第22話 再建に向けて

 俺たちは比較的荒れていない外の土地を購入した。


「ここに、新しい学園を建てるのですね!」


 フェリシアが広大な野原で背伸びをする。


「すぐ向こうの森林を少し伐採して、魔物が入らないように柵を作る。街道方面は守備用の塔を建てるつもりだ。まぁ、とりあえずはそこまで」


 俺の頭の中では、学園の形がある程度できていた。

 眼鏡をかけたパームが、帳簿を見ながら後ろを歩く。


「思っていたより土地は安いですね。これならもっと多くの宿舎を建てれそうです」


 リドーのデスクワークを間近で見ていたパームには、ランドレー家の資産運用を手伝ってもらうことにした。もともと会計もしていたので、いい仕事をしてくれている。


「ところで……」とフェリシアがふっと仮面のような笑みになる。「この娘は、ガイム様の『何』ですか?」

「ふぇっ……?」


 突然の見当違いな質問に俺は驚いた。


「城ではとても親しくされていたようですが……」


 フェリシアは学園にあまりいなかったから、パームのことを知らないらしい。

 すると、聞いていたパームも近づいて来て、眼鏡をくいっと上げ、フェリシアと顔を合わせる。眼鏡に対抗してなのか、フェリシアも魔術で体を発光させた。


 ま、まぶしい……。ヒロインのキラキラって、こんなにまぶしかったっけ。


 俺は二人の大きな胸に挟まれた。


「私はガイム様の恋人ですよね?」とパームが俺の顔の覗き込む。

「ふぇっ……?!」


 いつからそんな関係になったかな……?


「ど、どういうことでしょうか、ガイム様? 私はべつに愛人の五、六人は許しますが、愛人一号は私ですよね?」


 許しちゃうのか……。そして愛人一号ってなんか合成着色料みたいだな……。


「私は、これをプレゼントしたんですよ。いつもガイム様がつけてくれてる、コレ!」


 パームは俺の斬新なネックレスを指さす。


 ああ……。

 この展開は俺が悪いのか……。


 フェリシアはまぶしさを通り越して、熱波を出し始めた。


「わ、私だって、ガイム様とキスしましたし……! キスというか、せ」

「まてまて」


 俺はフェリシアの口を塞いだ。

 ジュウッって火傷したけど我慢する。

 

「パームは……俺の頼れる秘書だ」

「……えっ……それだけ?」


 今にもパームが泣きそうになる。


「あっ……いや……その……秘書だけじゃなくて、俺の妹みたいな存在なんだよ……」

「なるほどー! そう……そういうことですね!」


 フェリシアは満面の笑みになり、野原を駆けて「あはははっ」と笑いながら回った。

 正直怖い。


「パ、パーム……?」


 負の思念が、うつむいたパームの背中から立ち昇っているかのようだ。

 パームは城内の宿舎へ猛ダッシュして行った。


 俺が悪いのか……?



 深夜、スラム街の道を行く者たちは、ギャングに関係している者がほとんどだ。子供でも女でも、彼らの目となって獲物を探している。


 つまり俺みたいな貴族青年は格好の餌食になる。

 

「このエリアを取り仕切っているボスは、あの建物にたまに現れるそうです」


 ジャージルが周囲を警戒しながら、並んで歩いていた。


「あまりに不定期でしたので、特定ができず……申し訳ありません」

「いや、こんな短期間でよくやった」


 ジャージルはエルピス学園を解体しても残ってくれた。他にもたくさんの生徒が新しい学園に籍を移してくれている。もちろんアルケインもだ。


 歩いていると道沿いの廃屋から小太りの男が一人出てきた。

 首回りと腕に青い刺繍が彫ってある。


「よぉ、ここは危ないところだぜ。どうしてこんなところを二人で歩いているんだ?」


 こいつはチンピラじゃない。

 チンピラはただ威勢を張って、行き会ったりばったりの暴力を振るう。

 しかし、こいつはもっと邪悪だ。殺す理由を探しているのだ。


「ちょっとギャングのボスに会いたくてね」


 ジャージルは表情を一切変えず、即座に答えた。

 むっと男は顔をしかめると、後ろから三人の男が現れて、物騒な刀やナイフを見せびらかす。余裕があるかのように、ゆったりとした歩調で駄弁りながら歩いてきた。


「身ぐるみはがして、奴隷商人に売り飛ばそうぜ。肌は綺麗そうだ」

「あの黒っぽい奴は貴族だな。身代金を取った後で殺そう」

「そうだな、まずは指だけ斬り落とすか」


 悪党たちは俺たちを挟むように距離を縮めていく。

 おそらく最初に出て来た男の方が、司令塔なのだろう。


「おまえら、どこのシマの奴だ? 戦争するつもりか?」と探りをいれてきた。


「戦争というか、粛清だな」


 そうジャージルが答えた瞬間、後ろの男が剣を振りかざした。

 ジャージルが短剣で弾くと、もう片方の手からダークを投げた。小太りの男の頭に命中し、あっけなく倒れる。

 遅れて剣を振るった二人を屈んでかわすと、足の腱を切って股下を通り、背後に回り込んだ。がら空きの背中に剣を突き立てると、心臓を貫いたようで絶命する。


 残った一人は、腰から崩れた。


「ま、待ってくれ……! 命だけはっ! こ、これをやるから!」


 震えながら小さな袋を取り出す。


「なんだこれ?」


 俺は袋を開けると中に小さなルビーの宝石が入っていた。

 一目見ただけで分かる、色の浅い最低ランクのクズ石だ。


「こんなのどうでもいい……」


 イラつきながら、ポイっと袋を後ろに投げた。


 ドゴーーーンッッッ!!


 オレンジ色の光が広がり、ギャングのアジトが一気に火の海になった。


 あ、あれっ?

 俺って、まだ『宝石使い』が残ってる……?

 魔王にとられたのは『尋問官』だけ……?


 燃えた家から、火だるまになった男たちが慌てて出て来た。


「ぎゃあああああっっ……! 火がああっ!」

「あっ! あいつがギャングのボスです!」


 ジャージルがその中の一人を捕まえた。


 計画通りではなかったが、結果的にはスラム街を牛耳るギャングのうち、一つの組織のボスを捕らえることができた。

 そしてロンモール城下町にあるギルドに差し出し、賞金をもらう。幸いなことに、その日破壊してしまった建物に集まっていたのは、ギャングのメンバーだけだったようだ。


 少しずつではあるが、城外の治安を改善しつつ、学園の資金稼ぎもしていった。

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