第9話 東京公演③
雪菜さんと別れてから大分時間が経過した。その間私は状況整理や、Forthの曲の予習をしていたのだけど、ふと周りを見るとあたりはForceのファンで溢れかえっていた。
みんながタオルを首にかけて両手にペンライトを持っている。少し恥ずかしいけれど私もそれに習って同じような格好になることにした。木を隠すなら森の中ってやつ?
そして、先程からこの球場内で異質な殺気を感じていた。
生まれた時から殺し屋だった私の体は異様に殺気に敏感なのだ。
バックネット裏の雨避けの天井の上。そんな人がいるはずのない場所に殺気を感じていた。
考えるまでもなくナットがそこにいる、ということだよね。確かにそこなら誰にも気づかれずに黒川を狙うことが出来る。絶好のポジションだろう。
「あっ、あやのん推しですか?僕もです!よろしくお願いします!」
「え、わ、わたしですか?」
突然隣の人に声をかけられる。20歳くらいの優しそうな男性で黒川のタオルをかけていた。
「はい!いや〜楽しみですね。僕なんて今日のためにここまで仕事頑張ってきたんですから!」
「あはは……そうですね〜」
こうして実際に楽しんでいる人を見るとやっぱりアイドルの力はすごいんだな、なんて感じてしまう。
体内時計ではもう四時五十八分だった。そろそろライブが始まりそ……
ザワっ!!
「来ましたね、じゃあお互い楽しみましょ!」
「は、はい!」
球場のスクリーンに光が灯った瞬間、会場のボルテージが一気に上がる。隣の男性は慣れた様子でペンライトを振り始める。
え、なになに怖い怖い!!
隣の男性以外にも、さっきまで静かだった人たちが急に統率の取れたコールをし始めた。ペンライトもForthのイメージカラーである赤に統一されていた。何この統率力……
スクリーンにはForceの映像と共にカウントダウンの数字が映し出された。
『10!』
大声でカウントダウンをしている人達の目は全員キラキラしていた。たった数十人のアイドルがここにいる三万人を楽しませている。そう考えるとものすごい。
『7!』
なんだろう……みんなが楽しんでいる世界。こんな世界、私は見た事がなかった。
私も本当はこんな世界で……
『3!』
って、何考えてるの私。今の私は殺し屋なんだから。
『1!』
だから、しっかりと黒川の最期の姿を見届けよう。
『『『0!』』』
0というコールと同時にライブが始まった。
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