第1話 「好き」が集まるカフェ

今日は澄み切った青空がとても気持ちが良い。こんな週末は、やっぱり心地よい空間で読書が一番♪


彩川理央あやかわりおは行きつけのカフェに向かうため、週末のルーティンをはじめる。


メイクをしていると、レベルアップしたような気持ちになる。ファンデを塗ると、もう1人の自分が顔をだす。


大切なのは目だ。ここだけで、ワタシは20分も時間をかける。時間をかければかけるほど、よくなるわけじゃないけれど、気づいたら、あっという間に時間が経っていることが多い。


まずは二重を作り始める。まぶたをギュッと奥に押し込んで二重のラインを作り、左右のバランスを調整する。それを目印にアイパッチ。アイパッチはいろいろとあるけれど、ワタシの場合はノリタイプを使っている。


ずっと使っていると、二重がクセになるみたいだけど、ワタシは週末だけメイクをしているので、未だに二重にはなっていないし、週末だけだから整形もしなくて良いかなって思ってる。


アイパッチが乾いてきたら、アイライナーペンシルで少しずつ、目を大きくしていく。あまりやりすぎてしまうと、悪魔みたいになっちゃうから、線の太さが難しい。ワタシは目が小さいから、目の内側にもアイライナーを入れていく。


そしてビューラーでまつ毛を上げて、マツエク。マツエクは未だに慣れないところがあって、いつも端っこがちょっとズレちゃう。でも今日はなんか良い感じでバッチリ決まった。


で、アイシャドウ。ワタシは濃いアイシャドウがあまり好みではないので、薄めのピンクを使っていて、さらにそこにラメ系のものを被せていく感じ。ちょいキラ。


口紅はそこまで赤くない少しピンク目のもの。で、グロスをのせて、ぷっくりを目指す。でも、もともと唇の厚さが薄めなので、ぷっくり感はそこまで無い。けど、やっぱり憧れるぷっくり感。ワタシ的ささやかな抵抗。


お化粧をしながら思う、そういえば今年28歳かあと。


彩川理央は普段、小さなIT系企業で事務員として働いている。仕事は淡々と、それは機械のように、何も考えず、与えられた作業をこなし、定時でまっすぐ帰宅する。


何も起きない、穏やかな毎日。


人によってはつまらない人生だと思うかもしれないけれど、ワタシはそれでいい。


穏やかな日々を過ごしたいから。


それにワタシには人生の楽しみがある。


そう、それは小説を読むこと♪


本はたくさんのことを教えてくれるし、ワタシは現実の世界とは別の世界へ連れて行ってくれる魔法のアイテムだ。


毎週末は、普段はほとんどしないメイクもバッチリして、お気に入りのカフェで静かに本を読むのがワタシの過ごし方。


週末だけメイクをするのは、週末だけ別の自分でいるため。本当の自分でいるため。それはワタシだけのルール。


今日はお化粧のノリも良くて、何だか気分も♪


少し暖かくなってきたのもあって、今日は白のクロップシャツに黒のアシンメトリーのロングプリーツスカートのモノトーンでベースを整えて、アイボリーのルーズボレロカーディガンで、エアコン対策。


そして、ネットで思わずポチってしまったネコちゃんがプリントされてて可愛いスリッポンタイプのシューズ。少しネコプリの主張が強い気がしたのだけれど、ロングスカートなら外からはそれほど見えないかなあって思って、ワタシ的にちょっとした冒険。


お気に入りのものを着て歩くのって、なんか楽しい。心の底からウキウキする何かが、ワタシをくすぐっている感じで、思わず笑みがこぼれてしまう。


思わずちょっとスキップしてしまったら、遠くから

「何であの人スキップしてるの?」

という子どもの声が。


そういえば、この道は子どもたちが遊べる児童施設があったんだった・・・。恥ずかしい・・・。


でも、そこはもう28歳ですから、ワタシも大人です。何事もなかったかのように、スキップから通常歩行へとスムーズに移行。事なきを得たと思うことにしました。


坂を登った先にお目当てのカフェ、というか、ワタシ的行きつけのお気に入りLieblings Roman Cafe(リープリングス ローマン カフェ)がある。ワタシはリプカフェって呼んでいるけれど、たぶんワタシだけだろう。


カフェの壁面は採光のためか、ガラス張りになっているけれど、その外がわは180cmくらいの低い木で囲われていて、遠くからは中が見えないようになっている。


リプカフェは、いわゆるコンセプトカフェって言われるものなのかなって思う。そのコンセプトがとても好きなのと、ワタシの家から歩いていける距離だったこともあって、毎週末はリプカフェで過ごしちゃってます。


リープリングス ローマンというのは、ドイツ語で「お気に入りの小説」という意味らしい。そしてリプカフェの最大の特徴が、自分が好きな小説をカフェに置くことができること。その小説はカフェに来た人が好きに読むことができるルールになっていて、いろいろな人の好きが詰まっているところが、ワタシが気に入っているポイントだ。


ワタシ的にはやっぱり自分が好きな小説をいろいろな人に読んでもらいたいし、いろいろな人の好きな小説にふれることで、新しい発見があったり、未知の扉が開いたりと、ワクワクできる。そして、そういう小説が好きな人が集まっているカフェだから、すごく落ち着いているし、雰囲気が良くて、居心地がとても良いのだ。


リプカフェにはもう1つ、他のカフェにはないサービスというか、ビジネスモデル?って言うのかな、違いがあって、なんとリプカフェは会員制で、毎月お金を払った人だけが使える、サブスクリプションモデル?のカフェ。その会費は、驚くなかれ毎月1万円!


ワタシは最初、1万円という数字を見たときに、すごく高いかなあって思いました。でも、1万円払うと、なんと毎回来店時にコーヒーが1杯無料なので、リプカフェに通えば通うほど、お得になるって仕組み。だから、ワタシは毎週末、土日は毎回リプカフェに来てるんですよねぇ。少しでも元を取らねば!なんて気持ちも少しはあるんですけど。


会費が高いのには理由があって、カフェを使える人の数を結構制限しているから。そのため、いつも結構空いていて、ゆったりできるし、読書するのにも適している。


有名なチェーン店のカフェだと、人が多いし、ちょっと煩いというか、ついつい周りの人の会話に聞き耳を立ててしまっている自分もいて読書に集中できないのと、いろいろな目的で利用している人がいるから、カオス感が結構強くて、その投資話詐欺ですよ!って思わず言いたくなってしまうこともあったり。


そんなこともあって、人が少ない落ち着いたカフェを探していたら、このリプカフェに行き着いたという感じ。


リプカフェのドアには、カードを差し込む機械があって、会員になるとカードキーをもらえて、そこでピッてやって入店する。セキュリティ的な面もあるだろし、一見さんお断り的な意味もあるんだろうなあと思いつつ、ちょっと特別感もあって、そこもワタシ的にはちょっとテンションがアップするところだったり。


ドアを開けて入ると、柔らかなヒノキなのかな?木の香りがする。もう何年も営業しているカフェだから、きっとアロマなんだと思うけど、このわずかに香る森林のような香りもリプカフェの良いところだ。


ドアから正面の奥にカフェのカウンターがあって、お店のマスターが常駐している。なので、そこで好きなメニューから、1杯無料で頼むことができるのだ。そして、このマスターが淹れるコーヒーがまたまたまた美味しいのが、リプカフェを好きになっちゃう点でもある。


もちろん、コーヒーだけじゃなくて紅茶もあるし、ジャスミンティーとか、少し変わったお茶もあったりする。珍しいコーヒーやお茶は毎回あるわけじゃなくて、マスターが独自に仕入れているみたい。


「今日はどうなさいますか?」


マスターはちょっとしゃがれた渋めの声が特徴で、ワタシ的にとっても好きな声質。落ち着くというか、すっと心に入ってきて、良い声ってこいうことを言うんだろうなあっていつも思う。


「うーん、なんにしよ。ちょっと冒険したい感じがいいかなあ。」


そう言うと、マスターが


「じゃあ、新作のスペシャルブレンド試してみる?」


っていうから、新作のスペシャルブレンドを注文してみた。コーヒーも紅茶も注文してから淹れてくれるので、その間、リプカフェのみんなのお気に入り棚を物色へ。


お気に入り棚は、カウンターの横からカフェの逆側の端まで全面に設置されていて、白い壁に色のついた長方形の四角い突起がいくつもランダムあり、そこに本が立てかけるようにおいてある。全部で、50冊ぐらいあるだろうか。


スペースが空いている場所もあって、全部でどのぐらいおけるのだろう。100冊は無理だけど、でも70冊ぐらいは置けそうな気がする。


ワタシが置いている本は・・・まだあった。むー。


小説名:この世界には僕の居場所が無い

作者:恋々花梨れんれんかりん


まあ、そんなに有名な作家ではないし、2作目も出てないし、もう小説を書いていないのかもしれないし、でも、でも、ワタシの中では、すごく大切というか、もしこの本がなかったら、もしこの本と出会っていなければ、きっとワタシは・・・。


他にもいろいろな本が壁の棚には置いてある。ミステリもあれば、恋愛ものもあるし、ハードボイルドもあるし、エッセイ的なものもあるし、新たしい本もあれば、文豪といわれる人の本もあって、すごくカオティックで雑然としていて、でもそこには人それぞれの「好き」があって、見ているだけでとっても楽しい。


昔は結構恋愛小説をメインに読んでいたのだけれど、このリプカフェに通うようになってから、いろいろなジャンルの本を読むようになった。自分に合わないかなーって本もあったけれど、どんな本でもワタシにとって新しい発見があって、その感覚がとても楽しいし、新しい扉が開いていくようでウキウキする。


でも、今日は買ったばかりの小説「謎探偵〜何曾 粕樹なぞかずき 最初の謎」を読むのがメイン。謎探偵は謎を見つけるのが得意な探偵という設定で、「これは!大いなる謎だ!」と言って何でもかんでも謎にしてしまい、その謎を助手 海晦 冥かいかいめいが解いていくというお話。


それは助手が主人公なのでは?って思っちゃうけど、そのアンバランス感というか、二人のやり取りが面白い。すでに3作目なんだけど、最初はちょっとミステリ感あったのに、だんだんとミステリじゃなくてコメディになってて、ワタシ的にはそのゆる〜い感じも好き。


ざっとお気にい入り棚をすべて見終わったら、新作のスペシャルブレンドができたみたい。コーヒーを受け取って、いつもの場所に座る。


リプカフェでは中央に少し大き目のテーブルがあって、周囲にソファタイプとか、ヨロボーのクッションとか、ハンモックとか、いろいろなタイプの1人用スペースがある。


各スペースは観葉植物的なもので区切られていて敷居は無いので、開放感があるのが特徴。あと、すごく狭いけど個室もあって、そこは椅子とテーブル、そして小さな窓しかない。本当に集中して読みたい人向けなのかなって思う。


ワタシがいつも座るのは中央の大きなテーブルの中央の席。まずはここで、姿勢を正しながら読むのがワタシ的リプカフェスタイル。なんてかっこよいことを言っているけど、本当はお気に入り棚に置いてある、ワタシのおすすめ小説が見える位置というのが一番の理由だったり。


遠くからでも見えなくはないけど、やっぱりどんな人が手にとってくれるかなーって気になっちゃうんですよね。


ただ、ワタシがリプカフェの会員になってから、もう2ヶ月ぐらい経つのだけれど、未だにワタシの本を手にとった人はいかなくて、#悲しい出来事 なんだけど、週末しかワタシは居ないし、平日に借りられている可能性もあるから、あると信じてるから、信じさせて。これ以上は、自虐すぎるので、思考を止める。


さて、今は謎探偵に集中、集中♪

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