第33話 タルマロン
洗い場で土を落としてみるが、小さな石英ガラスぐらいしか輝く物はない。
「はあぁ……。大変だなこれは……」
坑道の不快度はマックスだ。
湿度はほぼ百パーセントだし、暑いし、息が詰まる。
「そういえば、下に向かって掘れば見つかるかも、ってサラが言っていたな」
なんとなくエレベーターで上に向かってしまったが、別の道もあったかもしれない。
サラとの会話を思い出してみる。
たしか、深く掘るときは空気の道を作れって言っていた気がする。あと、鉱脈を見つければ、そこから上の方に掘るとか。
宿屋で水分補給と昼食をとったあと、もう一度ファライドロックに挑戦した。
入る前にメーターを回転させて、正常に動いていることを確認する。
緑の点灯を見てから、同じ坑道入口へ歩を進めた。
しばらく進むとエレベーターが上に行ったままになっており、昇降口が消えている。
「上げたまま外にでちゃったからな……」
すると、もともと土台があった場所に、下層部へのトンネルを見つけた。
「もしかして、こっちがサラの言っていた坑道か?」
降りてカンテラで奥を照らすと、突き当りが見えないぐらいに掘られている。
坂道になっていて徐々に下っているが、天井部に穴があり、気道から空気が循環しているようだ。
メーターを回しても、緑の点灯のまま。
「多分こっちだろう」
俺はダイヤを握り締めて、先に進んだ。
やがて水溜まりがあり、膝ぐらいまで濡れた。先は突き当りになっている。
浸水がひどいので、以前の採掘者がここで諦めたのだろう。
「長い距離だったな。きっちり舗装されていて、重要な坑道だったんだろう」
ある意味、ブラックダイヤが出る可能性が高まる。
俺は少しもどってから水溜まり手前で横穴を掘ることにした。
空気穴があるせいか、どことなくつるはしに力が入り、しっかりと刺さる気がする。
鉱脈を当てるまで、掘って掘って掘りまくってやる!
俺は一心不乱につるはしを振るった。
ある程度進むと、ガラガラと上から嫌な音がして、一回目と同じように天井が崩落した。
「あぶなっ……!」
視界一杯に迫る瓦礫。
せっかく掘っていた部分が土で埋まり、進行不能になる。
採掘、つらすぎる……。
暑いし、先に進めなくなるし、空気薄いし……。
「どうにか解決できないかな……」
ちまちまやっていても、俺の体力では限界があるのだ。
「一気に爆薬とかで爆発させたいな」
ジャバックの鉱山で琥珀の破壊力が尋常でないことを思い出した。
あの時は、地形を考えないで量を見誤ってしまった感があった。属性と地形が相乗効果を起こして、少量でも十分な効果が生まれるということだろう。
俺は米粒ぐらいの琥珀を取り出した。
「これぐらいでも十分だろう」
いざという時のための脱出用のダイヤはもう片方の手に持ち、前方に琥珀を投げる。
ゴゴゴゴオオォ……。
足もとを揺らす小刻みな地震と地鳴りがすると、あちこちで音が反響する。
投げた方向に向かって一直線の地割れができた。
「お! おおっ!」
地割れの中に土が吸い込まれるように流れて、人ふたりぐらいが並んで歩ける大きなトンネルができた。まるで昔から隠されていた通路のようだ。
つるはしを振らなくても前進できる!
めちゃくちゃ楽だ!!
一気に先に進めるようになったので、突き当りまで行ってみようとした。
すると急に気分が悪くなる。メーターを回すと、赤に点滅した。
「やばいっ! また進み過ぎた!」
とりあえず、そこら辺の石や土をかき集めて強引に袋に入れると、鉱山を後にした。
外はすっかり日が落ちていた。
「はあーっ! どうも俺は集中しすぎて周囲を見ない癖があるな」
深呼吸しながら、いまさら自分の弱点に気が付いた。
先に進むより、空気穴を確保する方法を考えるべきだった。
とりあえず、今日は突き当りまで進むのを諦めて、洗い場へ向かう。
川の水につけて拳ほどの石を洗っていると、ガラスのような透明な表面に変わった。
「こ、これは……石じゃない……」
綺麗な水で洗ってみると、キラリと輝きを放った。
闇夜に浮かぶ月の光を反射して、漆黒の宝石は妖しく光る。
「これは、もしかして、ブラックダイヤなんじゃ……」
思っていたよりデカく、『宝石使い』の俺としては一番好きな宝石の色だ。
とりあえずその塊を間違っても落とさないように気を付けて、俺は宿屋に戻った。
*
「ガイム様~。まだマインガゼルに宿泊するの~? もう飽きた~」
宿屋にもどると、ラームがエントランスで待ち構えていて、俺に愚痴をこぼす。
ラームは学園に戻しておらず、俺がブラックダイヤ獲得に目処がつくまで一緒の宿で泊まっていた。ラームを送ると往復でダイヤ二個も消費するので、それを俺がケチっているのだ。
マインガゼルは労働者の町なので、ロンモールに比べると女性向きの店は少ない。強いて言えば宝石店ぐらいだろう。
「早くロンモールに行きたい。……柔らかいパン、アルフェデレスのクッキー、プルプルのプリン……」
小声でぶつぶつ呟くラーム。
思わず俺もタルマロンが頭に浮かび、猛烈に食べたくなった。
マインガゼルの食事は味が薄く、全体的にパサパサなのだ。そして甘いデザートのようなものが売っていない。
「明日、これをギルドで鑑定してもらおう」
「なにそれ、美味しそう」
たしかに言われてみて、あんこ入りの葛餅に見えなくもない。
甘いものを断ち続けている俺は、ラームのせいでロンモールに郷愁の念さえ感じる。
「これがブラックダイヤだったら、一旦ロンモールに帰るか」
それを聞いたラームは、でっかい葛餅に手を合わせて願掛けをした。
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