しまれるよりこうやって見せつける方が恋人感あっていいじゃないですか。(ボソッ)ただ食べさせてもらいたかったですけど…)」


「(何か言ったか?)」

「(な、なんでも?)」


 なんでこんな面倒なことを…そう思いながら俺は後輩に晩御飯のカレーを食べさせせている。このカレーは昨日俺が作った物でスパイスも結構アレンジしてあり、少し辛めに仕上げている。だが、ただ辛いだけではなくもう一口食べたくなるように工夫もしてあるのだ。


 疲れている日などは日持ちするものに限るな、これから疲れる要因が目の前に居るし。後輩が何を考えているかは分からないが、どうやらこの恋人芝居を両親に見せつけたいらしい。


 俺としても嘘でしたってばれたら後で何を言われるか…想像しただけで背筋が凍る思いだ。


「先輩美味しかったです。ごちそうさまです!ついでにお口拭いてくれませんか?」

「はぁ、それくらい自分でしろよな。仕方ないなぁ」


 ここでごねたところで親が見ているのだ「してあげたらいいだろ?」とお父さんから言われそうで素直に後輩の言う事を聞くことに。


 じっと目を瞑ってこちらに顔を向けている。頬にちょっとだけ付いたカレーをティッシュで拭おうと触れると、少しだけビクッと身体を震わせ何かイケない事をしてる気分になってきた。


 唇にも少しカレーがついていてその綺麗な薄桃色の唇を見てしまう。実際顔は可愛いのだこんなキス顔みたいなのされたら誰だってドキドキしてしまう…俺だって例外ではない。


 普段の素行を知ってはいるがこうも大人しいと変に意識してしまう、期待しているのではないのかと…。でもそんなことはないと自分に言い聞かせ唇を拭く。


「お、終わったぞ?」

「はい…あ、ありがとうございます」


 そういった後輩は少し頬を赤く染め俯いていた。その反応はずるいだろ…なんだか今はこいつを冷静に見ていられない気がして、後輩から目を逸らす。


「あら、なんだか二人初々しい反応するのね…?もしかしてキスはまだだったりするのかしら」

「お、お母さんには関係ないでしょ、私達には私達のペースがあるんだから」


 なんだかそれっぽいこと言ってるけど、俺の前でさっきまでセックスやオナニーなど卑猥な発言をしていたやつとは思えないな。


 そうは思ってもあの顔は可愛かった…なんだか分からんが、胸のドキドキが収まらないし、こ、これは多分親に俺たちの関係が嘘だとばれないかはらはらしているからに違いない。多分そうだ。だって…こんなのおかしいし。


 俺は一度、自分を落ち着かせるために部屋に戻ろうと思い、成実に声を掛けた。


「俺、部屋に戻るわ」

「あ、先輩私お風呂入りたいです」


「ん?あー沸かしておくから好きな時に入ってくれ。あとで入るから」

「いえ、先輩が先に入ってください」


「え?なんで成実が入りたいんだろ?」

「り、理由は言えませんが、先に入ってください」


 後輩の考えていることは分からないが、ここで言い争っても良い事は無さそうだし「わかったよ」と返事をして湯を張って一人で風呂に入っているとまた事件が起こるのだった。

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自堕落な後輩…妹になる 白メイ @usanomi

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