第二話-長屋

長屋-1

 羅猛らもう りんは、渋谷駅で電車を降りた。

 渋谷スクランブル交差点へ出ると、多くの人でごった返していた。

 今日は、土曜日。そして、夏休みでもある為、夏休みで旅行に来たであろう観光客であふれかえっていた。

 燐は小型扇風機で暑さを紛らわせながら信号待ちをしていると、「あの」と声をかけられた。

「YouTubeの撮影をしてて、インタビューさせて欲しいんですけど」

 金髪の男がニヤつきながら、声を掛けてきた。カメラマンの男もまたニヤニヤしながら燐にカメラを向ける。

 燐は冷めた目で男を見ると、フンっと鼻を鳴らしてそっぽ向く。

「あのぉ~インタビューさせて欲しいんですけど」金髪の男は、再度、燐に願い出る。

 だが、燐はそれに答える事なく、無視し続ける。

「あの、聞こえて」金髪の男がそう言いかけた時、信号が変わった。

「サラバァ~イ」

 燐はそうYouTuberの男に告げ、真向かいの渋谷ツタヤへと向かって歩き出す。

 そして、七階にある書店兼カフェのフロアへとエレベーターを使って上がっていく。

 目的の階に着くと、燐は店内を見回しとある人物を探す。

 まさか、あの男にもう一度会うことになるとは燐自身思ってもみなかった。

 こういった類の事を解決できそうな人物が、あの男しかおらず自分も共に捜査できると思っての行動だ。

「あ、居た。居た」

 燐は目的の人物が座る席へと歩き始める。

 その人物は読書に耽っていた。

「よっ! 久しぶり!!」

 燐はそう言って男の肩を叩く。

「うわぁ~」

 その男、熱海あたみ 長四郎ちょうしろうはウンザリとした顔を見せる。

「何よ。その不服そうな顔は?」

「いいえ、何でもありません。それで、御用もなく俺に会いに来たんじゃないでしょ」

「察しが良いね」

「そら、単細胞の考える事は簡単に読めますから」

「誰が単細胞だってぇ~」燐は長四郎にチョークスリーパ―を決める。

「苦しいっ! ギブっ、ギブっ!!」

 燐の腕をタップして解放するよう願い出る。

「お客様、他のお客様に迷惑なのでおやめください」

 店員に注意されると我に返った燐は「あ、ごめんなさい」と謝罪する。

 だが、長四郎は時すでに遅くグロッキーな状態で天井を見上げていた。

 意識を取り戻した長四郎は、燐の話を聞く。

「で、御用は?」

「ああ、それなんだけど。実はさ・・・・・・」

 それは、一日前の事であった。

 その日は登校日で、久々に登校するとクラス内が騒がしかった。

「どうしたの?」

 クラスメイト兼親友の海部うみべ リリに、説明を求める。

「よくは知らないけど、死んだ奴が生きていて、うんぬんかんぬん」

「うんぬんかんぬんね。ちょっと、面白そ」

 燐は騒ぎの中心へと入っていく。

  騒ぎの中心にいたのは、二人の男子生徒であった。

「本当なんだよ。こいつは死んでいたんだよ!!」

 そう言うのはクラスいや学年一おっちょこちょいの展戸てんと 重則しげのり。そして、「そうなんだよ。確かにあれは俺だったんだよ」と発言するのは重則の親友・測理そくり 一太郎いちたろう

 この一太郎もまた、重則に負けず劣らずのおっちょこちょいの男であった。

「じゃあ、何で学校に来てんだよ?」

 モブクラスメイトAがそう質問する。

「そうなんだよ。だから、不思議なんだよ」と重則が言う。

「でも、確かにあれは俺だったんだよ。なぁ?」

 隣に居る重則に賛同を求める一太郎に「ああ、あの死体は一太郎だったんだ」と言う。

「まるで、意味が分からんぞ!」クラスメイトBが、二人の会話を聞いて率直な感想を述べる。

「マジ、時間の無駄」

 クラスメイトCはバッサリと切り捨てる。

「時間の無駄ってなんだよ・・・・・・」

 しょげた反応を見せる一太郎に燐は近づきこう告げた。

「ねぇ、その話。後で、詳しく聞かせてくれる?」

 上目遣いで一太郎にそう言うと、一太郎は顔を赤らめながら「え? 良いけど」と了承する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る