第18話 二次オーディション①
部屋に入ると既に三人ほど先客がいた。
「あはは、まさに夢見がちの田舎者って感じの子達だ!よろしく〜」
なんだこの人たち……?
女は目が合うなり失礼なことを言ってきた。それを聞くなり隣にいた佐野さんがそっと囁く。
「ムシムシ。この人たち待合室から色んな人達に失礼なこと言ってプレッシャー与えてるだけだから」
どうやら残り二人もグルのようだ。私たちのことを見てヘラヘラと笑っている。
「無視かー、田舎者は挨拶もろくにできないのか」
ほんとにこんな人たちがいるんだ……
まだ面接官がいないとはいえ、部屋には監視カメラ一台が隠されていた。彼女たちはそれに気づいていないようだが、このやり取りは面接官に筒抜けになっているはずだ。
正直鼻で笑ってやりたかったが、それで逆上されても困るので無視を決め込む。
私たちがずっと無視をしていると、程なくして面接官が部屋に入ってきた。
「さて、みなさん揃ってますね」
「では、いきなりですが左から順に自己紹介と自己アピールをしてください。アピールは歌でもダンスでも、早口言葉でもなんでも構いません」
「はい!エントリーナンバー82129……」
余計な前置きは一切なく、すぐにオーディションが始まった。
部屋にいるオーディション参加者七人に対して面接官は若い男女二人。男の方は三十代くらいで中肉中背。言い方は悪いけど目が死んでいた。多分ここまでたくさんの参加者を見てきたんだろうな……
そんな中、特に何をやるかもわかっていない私は、少し焦っていた。
いきなり自己アピールなんて言われても……私のアピール出来るところは……
殺しができますなんて言う訳にもいかないし。
「――ありがとうございます。では次」
「85362番、佐野椎菜です。よろしくお願いします。歌を歌いたいと思います」
考え事をしているうちに気づいたら隣の佐野さんまで順番が来ていたようだ。
チラッと横を見ると、佐野さんは吹っ切れた顔で歌い出す。
歌は……Forceのシングル曲『一瞬の強がり』だ。
バラード調で歌の上手い下手がはっきりと分かる曲なのだけど……
うっま!!!
歌が素人の私にもわかるほど上手だった。透き通っているのに力強くもある歌声がグッと胸に突き刺さってくる。アカペラなのもあって佐野の世界観に引き込まれそうになってしまうくらいだ。
「――ありがとうございました」
オーディション中だというのに思わず拍手をしてしまった。男の面接官は相変わらず退屈そうにしていたが、歌い始めた時一瞬だけ曇った目に光が灯ったのを私は見逃さなかった。横を見ると、先程まで煽っていた人たちの血の気が引いているのがわかる。
スカッとするなぁこの感じ。
「ありがとうございました。では次」
隣の佐野が終わった、ということは次は私の番だ。
「はい、87842番。山月柚乃です。よろしくお願いします」
自分の番になってなお、自己アピールで何をすべきかは決められていなかった。
何か……思い出せ!私にアピールできること……!
二次審査の参加が決まってから今日まで、一週間の猶予があった。その一週間が走馬灯のようにフラッシュバックする。
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