第3話 霧雨
「それではインタビューを始めますね」
「はいっ!よろしくお願いします!」
男性の記者と黒川が机越しに対面している状態でインタビューが始まった。記者の希望によりマネージャーにもスタジオにいて欲しい、との事だったので私はマネージャーとしてその撮影を遠くから眺めていた。スタジオには記者と私と黒川の三人だけだった。
しかし、スタジオに入った瞬間うっすらと殺気を感じとった。
考えるまでもなく、記者が黒川を狙う別の殺し屋ということだろう。他の殺し屋の動向を探りたい私はこの場では彼女に手を出さない。仮に黒川を殺したとしたらその後で殺し屋を殺して手柄を横取りすればいいだけだしね。ハイエナ。
それにターゲットでは無い私にここまで殺気を感じ取られている時点で大した殺し屋でもないだろう。
「新曲のMVが昨日一千万再生超えたそうで。おめでとうございます」
「ありがとうございます!これも他のメンバー十四人のおかげですね。感謝しかないです」
「十四だと黒川さんも入ってますが」
「あ、ほんとだ!恥ずかしい、あと一人は……マネージャーって事で!マネージャーいつもありがとう!」
突然、裏にいる私ににこやかに手を振ってきたため、困惑しながら手を振り返す。
やっぱり、やりにくい。
インタビューでの黒川は先程の楽屋での姿とは大きく違って、大人っぽく落ち着きを感じる振る舞いだった。それでいて彼女本来の天然さも発揮している。今をときめくアイドルとしての看板は伊達じゃない。
「現在『Force』の三期生オーディション募集中、との事ですがオーディションに申し込む子達に何かメッセージはありますか?」
「何事もやってみないと始まりません!怖がらずに最初の一歩を踏み出してみませんか?」
その後も滞りなくインタビューは進んでいく。概ね事前に調べてきた黒川の人物像通りの回答だった。
「―――そうですね、感謝しかないです」
黒川の答えに記者はにっこりと笑う。その瞬間、部屋の空気が変わった。記者の笑みに混ざっているのは不穏さや、ぎこちなさ。
私は直感的にそろそろ仕掛けてくる、と理解する。
「……では、最期に言い残すことは?」
「言い残すって……普通そういうのってファンに一言みたいな……え」
記者は先程までの優しそうな表情とはうってかわりニヤリと笑みを浮かべながら黒川に拳銃を向けていた。
「え、嘘、立てない!」
椅子には細工がしてあったようでスカートと椅子がくっついて離れないみたいだ。
大ピンチな状況だが私は動かない。ここで黒川が殺された場合その後で記者を始末して手柄を奪えばいいだけ。
「雪菜さん!逃げて!」
逃げるべきは自分だろうに……どこまでお人好し何だこの人は。
人はピンチの場面で本性を表すというけど、この場面で他人を気遣える人間性に素直に尊敬する。
当然私は逃げる気はないけれど、ずっとそこでじっとしているのも違和感があるので腰が抜けた振りをする。
「す、すいません腰が抜けちゃってー」
「う、嘘でしょ!?」
「コードネーム『霧雨』だ。お前を殺しに来た」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます