第15話 ラーム
数十年前まで、あたしは魔王軍にいた。
生まれたときから魔王軍にいて、好き好んで入ったわけじゃない。ギャアと生まれて、目を開けると魑魅魍魎の真ん中にいたわけ。
いまは本当に綺麗さっぱり足を洗ったんだけど、いまだに引き戻そうとする奴らもいる。
魔物のなかでもあたしは特異な才能を持っていて、よく魔王の手下を強化していた。
『異才育成』は素質のある者に魔力を送ることで、異才が開花して進化する能力なの。
これを体得している魔物は今のところみたことない。だから、連れ戻しにくる魔物が学園にまで来たりもする。
魔物退治のプロがたくさんいる学園に、わざわざ危険を冒してまで来るんだから、やっぱりあたしはかなりのレアなキャラだったというわけ。
でも……もう二度と西の森には戻りたくない!
あたしは人と魔物の間に生まれたみたいで、全然魔物の暮らしがあわなかった。
というか、ぜったい無理。
食べ物もあわないし、人を食うとか気持ち悪すぎ。美醜基準が全くあわないわけ。
見た目もダークエルフよりホワイトで、耳の尖りと犬歯を隠せば、外見で魔物だって分からない。
だから魔王軍を出て、人がいる町から西側の森に引っ越した。そこがちょうど人と魔物の境界線だったみたいで、人とたまに会うようになった。
見た目は完全に人だから、はじめは変な奴いるな~ぐらいだったと思うんだけど、そのうち人間のなかでも魔物みたいに、悪に染まった奴らに遭遇するようになった。
盗賊だったり人さらいだったり、あたしの命を脅かす悪い奴らは、容赦なく倒したよ。倒したついでに装備はリサイクルして、あたしのものにした。
こんなナイスバディだから、襲ってくる人間は多くて、そのうち町では魔女なんて呼ばれ始めた。
でも一方で、異才開花を看板にして店を開き、異才を必要としている人には『異才育成』した。もちろん有料で!
お金を稼いだら町で買い物!
お菓子とかアクセサリーとか、マジでウマ可愛いんですけど!
心のそこから、魔王軍を出てよかったと思えた。
町の中心には学園があり、いやでも目についた。
学園のことは、魔物を退治する恐ろしい機関だと、魔王軍にいたときから聞いていた。でも学園に近づいて見上げて、あたしは唖然とした。
――めちゃくちゃ豪華で煌びやかじゃない!?
お姫様と王子様かよ!
こんな所で強化したら、そりゃあ強くなるわな!
いつか中に入ってみたい。そう思っていたら、まるで運命のように学園から使者がやってきた。
リドーとかいう真面目な白ひげジジイが、西の森まで兵士三十人ぐらいを連れてきたんだ。それを見たときは殺されるんじゃないかと、マジで焦った。
でもまあ平和的な人間で、あたしを学園の講師として招きたいと言ってきた。もちろんあたしは、二つ返事でオッケーした。
すると、学園内の宿舎に案内されて、超綺麗な住みかをもらえた。
しかも町まで徒歩五分! 夕食付き!
さらに、一月毎に金貨二十枚もらえるんだから、も~一生いたいと思ったね!
でも……一利一害ってやつで、町へ買い物に行こうとしたところを学園の門前で取り押さえられたよ。
くそーっ。騙された!
って、思ったんだけど、あたしの正体がバレたわけではないみたいだった。
でっかい建物に連れて行かれて、白ひげジジイが、「おぬしは魔女ではないな?」とか言ってきた。
いや、勝手に魔女とかいってたの、人間のほうだからね! そっちの責任!
って思ったけど、そこは歯を食いしばって、「異才だけはめっちゃ知ってるから!」って言い返した。
そんな押し問答をしていると、すごいグロテスクなネックレスをした男がやってきた。
グロは生理的にダメって思ってたけど、なんか……かっこよくなぁ~い!?
めっちゃイケメンだし!
悪のかっこよさって、こういうことかぁーって思ったね。
しかも、白ひげジジイを説得してくれて、あたしにとって、このガイム様は恩人になったわけ。
もう、なんでも言うこと聞いちゃいます。
それから少しして、異才について説明しろって言われたけど、あたしも正直細かいとこは分かってなくて。
はぐらかしながらも、ガイム様に魔力を送っていたら、いいタイミングでレベルアップした。
ボードゲームをしながらだけど、こんなに大量の魔力を消費したのは初めて……。
ガイム様の異才の素質が、飛び抜けていることはすぐに分かった。そのせいで、どれだけ魔力を送っても、次の段階にいかない。
異才はそれぞれ、三段階ある。
まだガイム様は二段階。それでも人間のなかで、ほぼ最強と思える異才が花開いている。しかもそれが二つ。
どちらも最終段階までレベルアップしたらどうなるのか、あたしも見たことないし、見てみたいと思った。
もしかすると、昔あたしが強化して四天王になった者たちさえも、軽く超えるかもしれない。
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