第10話 襲撃

 春だったのでね。


 野苺、木苺の他に、実は山菜も採っていたので、天ぷらを作ります。


「油よし、卵よし、小麦粉よし!」


 やや苦味の有る山菜も、揚げれば割と食べられるものよね。

 苦味が有る大人味なので、子供にはあまり向かないかもしれないけど。


「恒例の毒見です」

「わ、私も毒見係2号です」


 護衛騎士のジェイデン卿とメイドのメイラが毒見という名の味見係。


「サクサクした食感が良いですね。ほろ苦さがまた美味しいです」


 大人味覚だと、少し有る苦味も良いものね。


「揚げて塩をふったお料理、凄く美味しいです!」

「好評みたいで良かったわ」


 二人とも、満足そうなので、私も食べた。

 サクサクッとした食感が嬉しい。美味しい。

 久しぶりに食べた天ぷらに大満足。


「さて、お待ちかねのデザートタイムよ。

野苺と木苺はチーズケーキにトッピングしてデザートにしてみたわ」


「わあ! とっても可愛くて美味しそうです!」

「本当に美味しそうだ」


「どうぞ、召し上がれ」

「美味しい!」

「このケーキ凄く美味しいです! 無限に食べられそうです」

「無限は無理だと思うわ。絶対に途中で飽きるから」


 メイラの言葉に思わず笑いながらも、私ももう、待てないので食べる。


「うん、美味しく出来てるわ。木苺と野苺も美味しい」

「はい。木苺と野苺も可愛くて美味しいですね!」


「はっ! また旦那様を差し置いて奥様の美味しい手料理を食べてしまった!」

「ど、毒見ですから……」


 私はすかさずフォローを入れた。


「こ、今度旦那様にも、何か手料理を振る舞っていただけませんか?」


「辺境伯に野草など食べさせて良いの?」


 草ですけど!


「た、食べられる野草なので、問題は無いかと」


「春の野草は旬の味とはいえ、旦那様には……せめてナスとか、芋とかエビにしておきましょう」

「エビ! 良いですね。旦那様もエビは好まれますよ」

「そうなの? 私は基本的には離れでばかり食事をするから知らなかったわ」


「たまに本城でも旦那様とご一緒にお食事を」


 ジェイデン卿が焦りながら進言を……。嘆願?


「そうね、あ、頭痛……」


 何度か経験したから分かって来た、これは入れ替わり前の前兆の頭痛。


「は、まさか、入れ替わりの前兆の」

「そうみたい……」


「……奥様?」

「いや、私だ。ジェイデン卿」

「ああ……」

「このタイミングは参ったな、明日はパーティーの予定が有るのに」

「もう出席の届けは出してしまいましたが、断りますか?」

「サーシャに行きたいか聞いてみよう」



 私の返事など、決まっていた。


「私は行ってみたいです。砂丘の有る場所に興味があります」


 * *


 砂丘のある領地へお呼ばれした。


 海上コテージのような場所でのパーティーだった。


 ラクダも砂丘にいっぱいいるし、アラビアっぽい雰囲気の衣装がエキゾチックだなぁ、とかって感心していたんだけど……しかし、そこで事件は起こったのだった。



「皆様! 大変です! 魔物の気配です! お気をつけて!」

「何の魔物だ!?」

「サ、サキュバスです!」

「な、何だって!? 何でこんな所にサキュバスが!」


 兵士達の警備を掻い潜って侵入されたの!?


「とにかく! お客様を守れ!」


 会場内は騒然となった。

 まるで蜂の巣をつついたかのように……。


 えーと、サキュバスっていうのは男を惑わし、精気を奪うんだったか……。


「うわ! リック! しっかりしろ! 何にやけて寝てんだ! 寝るには早い時間だぞ!」

「おい! 兵士が持ち場を離れるな! どこへ行く!?」


 パーティー会場は阿鼻叫喚のるつぼになった。


 そして私の目の前にセクシーな謎のお姉さんが現れた。

 でも、耳がとんがってて、人外っぽいな。


 あ! これが……サキュバスか! 初めて見た!

 紫色のオーラを纏っている。


 私をロックオンしたのか、サキュバスは旦那様の体に入ったままの私の方へ近づいてくる。


『あら、素敵な方……。たくましい男性って、私、好きよ……』


 私は袖の中に隠し持っていたナイフで色目を使って来たサキュバスの首を、流れるような動きで斬った。


『ぎゃああっ!!』


 首から流れたのはいかにも魔物ですといった感じの青い血だった。


「おっと、浅かったか」


『な、何で私の魅了眼が効かないのよ!?』


「たくましい筋肉は素晴らしいというあたり、気は合いそうだが、語彙が足らないなあ。

サキュバスとはこんなものか。

もっと人間の心を掴む言葉を知らないと」


 魅了されてる間に精気を吸われたのか、私はその辺に倒れている衛兵の槍を取って雷を纏わせ、サキュバスに投げつけた。

 その狙いは外れずに、胸を貫いた。


 サキュバスの肉体は煙のように消えた。


「さて、敵、サキュバスは後何体いるんだ?」


 紫色のオーラを纏う女……目視出来るのは五体!!


「はあっ!!」


 あれ!? 


 旦那様が衛兵の剣を借りて私の体で気合い一閃、サキュバスを倒した!!

 私の体のままでもあんな事出来るんだ。

 流石、本物の強者は違う!


 やはりサキュバスの体は煙のように消えた。

 致命傷を与えると煙のように消えるのか、青い血だけが、生々しく床や砂に吸われていった。


 なんだかんだで正気を保っていた人達でサキュバスを倒した。


「あなたったら何を誘惑されてるの!? 私という者がありながら!」

「あ、あれは魔物の仕業だ! 仕方ないだろう!?」


 どっかの夫婦だろうか、修羅場が展開されている。


「どっかの誰かさんとは、大違いですわね、流石は辺境伯、全く揺るぎない、お見事でしたわ」



 なんか知らない貴族女性達が旦那様を褒めながら、私の周りにわらわらと集まって来る。


 ちょっと、旦那様がかっこいいからって、囲まないで下さい、レディ達。

 既婚者ですよ!


「ははは、ありがとうございます。妻がさっきの騒ぎで怯えているかもしれませんので、これで失礼します」


「あら、あら、愛妻家でいらっしゃる事」

「ほほほほ」


 私は貴族女性の包囲網から逃げ出した。


「大丈夫でしたか?」

私が足早に近寄って行くと、旦那様の方から心配して聞いてくれた。


「こちらは大事ない。其方もよくそのひ弱そうな腕で、剣など振れたな」


 キリッ! 

 旦那様のイメージを守る為、男らしい言葉使いは忘れない。

 にしても、私のボディ、本当に貧弱じゃなかったです?


「身体強化の魔法が使えたから平気でした」

「魔力は肉体由来ではなく、魂なのですか?」


「そもそも君の……この体の中にも魔力は有るのだ」

「!? 魔法を使えた事は無いのですが」

「この体、普段は魔力に蓋がされていた感じだ。……です」


「蓋が……?」

「はい。随分と長く抑圧されて生きて来たような」


 え? それは元家族に虐待されていたせい?

 魔法も使えず無能扱いをされて来たけど、私の体にも魔力はあったのか……。

 覚醒前みたいな物だったのかな。


「力をコントロールする事が出来れば、もっと領地の皆の役に立てるのに」

「君は私のそばにいてくれるだけで役に立っている」


 え!? 

 まるで私がとても大事な人みたい……。

 ──でも、私を愛する事は無いはずよね?

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