第2話 非日常を知った日

平「お、見浪。今日も早いじゃないか」


見浪「平さんおはようございます。何だか早く起きちゃいまして…」


平「おいっ」


平部長がタバコのジェスチャーをしている。


自分も一応喫煙者なのだが、臭いが付くので会社では電子タバコを吸っている。


平「で、どうだ?日常の活路は見いだせたか?」


見浪「いやーそんな簡単には行かないですって」


平「まあいい。それよりどんな子がタイプなんだ?ん?」


今日に限って、と言うか最近やたら異性の話題ばかり振ってくる。


もしかして話振って欲しいのか?この人は…。


見浪「逆に平さんはどうなんですか~?すっかり家庭に収まって丸くなったんじゃ無いですか?」


平「おいおい…。仮にも会社の重要ポストを担ってるんだぞ俺は。」


と、前置きすると部長は急にスマホの画面を見せて来た。


見浪「これは…」


画面に出ていたのは…


自分達より一回り以上も若そうな女性と部長が仲良く映る写真だった。


見浪「まあ、人の人生ですからとやかく言うつもりは無いですよ自分は…」


平「阿呆!これは遊びだ、断じてそう言うのではないぞ」


平「こんだけ働いてただ家に帰って、家族に気を遣って寝るなんてやってたら気が持たん」


最もらしい言い訳だが、最もな理由でもあると感じた。


見浪「しかし平さんいつの間に相手を見つけたんですか?」


平「これだからダメなんだよおまえはさ」


と言うと部長はアプリを開いて自分に見せて来た。


見浪「ネットラブサークル…?」


平「俺らみたいなおっさんこそ出会い系を使いこなさないとな」


元々異性にはだらしない時はあった部長だが、行動に移しているタイプとは思わなかった。


真面目で品行方正だと思っていただけに、率直にびっくりしている。


見浪「いやびっくりですよ…真面目な平さんがこんな…」


平「なあ見浪」


見浪「はい」


平「そう思うならやってみろ、これ。すぐに相手は見つかる」


絶対自慢したかっただけだ…この人…。


でも興味はある。


見浪「部長命令では仕方ありませんね」


平「その調子だ」


平「だが始業が近い。またこの話をしよう」


早く来たのにもうこんな時間か…。


今日の午前中は会議も無く、テレアポ部隊に指示を出して書類の整理をして終わった。


そして昼休み。


平「見浪。飯行くぞ」


見浪「あ、はい」


部長は弁当持参では無い様だ。


自分は一応コンビニでおにぎりを買っていたが、部長について行く。


平「好きなの選んでいいぞ」


準行きつけの定食屋だ、大盛が無料で一見コスパが良さそうだが実は割高だ。


見浪「生姜焼き定食で」


平「先トイレ行って来る、頼んでおいてくれエビチリ定食だ」





昼食を終えテーブルで朝の続きを話そうとした。


平「おい」


平「外出て話すぞ」


確かにこの狭い空間でこの話は出来ないか…。


部長はこの定食屋から会社に戻る時、二つ奥の路地から帰る。


人通りが少なくタバコを吸いながら帰れるからだ。


変な所は真面目だがモラルが低い事もあると言うのが、いかにもテンプレ通りの上司だ。


平「実は今日も帰りに会うんだよ」


見浪「今朝見せてくれた子ですか?」


平「そ、〇〇ちゃんって言うんだが可愛いだろ?」


見浪「まあそうですね」


平「そうですねっておまえ世間と感覚ずれてるんじゃないか?」


見浪「可愛いとは思いますけどタイプじゃないかも…」


平「やっぱり好みあるんじゃねーか。いいからアプリ入れて色々見てみろよ」


アプリを入れてみる事にした。退屈していたし謎に勢いもあった。


見浪「名前か…」


平「おい。本名入れたりとか特定される事書くなよ。おまえやりそうだからな」


見浪「流石にしないっすよ…」


俺は名前を風夜(ふうや)にした。


自分がカッコいいと思う精いっぱいの名前をつけた。


その後は部長が設定に口を出して来た。


設定が完了すると、すぐに異性の写真が出て来た。


見浪「こんなに登録してるんですか…?」


平「本気で活動してる奴も居れば、登録だけして異性の反応を見てるだけの奴も居る」


平「本気っぽい奴はプロフやコメント、写真の雰囲気でわかるからまずは良く見ろ」


仕事が出来るのと遊びは相関関係があるのかも知れない、と一瞬思ったが認めるのははばかられた。


一応自分も仕事は出来る方だと思っている。


画像をフリックしながら好みの女性にはniceマークを付けていく。


平「見せて見ろ」


平「おまえこう言うのがタイプなのか」


見浪「ええ…ロングヘアーでちょっと気の強そうな感じですかね」


平「ゆるめの性格でボブヘアーの方が絶対いいぞ」


帰りの道路でお互いの好みをぶつけ合った。


平「niceが返って来たらすぐに報告しろ。命令だからなこれは」


と部長はニヤリとしながら自分の部署へ戻っていった。


見浪「……」


午後の仕事もあっという間に終わり終業時間が近くなって来た。


平「おい。」


平「帰れそうか?」


見浪「はい定時でいけそうです」


部長が手でタバコのサインを出した。


平「で、どうよ」


見浪「明日3人面接です」


平「ちげーよ。ネトラブだよ」


見浪「まだ確認してませんって…仕事してましたから」


平「時間ってのは作るもんだぞ」


部長は何とも言えない笑みを浮かべている。


見浪「あ」


10人分niceをして6人から返信があった。


平「な?こんな感じだ」


見浪「いやー凄いっすね…」


平「見せろ。業者や釣りも結構いるからな、チェックしてやるよ」


何人かは今回はスルーして2人に絞った。


平「後は自分で考えろ。余計な事は返信するな、要点だけスパッと書けばいい」


見浪「ありがとうございます」


部長と別れてからはずっとアプリを見ていた。


風夜には頑張ってもらわないとな。


年齢確認はあるもののプロフに表示される年齢はざっくりしているので、ギリギリ二十代と言う設定にした。


今日が


青年、風夜の誕生だ。


続く

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