第6話 ラームを訪ねる
ラームの講師室を訪ねたのは、昼過ぎだった。
本当はすぐにでも異才とやらを強化したい。しかしラームが西の森から学園内にある講師専用の宿舎に引っ越すため、どうしても時間が必要だった。
講師室のドアを叩くと、すぐにラームがドアを開けた。
体育館で見せていた千変万化の表情と違って、おっとりした笑顔で俺たちを迎え入れる。
「いらっしゃい~。どうぞ、入ってください~」
裏声を使って貴婦人のような所作をするが、体育館での一部始終を知っている俺は、その笑顔がとろろ昆布ぐらいの薄っぺらいものだと知っている。
「あのーこちら、つまらないものですが」と後ろからパームが長方形の箱を渡す。
「えぇー、これってぇ、アルフェデレスのクッキーじゃないですかぁ!」
今日はリドーに用事ができてどうしても付き添いが出来ず、代わりにパームが付き添いをすることになった。パームは秘書なのでリドーのように高圧的ではない。むしろ訪問時に手土産を持ってきてしまうぐらい低姿勢だ。
講師室は六畳二間ほどの広さで、中央にテーブルが置いてあった。講師が個人的に資料整理をするだけの部屋なので、そこまで広くない。
三人で椅子に座りテーブルを囲むと、蕩けたような顔でラームが紅茶を出す。
「やっぱり学園はすごいですねぇ~。部屋もキレイだしぃ~」
「ありがとうございます。なにか不便がありましたら、私が対処しますので、遠慮なく声を掛けてください」
パームは頭を下げると、ラームはホクホク顔で「不便なんてないわよ~」と返す。
「でもあれかしら、食事はもっとお肉が食べたいな~、食堂でもっとお肉を出してほしいな~、あとデザートも出してほしいな~、プリンとか大好きなんだけどぉ~、なんて」
リドーがいないことをいいことにラームは学園の食堂にクレームをつけ始めた。
……あれっ? 俺は何をしに来たんだ?
……ああ、異才を強化するためにきたんだ。危ない危ない、普通にラームの雰囲気に飲み込まれている。あのプリンみたいな顔のせいで和んでしまうんだ。
「ふむふむ」パームは羊皮紙を取り出して、羽ペンを走らせた。
「パーム、そんなことはメモしなくていい。ラーム、早く異才を強化する方法を教えろ。俺は忙しいんだ」
「あっ! ハイハイ。じゃあ、まずはコレ」
トン、とテーブルに出したのはカードの山だ。
「……タロットカードか」
「ええ、これで、その異才がどんなものか、細かくみていきますよ、と」
「うわー、本格的なタロットカードですね」
「そうなのよ、もう高くって、こんな擦り切れちゃってるんだけど……できれば備品で経費から……」
俺の鋭い視線に気づいたラームは、口を閉じてタロット占いを始めた。
……
「どうですかね。こう、体の内側から溢れてくるパワーを感じませんか」
ラームは眉間に皺を寄せて俺の顔を覗き込む。
「いいや、何も」
「おかしいなぁ……。このカード配置だったら、こうなって、ああなって……アレするんだけどなぁ~」
「……」
「じゃあ、とっておきのヤツをやりましょう」ラームは別室から大判のボードをテーブルに運んできた。
「じゃあ、ってなんだよ。タロットはどうなったんだよ」
俺の愚痴をかき消すように、パームが手を叩いて大判のボードを見て喜ぶ。
「わぁ、可愛いーっ!」
ボードはマス目があり、すごろくになっている。『デビルゲート』というなんとも不気味なタイトルが大きく書いてあり、絵も悪魔やらドラゴンやら、ゾンビまでリアルに描かれていた。
断じて可愛くはない。
「フフッ、これを一緒にやりましょう。『デビルゲート』……」
ラームは声を一段低くして、手を開き前後させる。どうやら俺たちを精一杯に怖がらせているようだ。しかし急なキャラ変は、不信感を募らせるものだ。
「これをみんなでやれば、不思議なパワーが異才を強化するのです……『デビルパワー』……じゃなかった『デビルゲート』……」
俺はイライラしていたが、パームが腕まくりをしたので、しょうがなくすごろくに付き合うことにした。
……
「ヤッター!」
「おめでとうございます! 一位はパーム秘書! 総合計点数は三位のガイム様から一万ポイントも突き放しての堂々の一位!」
「……」
「どうですか、パーム秘書。何か身体の底から熱くなるようなパワーは感じないですか?」
「……うーん……。爽快な気分にはなりましたけど……」
「そ、それだけ?」
ラームは俺の表情を見て、焦り始めた。
「パーム秘書っ、そこはゴニョゴニョ……」とパームに耳打ちするラームを見て、俺は立ち上がった。
「俺は遊び相手をしているほど暇じゃないんだ!」
手に握っていたすごろく用の金貨をボードにばらまいた。
――ドスッ!
――ドドドドド……!!
金貨はボードの上に落ちると何の抵抗もなく、ボードの内部へ沈んでいく。
ひとつひとつの金貨がまるでナイフのようにボードを貫通し、穴が開いた。
無論、単なる厚紙の偽銭が、そんな鋭利なはずがない。
しかもボードを真上から覗くと、テーブルの表面に達して突き刺さっていた。木製のテーブルにだ。
「ど、どうなってんだ!?」
ボードをどかすと、俺が落としたお金全部がテーブルに屹立している。三人でその奇妙な光景を見つめてると、ブルッとスマホが振動した。
<通知:はじめてのスキルアップ!ご褒美を準備して!>
『ガイム・ランドレー
レベル:1
体力:21(+20)
魔力:0(-20)
力量:1
賢さ:3
敏捷:2
スキル:お金の力→銭投げ、ことば遊び→尋問官
※()内は付術効果』
『銭投げ』?!
『お金の力』ってそういうことだったの?? 物理的な技ってこと??
金で問題を解決させる技じゃなかったのか……。
しかも『ことば遊び』が『尋問官』になってる……。
「な……なんで急にスキルアップしたんだ。ラーム! 本当のことを言え! さもないと学園から出ていくようにするぞ!」
緊張からなのか、ラームは目を合わせたまま固まると口だけが動いた。
茫然自失といった表情だ。
「タロットもすごろくも、異才を強化する効果はありません。あたしが考えたウソでした」
「はあぁ?」と俺は無意識に素っ頓狂な声をあげた。
ラームはまるでロボットみたいに喋り始める。ふざけているならば、羽ペンで口角にマリオネットラインを二本引いてやろうかと思った。
「あたしと一緒にいれば、誰でもスキルアップできるのです。それがあたしの異才なのです」
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