第11話 小さなお祭り
今、私は離れで料理をしている。
里芋をバターと醤油で味付けして丸め、胡麻をまぶす料理。
里芋を軟らかく茹でて潰す。
醤油、バター、塩で味付けして、丸める。大体、丸くなっていればOKである。
深めの容器に胡麻を入れ、里芋を転がしながら丸く成形。
里芋にゴマをまぶして油で揚げる。
「里芋の粘り気のおかげで面白いくらいにゴマがくっつきますね」
「そう、めちゃくちゃくっつく」
このお団子は香ばしいゴマの風味も良いし、なんとなくヘルシーな所もいい。
里芋とゴマなので。
「次に鶏肉の唐揚げとフライドポテト、クリームサンドクッキー、ドーナツも別のお鍋でどんどん揚げまくって」
「サーシャ様、そんなに色々作って全部、お食べになるんですか?」
デブ活にも程があるだろうと、心配されたかもしれない。
「お城にも使用人の子供か何か少しいたので、お庭を借りて小さなお祭りをしてみたくて」
「小さなお祭り?」
「来る花嫁が次々に亡くなるせいか、ずっとこの領地はお祭りをやっていないみたいだったから、なにかお菓子や食べ物や雑貨を配ろうかと。もちろん私に割り当てられた予算内です」
「これらは売り物では無いのですか?」
「子供は無料、大人も初回は無料、次回から大人のみクジ一回銅貨三枚。
大人は食べ物を全種類食べたい場合は小銀貨一枚払えば買える」
「旦那様の許可は……」
メイラはチラリとソファに座って書類を見ている旦那様を見た。
彼は今、私の体に入っている。
「今は私が表向き旦那様なので許可は自由に出せる」
暴論。
「ええ!?」
「好きにすれば良い」
「ほら、御本人からも許可が出た」
そう、今、私は旦那様の体で料理をしている。
イケメンクッキング!
優雅に唐揚げに塩胡椒をかける姿もレアで様になっている事でしょう。
扉を叩くノックが聞こえた後、どうぞと言ったら、離れの扉を開けてジェイデン卿が入って来た。
「穴を二つ空けた箱を用意出来ました。
小さなお祭りで何か配るとも宣伝しておきました」
「ありがとう、ジェイデン卿。これで紐付きクジが引けるのでどうぞ」
私は早速箱に紐とクジをセットした。
「クジ?」
「クジの紐先に番号メモがあって、当たりの景品と交換出来る。それはおやつだったり、雑貨だったりする。
ほら、テオドール様、この箱から出てる紐をどれか一本選んで引いて下さい」
「この紐束の中から一本を……引いたぞ」
「はい! 唐揚げ! 大当たり!」
「大当たりなのか」
「本来大人の男性的には当たりのはず……さ、揚げたてを食べてみて下さい」
「ああ……。美味しい……。確かに、これは当たりのようだ」
揚げたてホクホクで外はカリっと、中はジューシーな唐揚げだ。
旦那様は私の顔で微笑んだ。
「さ、ジェイデン卿も箱を調達してくれたご褒美にクジを引いて良いですよ」
「ありがとうございます!」
「はい、三番、フライドポテト! これも当たりですね」
「ホクホクで美味しいですね! 揚げたての芋! 確かに当たりです!」
「メイラも揚げ物はもう良いわ。休憩がてら、引いてみて」
「良いのですか!? 嬉しいです」
「はい、五番、揚げたてドーナツ!」
「……もぐもぐ。……美味しいです〜〜!! こんなおやつは初めて食べました」
メイラのおやつはクッキーか飴くらいしか食べてこない人生だったらしい。
しかも、ごく稀に。
「私も食べよう。里芋のゴマ団子。……美味しい」
「え、サーシャ様はクジを引かないのですか?」
「私は作った本人だから好きな物を食べる。はははははっ!!」
私が笑うと、皆、釣られて笑った。
「テオドール様も里芋のゴマ団子を食べてみますか、こちらはやや健康的な料理です」
「ああ、ありがとう。……美味しい……」
語彙力があまり無いのか「美味しい」しか言わないけど、食べている時に目が輝いたから、きっと本心だろう。
旦那様はポケットから金貨を出した。
「これは……?」
「大人はお金を出せば食べ物を全種類食べられるんだろう。ここにいる者が全種類食べられるように」
金貨でねじ伏せに来た!
「大人買いありがとうございまーす!!」
夫なんだし、言えば全種類食べさせてあげるのに。
でもおもしろいから記念に貰っておこう。
「わあ、本当に私達まで良いのですか?」
「味見も兼ねてて良いのでは? 口に合わないものはあるかな?」
「全部とても美味しいです! この里芋も美味しいですね!
ドーナツと芋は子供に大人気だと思います!」
「唐揚げも美味しいですね、やみつきになりそうです」
昼の3時から夕刻くらいまでの短い祭りです。
そろそろ表に出ましょう。
「あれ? もう庭にテーブルセットや花飾りが……」
「お祭りの話を家令にしておいたら、手配してくれたみたいです」
「あ! 楽師まで来た!」
「せっかくなので、呼んでおきました」
「セルジオ、ワインと豚の丸焼き等も追加だ!」
「はい! すぐにメイド長と料理人に伝えておきます!」
私の声で家令に追加料理の命令をしたのは旦那様だ。
「料理が足りなくなると寂しくなってしまうだろう」
「気を使って、いただいて……ありがとうございます」
突発だったわりに、春のお城のお庭祭りは、なかなかに賑わった。
子供達はクジを楽しんで、可愛い花のコサージュを引いた男の子はそれを母親にあげたりして、微笑ましい姿も見られた。
母親もとても嬉しそうだった。
クジの景品でリボンを引いた騎士が、小さな女の子にあげたら、お返しに唐揚げを分けて貰ったり、楽しそう。
例の喘息の子も、里芋のゴマ団子を美味しいと言って食べてくれた。
夕焼け色に染まる春の庭園は、暖かく、幸せで、素敵な光景だった。
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