06.恐怖の連絡
凛がタブレットで家族用のグループにメッセージを投稿する。
それにつられて僕もスマホを手にすると、一件の新着通知があることに気付いた。
数十分前にアプリが知り合いを新しく追加したというのだ。
『梨香さんにお友だち追加されました』
「え、まさか……!」
梨香:今日のことは秘密にしてね (;_;)
ひっと、悲鳴が出てスマホを落としかける。
「お兄ぃ、どうしたの?」
「な、なんでもない。ちょっと知り合いからの連絡だひょ」
「なんで噛むの?」
梨香さんって、九条梨香さんのことだよな?
僕は画面を隠して返事を送った。
遙輝:どうして僕のIDをご存知なんですか?
梨香:お友だちに教えてもらったの
遙輝:え、友だち?
梨香:なかなか既読がつかないから、他のことも教えてもらったわ
遙輝:どういうことですか?
冷静になろうと喉を潤し、僕は考える。
いったい他ってなんだ? まさか僕のスリーサイズでも調べたっていうのか?
いや、そんなわけない。
いかん。全然冷静になれていないぞ。
「う~~ん。ママってばメッセージを見てないみたい。あれ? 留守電が入っているよ? もしかしてパパが帰ってくるのかな?」
「それはないだろう。帰国するのは来月のはずだし」
凛が電話の再生ボタンを押すと、留守中に届いたメッセージが再生された。
『留守電が届いております。一件目を再生します』
『ご機嫌よう根岸くん、九条です――』
「ぶはっ!」
「うわっ、汚い!」
僕が吹き出した飲み物が、ダイニングに虹を描いた。
「げほっ、ぐげぼっ!」
「どうしたの遥兄ぃ? もしかして病気なの?」
『――根岸くん、今日は予算案の作成ありがとう。立花さんたちからもぜひ入会してほしいと言われてますよ。頼れる先輩になれるよう、一緒に頑張りましょうね?』
汚れをかまわず背中をさすってくれる凛に身が弛んでいたが、留守電の告げる内容に凍りついてしまう。
しかも伝言はまだ続いていた。
『留守電の二件目を再生します』
『言い忘れていたんですか、明日も生徒会室にお願いしますね? 放課後には部長たちを集めて予算会議も行われますので』
『三件目を再生します』
『必ず来てね? 必ずよ? 逃げないでね……?』
『用件は以上です』
異常だよ、ホント。
自宅の電話番号まで特定されるなんて、いったいどうやったんだ?
と、三人衆からメッセージが届いていた。
五条:そういえば会長に訊かれたからネギのIDを教えておいたぞ
佐野:なんか切羽詰まっていたから自宅の番号も教えておいた
富岡:我らはパソコン部として沙汰を受ける為、生徒会との連絡網が繋がっておる
遥輝:お前らが元凶かぁぁ!
五条:すまん、自宅の番号はマズかったか?
佐野:でも、会長めちゃくちゃ焦っていたからさ……
富岡:心配無用、漏洩せぬよう暗号コードがなければ開封できぬようにしてある
遙輝:明日の放課後、ゆっくり話そう。どうしても伝えたいことがある
五条:は、なぜに放課後? っていうか会長と同じこと言っているぞ?
佐野:会長の次がお前で、お前の次が俺たち? ループっていうか、拡散してねぇ?
富岡:まるで怪談話。世にも奇妙な物語のような展開……
まさか僕が会長と同じことをお願いするなんて思いもしなかった。
きっと三人は、自分たちがなにかの恐ろしい出来事に巻き込まれている気がしているだろう。
奇妙な世界へ通じる扉は、いつだって日常と隣り合わせということか。
僕は友だちの緊張を和らげようとサングラスの絵文字を返信してスマホの電源をきる。
ついでに家の電話線も切断したかったけれどこれは我慢するしかなかった。
「ねぇ、さっきの電話って女の人? 遙兄ぃ彼女できたの? お家に連れてきたら?」
「ダメだ、悪魔を招き入れるようなもんだぞ!」
「え~~。凛、お兄ぃの彼女を見てみたい!」
「ダメ、ゼッタイ!」
標的はお前のペンダントだ!
下手したら誘拐されるぞ!
「そ、それよりも凛、そろそろ更新の時間じゃないのか?」
「あ、そうだ! カルルピチャンネルの時間だ!」
凛がお絵かきのアプリを閉じ、お気に入りの動画チャンネルの観賞を始めた。
『皆さんこんにちは。カルルピチャンネルの管理人です。今日は今週末公開の新作映画について解説、考察していきたいと思います! 皆さん最後までご覧になって下さいね~~』
画面で手を振るのはカルルピに似た衣裳をまとう女性キャラクター。
カルルピ界隈では人気のVチューバ―で、これまでの伏線を説明、考察する動画を投稿している人だった。
『予告編やサブタイトルから推測するに、この映画で真の黒幕が現れることでしょう。劇場版は通常放送版の先行公開も含んでいるから、これを見ればこれからの展開が予想できるはずだわ! 皆さん、ぜったいに見に行きましょうね? それでは次の動画でお会いしましょう、ごきげんよう!』
「ん? ごきげんようだって?」
そういえばこの人、動画の最後をいつもこの台詞でしめていた。
まさかこの人の正体も会長なのではないか?
いや、さすがにありえないだろうと、僕は考えを払拭する。
挨拶が同じだからといって同一人物のわけがない。
ライトノベルじゃあるまいし、人気の動画投稿者がじつは知り合いで、しかも校内の美女だったなんてありえないだろう。
たしかに会長ほどの熱意ある人なら解説動画を作っていても不思議ではないが、そんなものはいくらでも投稿されている。
クイズ大会の乱入者につづいてこの配信者の正体がうちの生徒会長のわけがないはずだ。
「この人が羨ましいな。必ず有料放送の再放送を見ているんだって。あ、概要欄にコメントしている。今日は遅れそうになったけど、ギリギリ間に合ったんだって」
「はい、なんですって?」
僕の疑念は、確信へと変わっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます