第8話 断罪

 三日すぎて、元の姿に戻って、それぞれ自分の体で平穏に過ごしていたら、王太子殿下の誕生パーティーの招待状が届き、ドレスなどの正装を用意した。


 すると、平和な10日間を過ごした後に、また魂と体の入れ替わりが起こった。


 ゴージャスで素敵なドレス、せっかくなので中身が旦那様の私を着飾ってみた。

 楽しい!


「こ、この状態でパーティーなど」

「ですが、王太子殿下の誕生日を祝うパーティーには行かないと不敬でしょう」

「う……」

「妻たる私のお披露目も公の場でして下さるでしょう?」

「わ、分かった……」


 ドレスでのパーティー行きは嫌そうな旦那様だったけど、結局、同行してくれた。

 根が優しい。


 パーティー会場に着いたら、クソ姉がいた。

 姉は王太子殿下の目に留まりたいのか、殿下の目の前をウロチョロしていたが、ガンスルーされていて、ウケた。


 豪華なドレスを着て、堂々としているサーシャ(旦那様)を見て、クソ姉と継母は悔しげな顔をしていた。


「あら、久しぶりね、サーシャ。

相変わらず、老婆みたいな髪色に、辛気臭い顔をしているわね」

「……」


 旦那様は沈黙している。


「今、私の妻を侮辱したのか?」

「辺境伯! い、いえ、別に、久しぶりに妹に会ったので、挨拶をしていただけですわ」


 継母と姉は凄い速さで逃げて行ったら、姉が飲み物を持ったデブの金持ちにぶつかって、怒鳴られていた。


 ……ざまぁ。


 クソ親父は遠目に見たら金持ち貴族に資金援助を願っているのか、鬱陶しがられていた。

 ウザイから無視しよ。



「我が妻、踊りませんか?」


 私は自分の体の手を取り、手の甲に口付けてキザっぽく旦那様を誘ってみた。


「……女性パートは分かりません」


 旦那様はボソリと小声で呟いた。

 そう言えば今だと逆になるんだわ。


「残念」


 美味しいお酒や料理を楽しんで、パーティーは最高だった。



 * *


 パーティーで生存確認をされてしまったせいか、厚顔無恥にもガードラスの領地まで金をタカリに来たクソ親父。


 この入れ替わりの最中にである。

 馬鹿め、目に物見せてくれる。


「貴方はソファの後ろに隠れていて下さい」

「えっ!?」


 強引に屈ませ、長椅子の後ろに隠し、上から自分が纏っていたマントをバサリと被せた。

 ごめんなさい。


「君……」

「シー、静かに」

「……」


 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「入れ」


 私はソファの上で旦那様の長い足を組んで偉そうに言った。


 クソ親父が出て来た。

 型通りの挨拶の後、早速自分で売った娘との面会を図々しく求めて来た。


「あの、閣下、娘のサーシャは?」

「頭痛がすると言うので、休ませている。話があるのなら私が代わりに聞こう」

「では、お見舞いを」


「許可しない、貴様の顔を見ると吐き気がするそうだ。

何だ、あの、ボロい花嫁衣装は? 

持参金も辞退し、十分な支度金も渡してやったのに、ベールに至っては、破れていた。

辺境伯たる私の妻に相応しいのはボロを纏う者か? 侮辱も甚だしいな!」


「あ、あれは、その、娘はクラシカルなドレスを好んでおりまして、ベールに関しては、こちらの見落としで、申し訳ありません」

「何がクラシカルなドレスだ! 支度金を着服されたと泣いて訴えられたぞ」


「あ、あれは、あの娘はそういった狡い所がありまして、閣下の同情を買おうと、わざとベールを破ったりしたのかもしれません!」


「はあ? あくまでシラを切るのか。

先日も金を送れと手紙を寄越したのは貴様であろう」


「み、身内同士、窮地には助け合いを」


 クソ親父は卑屈な笑顔を浮かべている。


「博打なんぞでやらかした貴様らの事は身内などとは思わないで欲しいと言われている。

とにかく私は酷い侮辱を受けた。王に貴様の爵位剥奪を願い出るとしよう」


「な! たかだか古いドレスを持たせただけで爵位剥奪は無理でしょう!?」

「そう思うか? 国の守りたる私への侮辱行為をしたのだぞ?」


「お、お許し下さい」


 最早、顔面蒼白になっている、クソ親父。


「なんなら、領地戦でも行うか? 私は真っ先に貴様の首を落としに行って、その首は街中に晒してやるし、貴様の妻ともう一人の娘は我が妻を虐げ、亡き母君の形見まで奪ったと聞く。

捕らえて相応しい所へ送ってやる」


「ふ、相応しい所とは?」

「見た目しか取り柄が無いそうだから、娼館に送り、稼ぎは全て修道院や孤児院へ送る。

死ぬ前に人の役に立てるようにしてやろうという計らいだ」


「お許し下さい!! 娘へのあれは、しつけの範囲でして」

「躾で形見を奪ったり売り飛ばすのか、ふざけるな。

それに謝罪をするなら我が妻にもしなければな」


「サ、サーシャは頭が痛くて寝ているのですよね?」

「休ませているとは言ったが、寝ているとは言っていない」


 私はソファから立ち上がり、私の体で隠れたままの旦那様の元へ歩いていった。


 被せていたマントを取り払い、旦那様の魂の入ったサーシャ(私)を立たせ、クソ親父のそばに連れて行った。


「そ、そんな所に!?」

「いいから、さあ、謝罪を」


「……サーシャ、す、すまなかった」

「なんだ、その謝罪の仕方は、偉そうにソファに座ったままか?」


 クソ親父は、ビクリとして、慌ててソファから立ち上がった。

 だが、頭を下げない。

 まだプライドが邪魔をしているようだ。


 私は踵落としでクソ親父の頭部を床に叩きつけた。


「頭が高いだろうが。謝罪は床に頭をつけてからするんだ」

「も、申し訳ありません……」


 クソ親父は床に頭を伏せたままガクガクと震えている。


「……」


 サーシャ(私)の中の旦那様は何も喋らないけど、私を見て、頷いた。


「二度と、私の妻に関わるな、いいな?」

「わ、分かりました。しかし、爵位剥奪と、領地戦は何卒、お許し下さい」

「ならば、約束は違えるなよ」

「は、はい!」


 クソ親父は鼻血を流しながら、謝罪と許しを乞うて、帰って行った。



「城門には塩を撒いておけ!」

「は、はい!」


 私は勢いで執事に塩を頼んでおいた。

 嫌な客が帰った時に日本以外も塩撒くとかやるのかな?


「支度金を着服されたと、泣いて訴えられた記憶が無いのだが?

古いドレスや、破れたベールの件も、初耳だった」


 やっと口を開いたと思えば、旦那様にそう詰め寄られた。


「ドレスの件は、ジェイデン卿やメイラが新しいドレスを買いに、ドレスショップに同行してくれて、何とかなりました。

ベールもお金を払うつもりでしたが、ジェイデン卿が贈り物だといって、下さいました。

本当に親切な方達です」


 はあ、と私の顔で旦那様は深いため息を吐いた。


「それで、謝罪をさせて溜飲は下がったか?」


「はい、旦那様の姿で好き勝手に言って申し訳ありませんが、スッキリしました!」


「……ならば、良い。全く君には驚かされる」


 旦那様は私の顔でくすりと小さく笑った。

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