第4話 反射

「殺す前に少し話の続きをしようか」


 記者は急に立ち上がって口調を変えて話し出す。


「殺し屋には殺し屋によって好きな殺し方があってな」


 別に好きな殺し方なんてないけど……


 自分の殺しを楽しむ霧雨、命の危機に晒されて口を開けないでいる黒川、腰を抜かした振りをして落ち着いて状況を俯瞰している私、スタジオは三者三様だった。


「俺はさ、殺される前の絶望する顔が見たいのよ」

「……」

 こういうこと言う奴って決まってザコだったりするよねぇ。


「だからさ、その顔はまだ足りねぇなぁ」

「……」

 殺し屋ならさっさと殺してよ。


「インタビューをしてわかったよ。黒川、お前はメンバーのことが大好きだ」

「え、嘘、それだけは……!」

 矜恃とかどうでもいいから早くしてくれないかなぁ。


「今ここにはメンバーがいないけどな、でもひとり、お前の絶望を引き出せる人がいた」

「……やめて!私が死ぬのはいいから!それだけは!」

 話なが……って、え、なんで私のこと見てるの。


 男は向けていた拳銃を黒川から私に方向を変えて躊躇いなく引き金に指をかける。


 いやいや嘘でしょ???


 考える間もなく引き金は引かれる。狙いは私の頭。

 反射的にその場に転がり込んで銃弾を避ける。


「……は?」


 そして、避けた勢いで少しだけ立ち上がり低姿勢のまま霧雨に急接近し首を掴む。


「な……何者だお前」


 ゴギッ!


 掌底しょうていで顎打ちを決めると、スタジオに鈍い音が鳴り響いた。その一発で霧雨はその場に倒れ込む。


「っぐ……」

 ……うわ。

「……やばっ、つい反射で」


 完全に油断していた。普段ならば殺気を敏感に感じとるから攻撃を未然に防ぐことなんて朝飯前なのだけど、霧雨の殺気は常に黒川を向いていた。本当に黒川から絶望の顔を引き出すためのピースとしてだけで私を殺そうとしたのだろう。


 今の一連の動きは明らかに常人のものではない。少し運動神経がいい、とかで説明できるものでは無かった。


「……」


 恐る恐る、黒川の方を見る。天然の黒川なら今の説明で「えー、雪菜さん格闘技習ってたんだ凄い!」なんて言ってくれるかな、なんて期待していのだけど。黒川の目を見ればそんなことを言う雰囲気でもないことが分かる。


「雪菜さん……何者?」


 黒川はそこまで天然ではなかったらしい。そりゃそーよね。


 正体を疑われた以上そこに滞在するのはリスクが高いため一旦引いて作戦を練り直そう。

 私はすぐに黒川に背を向けてそこを立ち去ろうとする。


「まって!雪菜さんももしかして殺し屋??」


 鈍そうなのに肝心なところで勘がいい。一瞬足が止まった様子を見て黒川は確信したようだった。


「少しだけお話しない?お願いがあるの」


 私は足を再度動かしはじめる。話す義理なんかどこにもないし、ここに残るべきでは無いことなんて自分がいちばん理解していた。


「ま、待って!せめてこれを外すだけ外して!こんな姿他の人になんか見せられないよ!」


 つい振り返って黒川を見ると、椅子とおしりがトリモチでくっついた状態からさらに抵抗して全身を動かしていたため、全身トリモチだらけの見るも無残な格好だった。


「あーもう!」

「ふふ、ありがと!」


 やっぱり黒川の前ではどうも調子が狂ってしまう。


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