第17話 憧れ
『番号87842山月柚乃』
フロントに置いてあった名簿に参加者番号と名前を記入して近くの椅子に座る。
「柚乃ちゃん、さっきはほんっとにありがと!」
あの後少しだけ会話をしてから、私たちは一緒にオーディション会場に入った。オーディション前にコンビニに水を買いに行っていたところを襲われたらしい。
佐野さんは大分落ち着きを取り戻して明るくなっていた。
「いえいえ、私は何もしてないです」
「もー、敬語じゃなくていいって!」
佐野さんは当たり前のように私の隣に座ってくる。いきなり名前呼びをされたし、距離を縮めるのがものすごく速い子だ。でもグイグイ距離感を詰めてくるわけではなく、踏み込んでもいい線引きは分かっているようで、不快感は全く感じなかった。
「私は十七歳なんだけど、柚乃ちゃんは何歳?」
「あ、同い年です、じゃなくて同い年。十七」
同い年なら余計敬語で話すべきじゃないかも、ということで敬語をやめる。
「へー!身長も同じくらいだもんね!私158センチ」
確かに背丈も同じくらいだ。もっとも。
「私は160センチ」
2センチ私の方が上だけどね。別に負けても全く悔しくは無いけど、同じくらいの身長の人を見ると何故か競いたくなってしまうのは人の本能なのだろうか。
「あー160乗ってるんだ。羨ましぃ〜私も160の大台に乗りたいよぉ〜」
「この2センチはでかいもんね」
「でかいよ〜、あ、そういえば柚乃ちゃんはなんでオーディションに申し込んだの?」
正直一番答えにくい質問。だけど答えは決まっている。答えにくいのは自分に対して、だ。
「黒川さんに憧れて」
「あー、あやのん!好きなんだぁ」
口ぶりからして佐野さんもForceのことが好きなのだろう。
「佐野さんは?」
「もー椎菜ちゃんって呼んでくれていいのに〜。あ、私はね、子供の時からずっとアイドルになりたいって思ってて。なんで最初にそう思ったのかは忘れちゃったけどね。子供の時の夢をずっと引き摺ってるってわけ」
ほぼ初対面でいきなり名前呼びをするのは素の私には難しいことだった。正直タメ口で話すので精一杯だった。誰かに変装した時や、任務のために接近する時なんかは余裕なんだけど、今ここにいる山月柚乃にとってはキツイ。
『――85362番、佐野椎菜。87842番、山月柚乃。304号室に入るように』
程なくして放送で私たちの番号が呼ばれた。二次オーディションは集団面接、と聞いていたけど、どうやら同じ部屋になったようだ。
「あ、呼ばれた。一緒の部屋だね!頑張ろ」
「佐野さんこそ」
『ふふふ、アイドル志望者ならガードは固いよな』
ふと、柚乃は男の言っていた言葉を思い出す。
あの手際の良さ、犯行に及ぶまでの
なにより、私達がアイドル志望者だってバレていた。当然オーディション会場は非公開のため一般人がそれを知るすべは無いはず。
なにかと腑に落ちない点が多かった。
……まぁ、今考えても仕方ないか。
私は再び覚悟を決めて、304号室のドアを空けた。
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