策略-10

 さくらが出演するテレビ番組の収録が終わるまでの間、長四郎、燐、絢巡査長の三人はとある商業施設の立体駐車場に車を停めて待っていた。

「あのさ、ここに居て良いの?」燐が前方に座る大人二人に問いかける。

「どうなんですか? 長さん」

「え、あ、俺?」まさか自分に話が来るとは思わず油断していた長四郎。

「あんたに聞いてんのよ。彼女から依頼を受けたのは、あんたでしょ。しっかりしてよ!」

「そんなに怒らなくても・・・・・・・安心しろよ。絢ちゃんのハゲ頭上司が調べてくれてるさ」

「聞こえとうばい」

 無線から一川警部の声が急に発せられたので、三人は椅子から飛び上がって身を屈める。

「長さん、聞こえとうばい」

「あ、聞こえてますか? 良かった。良かった。こちらは異常なし」

 長四郎は無線マイクに向かってそう言う。

「そげん事は、どうでも良かと。被害者の殺害に使用されたのはテトロドトキシンでね」

「ふぐ毒ですね」

「そう。被害者が通う大学ではふぐ毒の研究をしているらしいったい」

「という事は、毒は簡単に手に入れられますね」

「そう。大学に保管していたテトロドトキシンが盗まれてたのが、発覚してね」

「あらら、学内の犯行説が濃厚ですね」

「そう。だけん、今、捜査本部もその線で動いとうと」

「成程。でも、被害者は経済学部ですよね? ふぐ毒というと、化学系ですよね?」

「あそこの大学というか、キャンパス? って言うの。経済学部だけじゃなくて生物学部とか文学部とか色んな学部が入っとうと」

「じゃあ、他の学部の生徒が殺すという事は可能ですね」

「そうやね。それで、長さんの方はどげん感じ?」

「う~ん、これといって進展はありませんね。ラモちゃんは、イライラしてますが」

「あ~ あの子はいつもイライラしているからねぇ~」

「それ、どういう意味ですか!」

 長四郎の手から無線マイクをひったくりあげ、燐は説明を求める。

「あ、呼ばれたみたいやけん。切るね」

 そこで、通信が切れた。

「クソッ」燐は悔しそうに、長四郎に無線マイクを投げつける。

 燐の八つ当たりを受け長四郎は怒りを覚える。

 すると、長四郎達の車の周りに覆面を被った男達が近づいてくる。

「絢ちゃん」長四郎がサイドミラーを見ながら声を掛けると「分かってます」と答えた。

「え、何?」

 燐は気になるので後ろを振り向くと、もうすぐの所まで覆面の男達が近づいていた。

「私、行ってきます」絢巡査長が車を降りようとすると「俺も行くわ。あ、ラモちゃんは乗ってろよ」そう言い残して、長四郎と絢巡査長は車を降りた。

「おい、ショッカーに入れなかったカスども、帰るなら今のうちだぞ」

「何言っているのこいつ?」覆面の一人がそう言うと隣の覆面は「さぁ?」と首を傾げながら答える。

「とにかく、この探偵を消せば金もらえるんだから。行くぞ!!」

 覆面に一人が長四郎に殴りかかるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る