第5章 黒川彩乃
第48話 黒川証券
二ヶ月以上にもわたるForthの全国ツアーは、表向きは目立ったハプニングもなく、千秋楽大成功、という形で幕を閉じた。
新たに三期生も加わったForceは更に勢いをつけていくことだろう。
そして、最終審査合格から昨日のライブまででエンジン全開で練習や撮影に追われていた私たちには久々の休暇が与えられていた。
朧との戦いも終えて、家でゆっくり休みたいのは山々だったのだけど、まだ私にはやらなくてはならない用事があった。
ちなみに用事がなかったとしても椎菜ちゃんからカラオケに誘われてたからゆっくり休むという訳にはいかなかったっぽいけど。元気すぎでしょあの子。
というわけで私はその用事を済ませるために、都内の大きなビルの入口前に来ていた。
この場所に来るのは久々だった。裏社会で名を馳せているこの企業だが、表向きは証券会社、ということになっているので堂々とビルを構えているのだ。
一度唾を飲み込んでからビルへと足を踏み入れる。
中に入るとすぐに受付が目に入ったので迷わずそこに向かう。
「ようこそ黒川証券へ。ご要件はなんでしょうか」
「31113号室にて面会の予約をしている白石です」
私がそう言うとフロアレディの目が変わる。
「……ご予約は?」
「電話で三ヶ月前に」
「……かしこまりました。ご案内します」
受付を出てエレベーターへと歩き出したフロアレディに着いていく。
今のは秘密のやり取りだった。
そもそも31113号室なんて存在しないし、当然白石という苗字も偽名。電話で予約もしていない。
受付と特定のやり取りをすれば地下に案内される仕組みだ。
数ヶ月前に潜入した時と言葉も変わっていなくて助かった。出来れば無駄な争いは避けたいからね。
フロアレディはエレベーターに入ると、階数の書いてあるボタンをコマンドのように押してから最後にポケットからカードキーを取りだしてボタンにかざす。
「それでは、ごゆっくり」
フロアレディは任務を果たすとエレベーターから去り、受付へと戻る。
エレベーターが示したのは本来存在しないはずの地下三階。
「さて、問題はここからね」
エレベータのドアが開くとガタイのいい男が敵意をむき出しにして三人ほど待ち構えていた。フロアレディは決められた手順さえ踏めばそれが敵だろうが味方だろうが地下三階に通してくれる。それは敵が来たとしても撃退できるという覚悟の証だ。
まぁここにいる三人はガタイがいいだけで雑魚だけどね。
「おい、何者だ」
「シトラスです。黒川崇さんと面会を希望します」
もう捨てた名前を名乗る。名乗りたくは無いけれどこうするのがいちばん手っ取り早い。
「……ハッ!笑わせんな。シトラスは殺し屋から足を洗ったと聞いている。崇さんに合わせる訳にはいかないな」
……まぁそうだよね。ならしかたない。
出来れば避けたかったけど力ずくで――
「おい、お前ら。通してやれ」
「あ、あなたは!ですが……」
「ですがもなにも、戦ったところでお前らで適う相手じゃねぇよ」
その声の主は……
「お久しぶりですね、黒川会幹部、花見さん」
昔、私に殺しの依頼をした張本人。会うのは三年ぶりだろうか。性格は嫌いだけれど、顔だけはいいのでいけ好かない。
「っち、まさかほんとに来るとはな」
その言いぶりはまるで私が来るのを予見していたかのようだった。
「崇さんの読み通りだよ。もしここに来たら俺の元に連れてこい、だってさ。まぁ賢明な判断だと思うぜ。お前と争うのは組織としてもなるべく避けたいからな。ただ、崇さんに殺気を向けた瞬間……わかるよな?」
「はい。ありがとうございます」
私としてもなるべく穏便に話を済ませたかったところなので特に文句もなく花見について行く。
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