第23話 宝石使い
ジャージルとアルケインはギルドに所属している。
ギルドにはランクがあり、ジャージルはB、アルケインはランクSらしい。
Sが最高位でAからFに下がっていく。
ランクは重要で、受けれる依頼の幅も広がり、それと同時に得られる情報量も必然的に多くなる。
依頼内容そのものが、情報になるからだ。
あくまで推測だが、ジャージルが探索に強いのは、ギルドに太いパイプを持っているからだと思う。
初めてギルドに連れて行ってもらったときそう感じた。彼に声を掛けてくるギルドメンバーが多かったからだ。
ジャージルは秘密主義者で、普段は何をしているか、学園に来る前はどこにいたかとかを話してくれない。
まあ、触れられたくない過去があるのは分かったので、それ以上は聞かないことにしている。
しかし……ちょっと寂しくはある。
資金調達と情報収集のためにギルドは利用したいところだが、いま俺はめちゃくちゃ忙しい。
新しく創設する学園は、エルピスを改善するような形で考えていた。
まず華美な装飾はなくし、訓練の効率性を重視した。
さらに、アルケインをリーダーとした教師たちの意見も取り入れるため、教師を招集して会議も開く。
「実戦場が欲しい。ただし、監視塔を作って生徒の安全は確保したい」
「最初の魔術は大抵暴発する。魔術室は耐火レンガにして窓を多くつけたい」
「体力増強に道具はいらない。階段とかあれば大丈夫だ。それより訓練用の武器を充実させたい」
ちなみに筋肉教師のムキムキもエルピスの惨劇から生き残って、学園に籍を入れてくれていた。
給料はエルピスの時より随分と減ってしまったが、誰も文句は言わない。むしろ、給料はいらないと言ってくる教師もいた。
宿舎や食堂は木材で作るようにした。
魔物がいる森林側の木を伐採して、それを材料にする。
広大な敷地なので連絡がとれるように、鐘を備えた見張り台の材料にもした。
エルピスの惨劇が起こらないように、防衛面については何度も話し合った。
ロンモールの城下町に近いこともあるので、魔王軍も簡単に手を出すことはないと思うが、ありとあらゆるケースを考えて備える。
資金面でもランドレー家の資産をやりくりして、利益を生み出さなくてはいけない。
こちらをおろそかにすると、すべての苦労が水の泡になり、議会での発言がただの絵にかいた餅になってしまう。
昼は学園の会議、夜はランドレー家の資産運用に明け暮れていた。
*
大工と話をしながら敷地内を歩いていると、スラム街の方から子供が三人走ってきた。
あわてた様子で学園内に駆け込む。
「た、たすけて! 魔物がでたの!」
「お父さんがっ、怪我して……!」
その後に、大人も遅れて学園内に転がり込んできた。
肩から血を流す者もいて、隣にいた大工は驚きながらも仮宿舎に怪我人を誘導した。
比較的冷静な大人をつかまえて、魔物が出没した場所を詳しく。
「分かった。すぐに行って、退治してきてやる」
俺はポケットからダイヤモンドを取り出した。
なるべく豆粒ほどの小さいものを選ぶ。
子供たちが来た方角に向けて投げると、一瞬でスラム街の端まで体が移動した。
いくつかの宝石のなかで、ダイヤモンドだけが特殊だ。
大きさによって距離は変わるが、上手く使えば瞬間移動ができる。
今回はちょうどいい感じで移動できた。
住居と森の境界あたりで、騒々しく何かがぶつかるような音がする。
住居の間の小道を少し行くと、手製の柵が魔物たちで破壊されていた。
柵は簡易的な木製の障害物で、耐久度は低く、弱い魔物でも壊すことができる。
内部に入ろうとしているのは、ゴブリンの群れのようだ。
「グギャギャギャ! グガァアア!」
こん棒を振り回して、人であれば誰だろうと襲う。それが赤ん坊でもだ。
とりあえず、なるべく小さな宝石を探して一撃を……。
「ギャアアアッ……!」
宝石を取り出す前に、横一直線の光が現れる。人間ぐらいの極太の光線が、ゴブリンを消し去った。
「魔物は許しませんよ……!」
フェリシアが体を光らせて、ことごとくゴブリンたちを消滅させている。
以前は球状に広がっていた光の魔術を、前方に一極集中させていた。光を浴びたゴブリンたちは骨さえも残らない。
強いな……。中間試験のときよりも精度が高められている。しかもまだ本気じゃない。あれから鍛練したんだな。
俺ももっと異才を磨かなくてはいけない。『宝石使い』にはあらゆる可能性がまだ眠っている。
ゴブリンたちはわらわらと森から出てくるので、さすがのフェリシアも範囲が広すぎて時間がかかる。
俺はトパーズを投げると、落雷と共に轟音が響き渡った。
数匹のゴブリンが雷で真っ黒になる。
そして森林の木々が地鳴りで揺れると、ゴブリンたちは悲鳴を上げて去って行った。
「さすがガイム様。お手をわずらわせて申し訳ありません」
フェリシアは涼しい顔で足の膝を軽く曲げてあいさつをする。フェリシアにとって魔物退治は日常的なものなのだろう。
「いや、早く駆け付けて退治してくれたおかげで、住民も助かったようだ」
「もっと多くの人が魔物と戦えるようになれたらいいですね」
フェリシアの魔術は特に魔物によく効く。
魔物退治の授業では、臨時教師になってもらう予定だ。
「そのために早く学園を建設しなくては……」
「ところで、学園の名前はお決まりになりましたか?」
「いや、まだどうしようか決めかねている。エルピスの名前を継ぐかどうか……」
「じゃあ、『ランドレー学園』がいいと思います!」
「……なんか、俺が私物化しているようで反感を買いそうだな……」
「そんなことありません! だってガイム様が出資していますし、みんなガイム様の考えについてきているのですよ!」
「しかしなぁ……世間のガイム・ランドレーの評価があまりに悪すぎるだろ?」
俺が転生する前のガイム・ランドレーの悪事は、数えればキリがない。以前、リドーに昔の俺の悪事について知っていることを教えてもらった。
事前に知ることで、対策を考えるつもりだったが……あまりの多さに覚えるだけで一苦労した。しかもそれはリドーが知っている分だけ、である。
「今のガイム様は、過去の悪事を帳消しにするぐらい、人の心を突き動かしていますよ。それに……どんなに非難されようと、私はいつも味方です。本当のあなたを知っていますから」
フェリシアの一言が俺の心を支えてくれる。弱気になったときに、フェリシアはいつも励ましてくれるのだ。たぶん俺一人ではここまでやれていないだろう。
「俺のやっていることは、間違っていないしな。ここまで来たのだから、正々堂々とするか!」
学園の正式名称はランドレー学園に決定した。
フェリシアの言っていた通り、世間の反発はなく俺の考えすぎだったようだ。
俺はエルピスの惨劇で犠牲になった遺族に謝罪するため、弔問を続けていた。
そのことが功を奏したのか、ロンモールにおけるガイム・ランドレーの印象が少しずつ変わってきているようだった。
弔問は学園の建設と同時並行していたので、精神的にも負荷があった。
しかし、やるべきことやらなければいけない。
遺族からは罵声を浴びせられる――と思っていたが、そこまでひどくはなかった。
貴族は魔物との戦いを名誉ある戦いだと思っていた。
剣術や魔術を使えること自体が特別な事ではあるから、その力を持って領民を守ることを誉れとしている。
アルケインの言葉の意味が分かった。
――貴族こそ、名誉がすべて。
魔物に尻込みしているようでは、一族の恥になる。魔王軍と戦って名誉ある死を遂げたと思う遺族は多かった。
ただどうしても弔問できない遺族がいた。
――セインの遺族だ。
セインには両親と妹のマリアがいる。
ほかの生徒に比べて貧しい地域にいたので、セインの家族を探し出すことができなかったのだ。
ジャージルの探索でロンモールの捜索は続けていたが、ロンモール地方の外となるとさすがに難しい。
セインの出生は、ロンモール外の村なのだ。
おそらくセインの両親が、小さいころから高等教育を受けさせるため、馬鹿高い教育費を支払っていたのだろう。子供想いの親だ。
勇者セインが魔王と最期にした会話を思い出す。
魔王の戯言か単なる脅しなのか分からないが、魔王はマリアの命を奪うと言った。俺は一刻も早くマリアを探し出したかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます