第9話 入学式
俺はラームを従えて、入学式会場に入った。
とうとうセインと会う、その日がきたのだ。
あれからラームを付き人にして過ごしたがスキルアップは望めなかった。なにかスキルアップするための条件があるのかもしれない。もしくは単純にまだまだ時間が必要なだけか……。
しかしそれでも『銭投げ』『尋問官』があれば、かなり学生生活において優位であることは間違いない。
というのも、異才についてリドーを使って調べさせたところ、魔術よりも特殊だということが分かった。
視えなくも存在する自然の規則を、魔力があれば誰でも利用できるように体系づけたのが魔術らしい。
一方で、異才は自然規則を利用している点は同じだが、個人の性質に拠るところが大きいらしい。ある種の呪いや因縁に近いものであり、強力だが使い道を誤ると暴発することもある。
どうやらガイムという奴は、生まれながらに金銭と言葉責めに縁があったようだ。
会場に並ぶ列は新入生の数の倍近くあった。
この町では上流階級に位置するものたちしか入学が許されないので、学生にはだいたい付き人がいるからだ。
列に並ぶと、どこからというわけでもなく陰口が聞こえてくる。
「おい、あれ……学園のドラ息子じゃないか?」
「ああ、頭がいかれてグラウンドでのたうち回っていたらしいぞ……」
「マジかよ、やべぇーやつじゃん。しかも教師を従えてるとか……」
「金でなんでも解決する、クソ野郎って本当だったんだな」
本人が目の前にいるなかでよく言えるなと、少し感心してしまう。
実際は俺そのものに向けられた悪口ではないが、さすがに居心地は悪く、早くセインと対面して退出したいところだ。
しかしながら、会場を見回しても、セインという奴はどこにもいない。
やがてリドーが壇上に上がった。彼は新入生たちを鋭い目つきで見下ろす。
「我が学園にようこそ。これから勇者となるべき能力を、私たちは惜しみなく君たちに提供することを約束する。しかし、それについてこれるかどうかは、君たちのやる気次第だ」
いきなり檄を飛ばすと浮かれた新入生たちの表情が引き締まった。
この学園では一年を通して半分ほどが退学になる。学期ごとに同級生同士の模擬戦闘があり、この試験に負け続けると自主退学を勧められるわけだ。
首席となったものは、学園の最終選考を経て、魔王討伐に行ける。こうなればその者はもちろんのこと、家族も学園から支援され、貴族入りは確定となるらしい。
来賓の言葉や、在校生の歓迎のあいさつが終わり、入学式は解散となった。
俺はセインの背中すら見ておらず目的が達せられないまま少しウロウロする。新入生の列にいないことは確認済みなので、手洗いや校舎の外を歩きまわった。
付き人のラームは講師陣の会議があるらしく、俺を置いてどこかへ消えた。まあ俺よりも後からきたラームが、セインの居場所を把握できているわけがないのだが。
「てめぇ、こんなに殴られても殴り返さないのか……」
ふいに裏口を通ったとき、物騒な会話が建屋の裏から聞こえた。
庇の日陰で三名ほどの在学生が一人の新入生を囲んでいる。ぼさぼさの髪の新入生は、起き上がろうと足を引きずるように砂利をざっと鳴らした。三人に向けた顔は、壁にぶつけたようで唇を切っていた。
俺は建屋の壁に追いつめられたその少年を見た瞬間に、「セイン……!」と見つけ出した喜びのあまり声に出してしまう。
「……あ、ガイム様っ!」と取り囲んでいた上級生がセインの包囲を解いて、膝を地面に着けた。
悪人面したスキンヘッドの男どもが俺を仰ぐ。
どういうこと……?
「ガイム様の言われた通り、セインをボコりました!」
「……は? なんで?」
俺は声をふり絞る。イヤな予感がした。
スキンヘッドどもはお互い顔を見合わせて混乱していた。
「いや、その、前々から、言われてたじゃないですか。『英雄気取りのセインとやらを足腰立たないぐらいにボコって退学させろ』と」
……。
くっそぉぉおお~!
ガイムのクソ野郎がっ!
なんて用意周到な奴なんだ!
俺は一段高い場所からセインを見下ろすと、セインは俺を下から睨み上げた。
いまさらセインになんて声を掛ければいいんだっ!
口端から血が出ている奴に「申し訳ない、手違いがあって」とか言えない!
先にそういうことは教えててくれ~。
しかし一カ月もこいつらよく覚えてたな~。ある意味すごいよ、上司に従順なできる部下だよ~。一カ月後に覚えているかどうか分からない約束をよく実行できるな~。
それにスマホのストーリーがざっくりしすぎだよ~。
悪辣非道って抽象的だな~って思ってたけど案の定だよ~。
俺は肩から力が抜けて、しばらく放心する。
「ガイムか……。派手な歓迎をありがとう。いつか、借りを返させてもらう……!」
そう言い捨てて、セインは去って行った。
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