第24話 二次オーディション⑥

「……まぁいっか。お前は完成された原石だ。Force合格でいいよ」


「――え」


 え。


 え、今ので????声真似で???


 それに、Force合格……って、え?さっき二次オーディションに落ちたんじゃ……。

 二次オーディション合格じゃなくてForce合格って。


「な、なんで?」


「ん〜、色々言いたいことはあるんだけどさ」


 男は頭をきむしりながら私を見つめる。


「そもそもお前、人と生きてる時間違うだろ。人生二週目か?ってくらいには完成されてる。三次四次オーディションをしてもどうせ受かるからな。幼少期から普通の生活してないだろお前」


 確かに私は殺し屋として鍛錬の毎日だったから幼少期にいい思い出はない。

 でもたった一回ダンスと歌を歌っただけでそこまで分かるものなの?


「子供のほうが飲み込みが早いとはよく言うよな。大人だと一年かけて覚えられないことも四歳の子供なら一週間で覚えられる。だから何かをするのには早ければ早いほどいいって訳だ」


 殺し屋には適応力、吸収力が求められる。想定外の場面に遭遇した時に適応する力。人を一目みて変装をする吸収力。それは一朝一夕で身につくものでは無い。


「だから、お前の『それ』は0歳の時から地獄のような鍛錬をした、とでも言わないと説明つかないんだよ。才能もあるが並々ならぬ鍛錬をしてる。そんなのは一つ一つの動作を見ればわかる」


 ……でも、ありえない。私が他の人以上に努力をしていた、それは紛れもない事実だけど。だからといって私の些細な動作からそれを感じとれるわけがない。


 わけがないのに……男は、私のことを全て見透かしているようだった。


「アイドルになる人はそりゃあ血のにじむ努力をしてるさ、でもお前は……血が吹き出るレベルの努力をしてんだよな。人間としての能力はピカイチ、アイドルとしての能力はまだ発展途上。磨きがいがあるってモノよ」


 それに、発言からしてただの面接官、という訳でもないだろう。一体この人は――


「――何者ですか?」


 何者なんだろう。そして、この人には何が見えてるのだろう。


「あ、わりぃ自己紹介がまだだったな」


 男は足を組み直して私を見て不敵に笑う。



「Force総合プロデューサーの春風颯馬だ」



「――え!?」


 Forceの総合プロデューサー???


 Forceのプロデューサーはメディアに一切出ておらず、正体不明だった。その正体がこの男?


「てことで特待合格だ。ようこそForceへ」


 総合プロデューサーなら私を飛び級合格させる権利も資格もあるだろう。だけど……


「でも……それは他の志願者に対して申し訳ない……気が」


 頭の中に浮かぶのはさっきまで一緒にいた女の子だった。


「その考え方は捨てろ。アイドルなら取れるチャンスは全部取ってけ。アイドルはだからな」


 アイドルは。やけにその言葉が頭に残る。

 ……確かに、間違いないか。


「……わかりました」


 甘い考えだった。遠慮がちな考えで生きていけるほどアイドルは甘くない。


 改めてアイドルになる決意を固めた。


 その後、最終オーディション合格発表の日時と場所を教えてもらい、解散となった。


 色々と、急展開過ぎて未だに頭の整理が追いついていない。


 そして、帰り際に春風さんから様々なことを言われた。その日まで動画サイトを見ながらダンスの基礎を学んでおくこと。そして、カラオケで一曲でも九十点以上をとること。これは声真似じゃなくて地声で歌わなくちゃダメ、とのことだった。


 部屋を出たあと、椎菜ちゃんを待ってようかと思ったのだけど、春風さんにすぐに家に帰れ、と言われたので渋々建物を後にした。

 もちろん無視して待つことも出来たのだけど、春風の言葉には有無を言わせない力があった。


 結局連絡先交換できなかったなぁ。


 でも椎菜ちゃんとはなんだかすぐに再開出来る気がする。


 それにしても……まさか二次オーディション合格どころかForce合格まで貰えるなんて。


 完全に想定外だった。それに、殺し屋としてのスキルが全く別の場所でも生きたことにどこか嬉しさを感じていた。


「黒川さん……やったよ」


 沈みかけた太陽がやけに眩しく私を照らしていた。


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