第27話 合格者たち

 マリアの試験結果は体力『不可』、魔術『良』だった。魔術が得意そうではあったが、総合得点で合格ラインに入っていなかった。


 しかし異才『治癒』により救済され、入園は確定となる。


「百五十三名……宿舎に入れるのは百名程度。あとで増築するにしても、とりあえずこの五十三名をどうするか……」


 俺は職員室で頭を抱えた。

 エルピスの新入生のレベルを参考に作った試験だ。それを圧倒的に上回るものもいる。


「それならば、私が二十名程度、面倒を見よう」


 責任を感じているのかアルケインが申し出る。

 アルケインは歴代の勇者にも選ばれ、剣客として様々な貴族を相手に稼いでいた。屋敷は豪族にひけをとらない広さだ。


「はぁ……それなら私も二十名は引き取りましょう」


 ため息混じりにフェリシアも申し出た。


「えっ、本当にいいのか?」


 フェリシアがそんなことを言うとは、意外だった。


「その代わり、魔術の追加訓練をさせますけど」

「無論、我が屋敷に居るものはもれなく武術を身に付けてもらう」

「二人とも助かるよ」


 残りの十三名は俺の屋敷で面倒を見ることになった。


 五十三名にそのことを伝えると、フェリシア、アルケインチームは歓声をあげた。

 俺の屋敷に決まった十三名だけは、微妙な空気が漂っていた……。


 一応、ランドレー学園の理事長なんだけど……。

 フェリシアの美貌とアルケインの名声には遠く及ばなかったようだ。



 俺は異才の試験のときに、改めてセインのことについて話す約束をマリアとしていた。


 俺の屋敷に振り分けられた十三名にマリアは入っていた。

 一次試験の夜、書斎に入ってきたマリアは、近くで顔を見るとセインと瓜二つだ。


「屋敷のことでなにか困っていることはないかい?」

「……いいえ。あの、一次試験を合格させていただいてありがとうございます」

「あ、いや、合格したのは君が『治癒』の異才があったからだよ。君の実力だ。『治癒』は子供のころから使えたの?」

「八歳のころから使えました。村の人の怪我を治したりして。兄も人より遠くにジャンプできる異才がありました」


 やはりあの俊足は異才だったようだ。二人とも異才と言うものを知らなかったのだろう。ランドレー学園が誕生してから、一般に異才という能力が知られるようになった。


「兄のことをもっと教えてください」


 マリアにエルピスで起きたことの全てを話した。そして、エルピスの惨劇のことも。


「君の兄さんには申し訳ないことをした。彼が盾にならなければ俺は死んでいた。それに、俺の異才が魔王に奪われなければ……。沢山の過ちを俺は犯してしまった」

「兄さんはいつも言ってました。魔王を倒せば平和になるって。村で馬鹿にされても、大きくなってもずっと言ってました」


 セインの真っ直ぐな眼差しがマリアと重なる。

 セインが言いそうなことだな。胃もたれしそうなほどの正義感をありありと今思い出した。


「だから、魔王と戦うことは本望だったと思います。そして、絶対にガイム理事長のせいになんかしません」


 遺族を弔問するときに、聞いた言葉だった。俺が思っていた以上に、この世界の魔王に対する憎悪は強い。

 人々は何千年も魔王が指揮する魔物を恐れ続けているのだ。


「ありがとう……俺はランドレー学園を経営して、必ず魔王を倒す『勇者』を輩出する」

「それこそが、きっと兄の願いだと思います。兄の、皆の希望になっていただいて、ありがとうございます」


 涙するマリアを見て、俺は救われた。

 もう贖罪の旅は終わりに思えた。


「私は兄の志を継ごうと思います」

「ということは『勇者』になる道を進むんだね」

「はい。まだまだ全然力不足ですけど、絶対に『勇者』になります」

「応援してるよ」

「はいっ!」


 爽やかな笑顔でマリアは出ていった。



 俺は一旦、ランドレー学園の立ち上げにキリをつけ、自分が投げる宝石のお金を稼ぐためにギルドに入った。


 ランドレー学園に資金を流しているランドレー家の資産も無限にあるわけじゃない。予定より多くの入園者となったこともあり、先々が少し不安に思えた。


 『宝石使い』の練習のために宝石を消費していくのだが、失敗した時の罪悪感が重くのしかかってくる。

 そのことをジャージルに相談すると、ギルドランクB以上は鉱石採掘のクエストがあるとのことだった。


 以前にジャージルと来た時、ギルドには登録を済ませていた。


 俺は一人でギルド受付のカウンターに身分証を置くと、カウンターに立っていたヒゲもじゃの大男がちらりとこちらを見る。

 ヒゲもじゃは、ギルドメンバーにクエストの紹介をしている受付係のようだ。


 受付嬢みたいな可愛い女の子がいる雰囲気はゼロで、受付のカウンターはどこかホコリっぽく、ランプには蜘蛛の巣が張っていた。


「おいらはメリコンっていう。あんたは?」

「俺はガイム・ランドレーだ」

「ガイム・ランドレー……はははっ」


 メリコンという大男は、俺のことが書かれたギルド身分証を読むと笑い飛ばす。

 たぶん俺が見た目に反して、超初心者だったからだろう。


「まず新人さんはランクFのクエストからだな」


 ランクFと背表紙に書かれたクエストブックを開いた。


「まあ最初はこれかな。町の外のホブゴブリンを倒してきてくれ」

「一気にランクB以上にいけるクエストはないのか?」


 俺はメリコンに食い下がった。


「だめだ。あんたそんなに強くないだろう。腕もおいらの半分ぐらいしかないし。魔術師みたいな格好でもないしな」

「……分かった」


 郷に入っては郷に従えだ。

 ただ、ランクBになるまで時間をかけるわけにはいかない。


 俺はダイヤモンドを町はずれの方角に飛ばした。

 一瞬で森林の中心に到達する。

 十分もかからないうちに、ホブゴブリンを見つけ出した。どこかの死体から鎧を奪い取ったのか、鋼の鎧を装備していた。


「グギギギ、ギャア、ギャア!」


 俺を見つけると一直線に走ってきて、長く大きな緑色の腕を振ってくる。

 あまり宝石は消費したくない。俺はフードを被った。


 ホブゴブリンのめちゃくちゃに振り回す腕がまるで規則性をもっているかのように、すべて把握できる。

 『未来視』でホブゴブリンの腕の軌道が分かるのだ。

 俺は難なく攻撃をかわすと、回り込みホブゴブリンの背中を斬った。寸分違わず、鎧の隙間に刃を入れる。


「ギャアアアッッ!!」


 一撃で絶命すると、俺は戦利品にホブゴブリンの耳を回収した。


「全然、コストに見合っていないが……」


 俺はまたもう一つダイヤモンドを投げて、ギルドに戻る。

 受付のオヤジにホブゴブリンの耳を渡した。


「でえぇぇっ!! あんたもう倒してきたのか!?」

「ああ。早く、次のランクにあがれるクエストを教えてくれ」


 メリコンは俺に急かされて、慌てて次のクエストブックを取りに行った。

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