第50話 真相
「……おい彩乃。これはどういうことだ」
これは八月一日、ゆずちゃんが私を殺すよう、依頼を受けた少し前の出来事。
ついに、バレてしまった。
「なんで……アイドル活動なんてしているんだ」
お父さんは呆れたような、怒ったような表情で私に問いかける。
お父さんは黒川会という大きな組織を動かしている忙しい人間だ。だから当然、テレビやSNSを見る暇などなく、Forceに加入して五年が経った今まで、私がアイドル活動をしていることを知ることはなかったのだけど。
それでもさすがにForceが有名になりすぎたため、先日、ついにお父さんの耳にも入ってしまったみたい。
ありがたいことなんだけどさ。
「でも止めたって無駄だよ。もう、Forceは大人気だし……何より今すごっい楽しいんだもん」
「それは彩乃の顔を見ればわかるが……私の娘がメディアに出ているとバレたら命を狙われるかもしれない。それに黒川会総長の娘とバレれば炎上だって有り得る。それに私の娘がアイドルに向いているとは思えない」
アイドルに向いているとは思えない。その発言に少しだけカチンとしたけれど全部私のことを心配しての発言だと分かってるからスルーする。
お父さんは絶対口にしないけど、黒川会は世間に思われているほど悪い組織じゃない。カタギには絶対に手を出さないし、黒川会があるから他の組織は下手に大きな動きをすることが出来なくなっている。言わば必要悪な存在になっていた。
「……だがやはり心配だ。情報統制はなんとかするとしても、命を狙われてはどうしようもない。例えば――常にボディーガードをつけるとか」
「そんなの窮屈だよ。大統領じゃないんだから」
「だが……」
お父さんが心配する気持ちもわかるけどアイドルの周りにずっとボディーガードがいるのはそれこそ不自然だよ。
でもお父さんの気持ちも分からなくはない。実際、私がアイドルをしていることを言ったら心配して止められると分かっていたからこそここまで黙っていたわけだし。
でもボディーガードつけるのは……
ボディーガード――。あっ。
ふと、この前すれ違った女の子のことを思い出す。
「この前さ、ウチに女の子が来なかった?ほら、花見さんの一件の」
すれ違ったのは一瞬だったけど、他の殺し屋とは明らかに違う雰囲気を持っていた。
それなのにどこか虚ろな目をしていて、ふとしたきっかけで簡単に折れてしまいそうな、崩れてしまいそうな印象だった。可哀想だな、とも思った。
「……あぁ、シトラスか。彼女の腕は確かだが。なんだ、シトラスに護衛任務を頼むのか」
「ううん。彼女にはアイドルとして私を守ってもらう」
「は???何を言って――」
どこか虚ろな女の子。人生の楽しみを持っていないあの子をこのまま眠らせておくのはもったいない。
類まれなオーラは私があの時自分の肌で実感している。
あの子ならきっとForceをもっと大きくしてくれるし、きっと私のことも守ってくれる。
「お父さん、シトラスに私を殺すよう依頼して」
これは短なる思いつきだ。だけど絶対に成功する自信があった。
「……は?」
当然、お父さんは困惑していた。
「そこで私はシトラスに提案する。私を守るためにアイドルにならないかって。もちろん決めるのは彼女自身だから無理強いはしないけどね。でも、多分オーケーしてくれると思う」
あの時聞いた言葉。彼女は殺し屋である自分を嫌っている。だからこれは彼女の人生を楽しいものにしたい、というお節介も含んでいる。
「いや、だめだ。危険すぎる」
「私はアイドルが自分の天職だと思ってる」
こんなにも輝けて、こんなにもたくさんの人を笑顔に出来る。これを天職と呼ばずしてなんと呼ぼうか。
「だから私はアイドルとしてシトラスを魅了する。殺し屋を魅了出来たら、お父さんだって私がアイドルに向いている、って認めてくれるでしょ」
私は今までにないくらい真剣な眼差しでお父さんのことを見つめる。
リスクが高いのは分かってる。馬鹿なプランだってことも。けれど不思議と失敗するイメージはどこにも湧かなかった。
「だが……」
お父さんが心配するのは当然。それでもこのままでは水掛け論だ。
私はアイドルであることをやめたくないしボディーガードがずっと付きまとってるのも嫌だ。折れる気は全然ない。
アイドルは欲張りだからね★
「……いいだろう。彩乃がこんなに真剣にお願いするのは初めてだからな」
「……ありがとう!」
「ただし!……少しでもリスクが高いと判断すれば即刻中止する」
勿論。死ぬ気なんてどこにもない。
「あと、ライブも見させてもらう。スケジュール的には……少し先だが十月二十日、神奈川公演だな。そこで彩乃がアイドルに向いていないと判断したらそこまでだ」
「ふふ、望むところだよ」
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※本編は『幕間』を参照しています。あまり覚えていないなぁという方はもう一度『幕間』を読んでみてください。
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