第25話 再会
二次オーディションの日から半月が経った。太陽が眩しく照らす今日は、最終オーディションの合格発表日。最終オーディションは既に二日前に終了していて、今日は都内のホテルで合格発表となっていた。
合格か不合格か分からない志願者達は今頃緊張で胃が痛くなっているところだろう。
そんな中、私だけ合格が分かってるのはなんだか申し訳ない気持ちになる。
私はすでに組織から与えられた殺しの任務を全部終えていたので、完全に組織から足を洗った状態だった。
めちゃくちゃ疲れた……二週間で二百件もの任務をこなしたのは初めてのことだった。
でも、これでもう完全に組織とはお別れだ。もう私が闇の世界に足を踏み入れることない。
考え事をしながら歩いていると、気づいた時には会場となるホテル前に到着していた。軽く身だしなみを整えてからホテルの中に足を踏み込む――
「――やめてください!」
そんな時に女の子の声がうっすらと聞こえてきた。
どこか聞き覚えのある声。
まさか、と思いつつもその声の発生源を見る。
――あぁ、懐かしい。この声もこのシチュエーションも。
私は迷わずその声の元に急行する。
「あの、なにしてるんですか」
「……あっ」
そこでは人目をはばからず男二人に女の子が絡まれているところだった。
でもこの前の男たちと違って素人もいいところだ。おそらくただのナンパだろう。相変わらず、変な男に絡まれやすい体質でももっているのかな。可愛いから仕方ないか。
私の顔を見た瞬間、女の子は目を皿のようにして驚く。
「なんだお嬢ちゃん……ってお嬢ちゃんも可愛いじゃねぇか。遊ばねぇか?」
再放送?ってくらい一度見たような展開だった。
私にターゲットを移した男がぽんっ、と私の肩を掴んだ。力を使えば男たちを退けるのは簡単だけど、人目があるので力は使わない。だけどその代わりに思いきり迫力を込めて男を睨む。
「!?」
「別の人探してください」
「……っ」
男たちは私の殺気に押されたのかあっけなくその場を去る。事態を大きくしたくはなかったので大人しく引いてくれて助かった。
女の子の方を振り向くと、彼女は満面の笑みと少しの涙を浮かべて私に抱きつく。
「久しぶり!柚乃ちゃん!」
「久しぶり、椎菜ちゃん」
二次オーディション以来、半月ぶりの再会だった。
たった半月のはずなのにやけに久々に再会した感覚だった。
椎菜ちゃんの涙を見て、私まで泣きそうになってしまった。久しぶり、という感情だけじゃなくて、ここにいるってことは無事ここまでオーディションを通過したってことだもんね。
「ありがと!また水買ってる時に声掛けられちゃってさぁ、モテモテなのかな?」
「実際モテモテだと思うよ……しっかり護衛術身につけて欲しいくらい」
軽口を叩きながら、あらためてお互いに向かい合う。
「会いたかった!もう!あの時待っててって言ったじゃん」
「ごめん、色々あって」
本当に色々あった。
「それに……柚乃ちゃん、オーディション通過したんだ」
椎菜ちゃんは放送で私の番号が読み上げられなかった所までしか記憶にないため、ここに私がいることに疑問を抱いても当然だろう。
「三次、四次オーディションでも柚乃ちゃんいないかなーって探したんだよ?でも全然いなかったからやっぱり落ちちゃったのかなって。でも絶対受かってるって信じてた」
「信じてたにしては私の顔を見た時すごく驚いたけど」
「それとこれとは話が別!」
たった一日しか一緒にいなかったはずなのに、長く付き合ってきた旧友と再会したような嬉しさだった。
「それじゃ……入ろっか」
「うんっ」
再会の喜びも束の間。椎菜ちゃんにとっては今から最大の鬼門が待ち構えている。
私たちは二人で会場に足を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます