第14話 大切にしたい好きがある
彼に連れられて、近くの公園まで歩いていく。
歩きながら、涙が止まらなくて、もう、どうにでもしてくださいって感じだった。
彼と公園のベンチに隣り合って座る。
「大丈夫ですか?」
彼は優しく問いかけ、ハンカチを渡してくれる。ワタシが洗って返したハンカチが、またワタシの手元に戻ってきた。何の因果か。
ワタシは涙でさらにぐちゃぐちゃになってしまった顔を見られたくなくて、彼を見ることができなかった。
「ごめんなひゃい」
絞り出した言葉は、いろいろなことに、迷惑をかけてしまったことに、ワタシに時間を使わせてしまっていることに対する謝罪。
「気にしてないですよ」
そう優しく言われたけれど、とても気にしてしまっていた。
「少し僕の話をしても良いですか」
ワタシはコクリとうなずく。
「先日、彩川さんと話して、今、小説を書きはじめているんです。といっても、まだ、どういう話にしようかはわからないのですが、ただ書きたくなって、思うままに何かを書いているって感じですが」
彼が小説を書き始めたという話は、単純に嬉しかった。ただ、何の話をしているのだろうとは思う。
「そういうきっかけをくれた彩川さんには、すごく感謝しているし・・・」
彼はすこし言いよどむ。
「・・・、今、個人的に・・・」
個人的に?
「・・・彩川さんのことが・・・」
彩川さんのことが?
「・・・気になってます」
気になってます?
「まだこれが、好きという気持ちなのかどうかは、自分でもよくわかっていないけれど、それでも彩川さんともっと話をしたいし、一緒にいる時間を作りたいって思っています」
どどどどどどどどどどどどどどど、どういうことなの?
彼の顔を見ると、彼は微笑みながら、ちょっと照れくさそうにしていた。
「そ、そ、そ、それって・・・」
「たぶん、僕も、好きになりかけているんだと思います」
!
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバすぎる・・・。
こ、心の中の怪獣が大暴れしそうになる。
でも、そう、ワタシには彼に言っていない秘密があった。すっかり忘れていた。
人生ではじめて、想いが成就しそうなのに、きっと彼もワタシの秘密を知ってしまったら・・・。でも、彼ともっと親密になりたかったら、絶対に避けては通れない秘密。
ぐにゅう、目からまた涙が出てくる。
でも、今言わないと、きっと後になったら、もう修復不可になってしまう気がする。彼との関係もそうだし、ワタシの心も壊れてしまう気がした。
「あの・・・」
声を絞り出す。
「ワタシ、言ってないことが1つあって・・・」
彼はまっすぐこっちを見て、言葉を待っているようだった。
「ワタシ・・・」
ああ、言いたくないけれど、でも言わないといけない。言わないで、これ以上先には進めない。
「ワタシ、男なんです」
言ってしまった。ああ、ついに、言ってしまった。もう、これで、これで、終わり。終了です。
「知ってましたよ」
は?
知ってた?
どういうこと?
「前に、彩川さんが転びそうになった時、その、アレが太ももに当たってて、ああそうなのかなって」
え?
恥ずかしすぎて死にそう・・・。
「なので、それもわかった上で、彩川さんのことがもっと知りたいとは思っています」
リンゴーン、リンゴーン、頭の中で教会の鐘がなりました。もうワタシは、いつ死んでも大丈夫です。
「特に僕はそういう性的な指向があるわけではないんですど、ただ、気になっている人、好きになった人がたまたま元は男性だったというだけで、それで彩川さんを嫌いになるってことは無かったですね」
嬉しすぎて悶絶死にそう。今日、ワタシは何回死ぬのだろう。そして、さっき大泣きしたばかりなのに、また涙が溢れてきた。
「どうなるかはわからないけれど、今、心の中で思っている好きという気持ちは大切にしたいかなとは思ってます」
ああ、もうヤバい。泣きすぎて鼻水もヤバい。涙で化粧もぐちゃぐちゃでヤバい。人にはじめて好きという感情を、まだ小さい、好きになりかけだったとしても、その気持を伝えてもらったことに、心がぐちゃぐちゃでヤバい。もうヤバい。ヤバい意外の言葉が見つからない。
彼はそんなワタシをそっと引き寄せて抱きしめてくれた。
ヤバくて死にそう。
この瞬間が幸せすぎてヤバい。
ワタシの中の怪獣は、口から炎を吐きながら踊っていた。
—
その後、ワタシたちは付き合うことなったけど、それはまた別のお話。
そして彼は2作目の小説「大切にしたい好きがある」をリリースしました。
ベストセラーになれ!って思います。
応援よろしくお願いします♪
大切にしたい好きがある 祐里葉 @yuriharami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます