第3話 後輩に任せるんじゃなかった

「それで二人は付き合っているのかな」

「はい!愛し合ってます」


「はい…」


 指定されていた喫茶店に入り、仲睦まじい様子の二人の前に行くと驚いた顔をされたのち軽く自己紹介をし、お父さんの問いに成実は元気よく答えるのだった。それに続けて俺も弱弱しく肯定する。


「そうか…困ったな」

「そうですねぇ、うちの娘の成実と和人かずとさんの息子さんが付き合っているとは」


 後輩の作戦通りお父さんと後輩のお母さんは困ったような表情をしている。それはそうだ、自分の子供たちが恋愛関係にあるだなんて知ったら困惑するだろう。


 困惑する二人とは違い自分の金じゃないのだからと一番高いパフェを呑気に食べている後輩。神経図太過ぎるだろ!俺でもコーヒー一杯だぞ。


 大きな壁があるんじゃないだろうかといる程の温度差の中お父さんは別の質問を投げかけて来る。もう同居は無くなったようなものかなと安堵し後は後輩に委ねる事に。


「えーと、二人はどれくらいの期間付き合っているのかね?」

「三年ですね、私がいじめられてた時に蒼汰先輩に助けてもらいました」


 四年前、それは俺たちが出会った頃の話しだろう。当時俺は後輩の事を男だと思いいじめから助けてしまった。


 助けたことに対しては後悔していないが、女の子だと知ってからは後悔した。必要以上に引っ付いてくるから俺には未だに彼女の一人もできたことがない。悪魔だよこいつは…


「ほぅ、三年か…長いね」

「私達より二年も長いですねぇ、もしかしたら和人さん」


 二人は先ほどの困ったような表情は無くなにやら見つめ合って頷ていた。


「うん、そうだね。話は変わるが成実なるみちゃんだったかな?蒼汰そうたのどういうところが好きなんだい?」


 早瀬はやせ 蒼汰そうた俺の名前だ。

 お父さんの質問に対して後輩は頑張って絞り出そうと苦い顔をしながら答えた。

 どうせ俺にはいい所なんで無いですよ。


「えー、とご飯くれる所とか…一緒にゲームしてくれる所とか、ですかね…」


 それは半ば強制でやらされてる事だよ。

 ご飯って弁当は勝手に食うし、外食に言ったら財布忘れたとか言われるし。ゲームに関しては昨日みたいに脅されるしで俺からしたら全てマイナスポイントなんだけど。


「あはは、成実ちゃんは蒼汰に愛されてるんだねー」

「そ、そうですね!」


 ポジティブにとらえるのはお父さんの良い所だけど今回ばかりは嬉しくない。俺こき使われてるだけ何です!って今にでも言ってやりたいが状況が状況だ。


 俺達は嘘をついても同居と言う選択肢を失くしたいのだ。その為なら後輩の虚言だとしても今は目を瞑ろう決意した。


「それじゃあ、もう一つ質問…」

「はい!なんでも」


「二人はこの先結婚するつもりなのかい?」

「あー、まぁはい」


 いやこれ肯定していいのだろうか。後輩は流れで見たいに答えているが、これ嫌な予感がするんだが?


「そうかそうか、なら安心だ。蒼汰も同じで大丈夫か?」

「……」


 俺は黙ってしまった。これにYesと答えたら一緒に住む羽目になりそうだし。どうしたものだろうか、そう考えていると


「そ、蒼汰先輩もこの前結婚したいって言ってました!」


 ????

 こいつ状況分かってるのか?


「いや、俺は――」

「おい蒼汰もしかして、遊びで…とか言わないよな?」


「いや…すぅ…け、結婚する予定です、はい」


 お父さんは趣味でトレーニングをしているのでそのガチガチに鍛えられた大胸筋の圧に俺は負けてしまった。


「そうかそうか、なら今週の土日に引っ越しでも大丈夫かな秋穂あきほさん」

「えぇ、荷物はそこまで多くないですし2日もあれば大丈夫だと思います」


「わかった、じゃあそういう――」

「ちょっと待ってください!」


 大人二人が半ば無理やり話を進めようとしているのを聞いてパフェを完食し終えた後輩が声を上げた。


「一緒に住むのはちょっと…」

「あーそうだね、慣れるのにも時間は掛かると思うし。成実ちゃんの気持ちを考えていなかったのは申し訳ない」


「そ、そうですよね。私も今の家から――」

「成実ちゃんは、蒼汰のご飯を食べたことがあるかい?」


「え?あ、はい。とても美味しかったです」


 俺は料理をしないお父さんの代わりに幼少期からずっと研究してきている物でプロの料理人にも負けないくらいには自信はあるが。


 何か嫌な予感がするな。後輩は俺の弁当を好んで食べていた気がするし、もしかしてだけど…うん、そろそろ俺も口を出してもいいだろうか、このままだと口車に乗せられてしまいそうだ。


「じゃあ毎日蒼汰の手料理が食べられるとしたらどうだい?」

「住みます」


 即答だった…俺が口を出す前に話し合いが終わってしまった。俺はこの中で一番権力が無いと言っても過言ではないので望み薄な後輩だったが案の定といった感じだ。後輩に任せるんじゃなかったとひどく落胆した。


 俺に拒否権は無い、そう言わんばかりに3人は俺の見て同意を求めて来る。


「はい、問題ないです」


 俺は圧に負け頷いてしまう。もうなるようにしかならないのなら運命に逆らわずただ流されに身をゆだねるだけと思いながらも作戦失敗した後輩を睨むと目を逸らされる、そんな事をしながら残りの時間を過ごすのだった。

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