始動-15

「お久しぶりドS」

 南志見にふざけた挨拶をする長四郎。

「早く済ませろよ」南志見は長四郎と一川警部を睨むとその場から立ち去って行った。

「お~怖っ」

「長さん、行くばい」

 一川警部は取調室のドアを開ける。

「失礼しまぁ~す」

 中に入ると、少しやつれた遠山の姿があった。

「お久ぁ~」長四郎は軽い感じで挨拶すると、遠山はギロッと長四郎を睨み付けるだけで何も返さなかった。

「今日来た理由知りたくない?」

「知りたい! 知りたいぃ~」一川警部がすぐさまそれに反応を示す。

「では、お教えしましょう」

 胡散臭いトーンで長四郎は語り始めた。

「遠山さん。貴方、噓ついてますよね?」

 遠山は眉をピクリと動かすだけで、長四郎の話に耳を傾ける。

「どぉーしても、どぉーしても、気になることがあったわけ」

「それは、何なんですか? 社長ぉ~」

「一川さん」

 長四郎はもう良いと言わんばかりの顔をして、一川警部を窘める。

「すんませぇ~ん」一川警部は早々に退散し、長四郎に話を続けるように促す。

「そんで、気になった事というのは、被害者の愛華さんについてだ。彼女の検視結果を見せてもらったんだが、彼女の身体には打撲痕の後など痕跡がなかったんだよ」

「は?」ここで、遠山は反応を見せた。

「いやね、俺もあんたの浮気調査を頼まれていたのよ」

「誰だ?」

「それは教えられないよ。守秘義務があるからね。大学生ならそれぐらい知っているでしょぉ~」

「チッ」

「ま、そんな事はさておき彼女の身体には打撲痕がなくて。あれぇ~と思ってさ。俺に依頼してきた子はさ、暑い夏だっていうのに、長袖Tシャツ着ていたからね。あーDVされてんだぁ~って。俺もさ、浮気調査とかで色んな奴を見ているから大概DVのパターンってのも分かる。それで、一川さんに調べてもらったわけ。そしたら、どうだ。そのような痕跡は一切なかった」

 下を向き、何も答えない遠山。

「そこで、ある仮説を思いついたんだ。彼女はお前さんから金を巻き上げる女ボスだったんじゃないかなと思って」

「何をバカな・・・・・・」

「構図としては、彼女は指示役であんたはその指示を受けて女の子を騙して金を無心して、その一部を被害者に献上をしていたのではないかって事。そんで、彼女も大学を卒業してあんたは解放されて100%の利益をあんたが享受されるはずだった。だけど、彼女はそれを許さなかった。そこで揉めて殺したんじゃないかなというのが、おじさんの推理。ま、彼女が金を受け取っていたっていう証拠はないから、これはおじさんの妄言とでも、捉えてくれれば良いから」

「・・・・・・」

 遠山は何も答えない。

 長四郎はスッキリとした顔で、椅子から立ち上がると遠山にこう告げた。

「ああ、そうだ。あんた、DV被害の傷害罪で追起訴されることになるから、ま、外の世界に出られるのは何十年後のことやら。では、バハァーイ」

 長四郎は遠山にそう告げ、一川警部と共に取調室を出た。

 そして、取調室から遠山の後悔の雄叫びが三田署の廊下に響き渡るのだった。

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