第56話 アミューズメント タグ
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたの!?」
トイレから出た先には膝から崩れ落ちた美鈴さんだけが残っていて、
そこに彩乃さんはいなかった。
目の焦点は定まらず、涙が溢れた美鈴さんの表情を見れば何があったかなんて嫌でも想像がついてしまう。
「あや、のさんが連れ去られちゃった……」
……やっぱり。
迂闊、だった。
「美鈴さんは警察を呼んでください」
「わ、わかった!」
「遥花さんは――」
「――はい。よろしくお願いします!」
私が言うよりも先に遥花さんは既にどこかに電話をかけていた。
「遊園地の警備隊の人が出口を封鎖してくれるって。これで犯人は逃げられない」
仕事が早くて助かる。あとは……
「犯人は――」
「誘拐犯はどっち行った?」
「!」
遥花さんに言おうとしていた言葉を取られる。
「あ、あっち!」
指を指した方向は……アトラクションエリア。最初に私と彩乃さんが遊んでいたエリアだ。
それを聞いた遥花さんは迷わず観覧車方向に走り出す。
「待ってください」
本当は、危険だからここで待っていてください、と言いたかった。
でも……彼女の目を見たらそんなことは言えなかった。
「……私も行きます」
「……分かった。手分けしよう」
「はい!」
□□□
全速力でアトラクションエリアに着いた私達は二手に分かれて彩乃さんを探すことにした。
ここは遊園地だ。周りが都会だとはいえ、遊園地にはしっかりとした出口がある。先にその出口さえ抑えてしまえば誘拐犯はここから逃げることが出来ない。
……だからこそ不安がある。
誘拐犯は何かとんでもない逃げ方を用意しているのではないか、と。
今、そんなことを考えても仕方がないから誘拐犯を探す方に思考を切替える。
アトラクションエリアは広いから闇雲に探しても簡単には見つからない。
……だから、痕跡を辿る。
誘拐犯は全速力で逃げたはずだ。そうなると必ず痕跡が残る。例えば不自然に土埃がたっていたり、そこに無いはずの痕が残っていたり。
周りを観察してからすぐに、気になるものが目に入った。
アスファルトの道路の上に小さなタイヤが通った黒い痕があった。
これは……キャリーケースを乱暴に引いた真新しい痕。
遊園地にキャリーケースを持って遊ぶことはなかなか考えられない。この遊園地にはロッカーもあるしキャリーケースなんて邪魔なだけだ。
……となると、彩乃さんがその中に無理やり入れられて運ばれた可能性があるな。
キャリーケースを引いたあとは消えることなく長くラインを作っていた。
その痕の先には……いた。
キャリーケースを引く男。
男は観覧車のふもとで丁度観覧車に乗り込もうとしていた。
私は観覧車まで全速力でダッシュする。
すると、観覧車の入口に人影が見えた。
「!くそっ!間に合わなかった!」
「遥花さん!?」
二手に別れたはずの遥花さんが先に観覧車についていたのだ。
「犯人はどこに?」
「犯人は観覧車の3号車のゴンドラに……ってえ??柚乃ちゃん!?」
それを聞いた瞬間、私はちょうど到着した観覧車の……5号車に乗り込みすぐさま上に向かった。
「遥花さんはそこにいて!私はゴンドラに乗って追いかけるから!」
「は!??えっ、ちょ!!」
遥花さんの静止を振り切ってゴンドラに乗り込む。
ゴンドラに乗り込んでから思考をめぐらせる。
そして、違和感に気づく。
……なぜ犯人は観覧車に乗り込んだのか。
衝動で観覧車のゴンドラに乗ってしまったけれど、ゴンドラのスタート地点とゴール地点は同じだ。丁度一周して元の場所に戻ってくる。
だから逃げる場所としては適していなさすぎる。
私より先に追いついていた遥花さんがゴンドラに乗り込まなかったのはそれが分かっていたから。警備隊を呼んで下で待ち伏せをしていれば必ず捕まえることができるから。
じゃあもしかして私、やることない?
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