第55話 対峙

 無事お化け屋敷を楽しんだあと、私たちは近くのベンチで休んでいた。


 お化け屋敷では、彩乃さんと遥花さんは怖さを楽しんでいて、「わー!怖い!笑」って感じだった。

 それに対して美鈴さんは本気でビビっていた。うっすらと涙も浮かんでいたように見えた。


 ちなみに私はそんな三人のリアクションを見て楽しんでいただけで、お化け屋敷自体の楽しみはあまり感じなかった。


 ……だって気配で全部展開が分かっちゃうんだもん。


「お手洗い行ってきますね」

「あ、私も!」


 遥花さんがお手洗いに向かうようなので私もそれについて行く。

 ……正直ジェットコースター乗り終わったあたりから行きたかったのでちょうどいいタイミングだった。


「じゃあ私はここで待ってるね」

「私も〜」

「了解です」


 彩乃さんと美鈴さんを残して私たち二人は女子トイレに入る。


 特に話すことなく個室に入った私たちだったけど、手を洗うタイミングでまた鉢合わせしてしまう。隣同士で手を洗ってるのにも関わらず、無言の時間が流れる。


 ……少しだけ気まずい。


 二人きりで何を話せばいいのか全然分からない。共通の友達がいる時は話せるけどその人が居なくなった瞬間無言になっちゃうやつ。今更「ご趣味は……」とか聞くのも絶対に違う気がするし。でも折角の機会だから話したい……!


「あのさ、」

「あのー」


 そして口を開くタイミングが被ってしまった。なんでこんなドンピシャに被るんだ……


「あ、先どうぞ!」

「ふふ、ありがと」


 ただ、そのあとはスムーズに話すことが出来た。


「なんでそんなに彩乃さんと仲いいのかな?」

「……へ?」


 ……と思ったら予想外の質問が飛んできた。


「同じ3期生同士なら分かるんだけどさ、1期の大先輩と、グループに入ってまだ数ヶ月の柚乃ちゃんが遊園地デートって不思議だなって思ったの」


 ……言われてみれば確かに。


 でも最初は殺し屋とターゲットの関係だったのが色々あってこうなった……なんて言えるわけが無いし。


「……曲の練習の時とってもお世話になったので。そこで仲良くなりました」


「ふーん?なるほど」


 なんか少しだけ遥花さんが怖い。さっきまで上機嫌だったはずなのに今は目が全然笑ってない気がする。


「少しだけ、羨ましいかな」

「え?」


 羨まし……しい?


「私も彩乃さんと仲良くなりたいと思ってるからさ。それこそずーっと」


 なんだか遥花さんは儚げな表情をしていた。


「……もしかして彩乃さんのこと」

「うん、大好きだよ。ずっとファン」


 即答だった。きっと彩乃さんに憧れてForceに入ってきたのだろう。


「だから羨ましいって思ったの。こんなにすぐに仲良くなってるのは」


「ありがとう……ございます?」


 なんて答えるのが正解なのか分からなかったからとりあえずお礼を言った。


「……ふふ、なんか棘のある感じになっちゃったね。全然柚乃ちゃんと敵対したいとかは思ってないから安心してね?」


「はい。私も遥花さんと仲良くしたいです。彩乃さんの、どんなところを好きになったんですか?」


「それ、聞いちゃうんだ?長くなるかもよ」


「大丈夫です。私も彩乃さんの好きなところ語りたいので」


 二人で不敵な笑みを浮かべて見つめ合う。


「まず、普段の彩乃さんとライブの彩乃さんのギャップすごいよね、緩いイメージの彩乃さんなのに、ライブになると急に締まる」

「分かります。しかもめちゃくちゃかっこよくて切れ味抜群なパフォーマンスをした、と思ったら次のMCではすぐにいつもののほほんとし彩乃さんに戻ってるんですよ―――」


「―――」

「―――」


好きというものは恐ろしいもので、一度話が盛り上がると歯止めが効かなくなってきまう。


「―――ふふ、あまり話しすぎてもあれだし続きは後日、ということにしようか」

「そう、ですね」


『彩乃さんが好き』という1つの共通点だけでここまで話が盛り上がるとは思っていなかった。


「そういえば柚乃ちゃん、なんか言おうとしてたよね」


 あー、そういえば。


「遥花さん、身体能力すごいなぁって前々から思ってたんですけどなんか鍛えたりとかしてるんですか?」


 そう言うと遥花さんは意外そうな顔で答える。


「へー?どうしてそう思ったのかな?」


「MVとか過去のライブ映像とか見て。ダンスが上手なのは勿論ですけど……体の使い方というか筋肉の使い方に無駄がないなぁって」


 実は遥花さんは今回の休養が初めて、という訳ではなく、実は過去に何回か休養をしている。また、外仕事も少ないためForceの中で目立ってこそいないけどその身体能力は随一な気がする。


「へー、すごいね。柚乃ちゃんって何者なんだろ??」


「へ??」


 まじか。一目見て鍛えてるってわかったのだけど。もしかして普通の人これ気づかないの??


「普通の人はそこまで気づかないよ?なんで分かったの?」


「あはは、お父さんがジム経営してて子供の頃から鍛えてる人をよく見てたからかな?」


 大嘘。でも咄嗟に出た嘘としては上出来だと思う。


「ふふ、なるほどね。私が鍛えてるってのは事実だよ。よくジムとかいってるから」


「なるほどジムに行ってるんですね……!」


 でも……遥花さんの動きは体を丈夫にするためのジムトレーニングによるものというよりも……もっと他の……




「だれか!!!!助けて!!!」


「「!?」」

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