第13話 アイドル
ちょっと待って今なんて言ったこの人。私が……アイドル??
「あの輝きに魅了されたんでしょ?きっと心の中では輝きを見るだけじゃなくて輝く側にもなりたい、なんて思ってるんじゃない?」
あの瞬間、黒川さんが輝いていた瞬間がフラッシュバックする。
確かにあの時はそんな考えが過ぎった気がするけど……
「丁度今三期生オーディション募集……はもう終わっちゃったけどスカウトって形で!ゆずちゃん可愛いし!ちょっとまっててね」
「え」
黒川さんはスマホでどこかに電話をかける。
ちょっと待ってちょっと待って。私の知らないうちにどんどんな話が進んで言ってるんだけど。アイドル?オーディション?
私が困惑していることを一切気にしなかった黒川さんは、一分もしない内に電話を終えた。
そんな一連の動作を私は唖然と見送ることしか出来なかった。
「雪菜さんに推薦お願いしちゃった!」
「雪菜さんに水泳教えてもらった?へー、良かったですね」
な、なーんだ、そんな話ね。黒川さん泳げなかったのかな、可愛いな。
「す、い、せ、ん!お願いしちゃったから」
う、うんそうだよね。
どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。聞き間違いであって欲しかった。
「話進みすぎじゃないですか?」
「そうそう……言い忘れてたんだけどさ」
「はい?」
文句を言ってる私のことは見えていないのか、完全に自分のペースで話を進めていた。
「やっぱり私はずっと命を狙われてるんだよね。これからもっと私を狙う刺客が増えるかも」
――なるほど。
「ボディーガードを付けるにも限界があるでしょ。だからアイドルとしてゆずちゃんには私のそばから私のことを守って欲しい」
言いたいことは何となくわかる。でもその前に、確認したいことがあった。
「……待ってください、なんで黒川さんはそんなに狙われるんですか?」
ずっと自分の中で疑問だった。私が黒川さんを殺す依頼を受けた時から感じていた疑問。父親が恨みを買っているから、とだけではもはや説明できないほど彼女は狙われている。
「うーん、それがよく分からないんだよね」
……嘘だ。
黒川さんの顔に一瞬ほころびができた。
そのほころびからはどこか後ろめたさや申し訳なさが伺えた。
しかし今は指摘しない。彼女が言いたくないというのなら今はそっと気付かないふりをする。
「分からないならしょうがないですけど」
「うん。だからさ、私を守るためにアイドルになって欲しいの」
きっとこれも本当のことは言っていないだ、う。もちろん、『私を守って欲しい』というのは嘘じゃなくて本心だろうけど、それ以上に私にアイドルの素晴らしさを体験して欲しい、だとかそれが私の人生にとってプラスになるからだとか。そういうことを考えた上での提案なんだろうな、と思う。
私は目を閉じてじっくりと考える。
私があの時黒川さんに死んで欲しくない、と思ったのは本当のこと。こんな輝きを消したくないって、こんな輝きをもっと見ていたいって。でもそれだけじゃなくて。私も輝きたいな、というよりも、黒川さんと一緒に輝くことを楽しみにしてるのかもしれない。正直アイドルになった自分を想像してワクワクしてる私もいるんだよね……
時間にして三十秒。高速で思考をすることが出来る私からしたら長すぎる時間だった。
ようやく目を開けて黒川を見る。
「まだ答えは出てません。でも分かりました。やります」
もう組織に戻ることは出来ないだろうし。この決断をするための理由はたくさんあった。今の私の感情に答えは見つからなかったけど、今はこの決断をすることが正解な気がしてた。それに、この提案を断ったら私の居場所はどこにもないことになる。
「私が輝くためじゃない。黒川さんを近くで守るためにアイドルになります。この答えはその後にみつけます」
「ふふ、今はそれでいいよ」
素直じゃないんだから、と、黒川はボソッと呟く。当然聞こえていたけど、聞こえていないふりをする。そんなの自分でも分かってるもん。
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